13
共和国のザンルートから大佐に貸してもらった車で砦の近くまで移動し、その後は発見されないよう街道は使わず、大佐に貰った地図を確認しながら脇道を進んでいた。
ここを進んでいくとちょうど砦の見張り台からは死角になる所に出るらしい。
しかもこの道は大佐の部下がたまたま発見したもので、砦の資料にも載っておらず見つかる心配はほぼないとのことだった。
「い、いよいよですね………」
「ああ。まさかいきなり戦争に巻き込まれるとは思いもしなかったが………終わらせないと帰れないしな。
腹括るしかねえだろ」
作戦時に砦があるのとないのとでは、成功率が大きく変わるだろう。
それにもしミラ大佐達が失敗すれば、勢いに乗った帝国軍は共和国のザンルートにも進軍してくるに違いない。
そうなれば当然、俺達も殺されるか捕まってロクな目にあいかねない。
それに………俺はちらっとユニの顔を見た。
帝国軍がこいつを狙っている以上、俺は絶対に負けるわけにはいかない。
《《………………》》
「どうしたお前ら?」
《いや、マスターが真っ当なことを考えておるのでな、驚いているのじゃ》
《…………同じく》
「…………あのな。
まあ良い、今回もお前らには負担をかけるがよろしくな」
《任された》
《…………了解》
クロとユキが少し嬉しそうな声で言った。
剣だけあって戦えるのが嬉しいんだろうな。
《…………この朴念人め》
《…………鈍感》
な、なんでいきなり罵倒………?
人の姿だったらジト目で見られてるであろう声色でいきなり罵倒され混乱する。
俺、何か悪いこと言ったか?
最近、この手の理不尽なことが多い気がする。
「……………そろそろだな。
全員、なるべく身を低くして歩くスピードを上げろ」
先頭を歩いていたフォンがそう指示を出す。
見るともう砦の姿がすぐ近くにあった。
いよいよか…………!
俺は雑念を一旦捨て、迫る戦いに向け精神を集中する。
師の教え通り、自分の体が戦闘用に切り替わったのを確認し、なるべく静かに移動する。
フォンはもちろんリリィもアカデミーで訓練を受けているので、ほぼ無音でしかし素早く移動している。
クーデリカはこちらが思っていた以上に慣れた様子で歩いていた。
あの動き、アカデミーとは別にそういう訓練でも受けてたのか?
「み、皆さん………早い、ですね………」
ふと気がつくとユニが俺達のだいぶ後ろをよろよろしながらついてきている。
しまった、ユニはアカデミーに入ったばかりの元々は民間人、配慮が足りなかったか。
リリィも気づいたようで、俺とリリィは歩くスピードを落としユニの隣に並ぶ。
「ユニちゃん、大丈夫?」
「す、すみません…………」
「いや、俺の配慮が足りなかった。すまん」
「私も………委員長なのに。
ごめんなさい………ユニちゃん」
俺達の謝罪にユニは首を振った。
「いえ………ついてきたのは私の意思ですから………。
だから気にしないで先へ行ってください」
「馬鹿野郎、お前は帝国に狙われてんだぞ。
俺達が先に行ってもし帝国兵が出てきた時にどうすんだ」
「でも………」
「それに言ったろ、俺はお前を守ると。
だからお前を置いて先に進むなんてのは絶対に有り得ねえよ」
「……………っ!!」
俺の言葉にユニは顔を赤くさせ、下を向いて俯き小声で囁く。
「ず、ずるいですよ………普段はちゃらんぽらんなくせに………」
「?すまん、よく聞こえなかったんだが」
「き、聞こえなくて良いんです!」
何故か急にユニは怒ったように返し先へ進む。
「な、なんなんだ………?」
「ルー君はもっと女心を知った方が良いと思うよ?」
「なんだそりゃ………。
まあ良い、リリィも疲れたらすぐに言えよ、お前は戦闘には向いてないんだからな」
「私は大丈夫だよ?」
「お前になにかあったら世話になったおばさんとおじさんに申し訳ない。
それに俺もお前に傷ついて欲しくないしな」
「…………もう、ルー君は………そういうこと言うから誤解されちゃうんだよ?」
「?」
「おまけに本気で分かってないんだよね………」
リリィは嬉しそうな、拗ねたような微妙な表情でため息をつく。
「お前達、そろそろ静かにしろ。
敵がいるぞ」
「あ、ああ。
悪い、分かった」
リリィに思いきって俺の何が悪いのか聞こうとしたが、後回しにするしかなさそうだな。
フォン達がいる茂みから少し顔を出して砦を見ると、相変わらず重そうな鎧を着た帝国兵が二人、ダルそうな様子でお喋りをしていた。
『はあ………ったくあの獣もどきども、無駄に抵抗しやがって。
おかげで帰れなかったじゃねえか』
『だよな。大人しく狩られてれば良かったものを』
『だがこの砦も落ちた。
後は本陣だけだ、すぐに終わるだろう』
『そうだよな。
なんせあの不気味な奴はともかく、あの方が来てくれたんだもんな』
帝国兵はすっかり勝利を確信し、油断しきっていた。
「さて、どうする?
俺達の役目は砦の部隊の目を、大佐達から逸らすことだ」
「つまりこそこそ侵入しては意味がないんですね?」
「ああ、少なくとも大佐達が横を通っても気づかないぐらい俺達に注目させないとな」
これが砦の破壊ならクロの能力で砦を斬り裂けば終了するんだが。
あくまで大佐から受けたのは砦の奪還、砦を真っ二つにしろとは言われてない。
「ふむ、ならばこうしよう」
フォンは呟くや否や立ち上がり
「爆龍炎!」
ドゴオオオオオオオオンッ!!
フォンが放った炎はまっすぐ砦に向かい、見張りの帝国兵もろとも砦の外壁を吹き飛ばした。
そして砦の中から『な、なんだ!?事故か!?』『敵の襲撃か!?』といった怒号が聞こえ始め、砦の中が騒がしくなる。
今の爆発はきっと進軍している大佐達にもよく聞こえただろう。
「行くぞ」
フォンが壊した外壁から中へ入り、その後にクーデリカも続く。
「よし、俺達も突入だ!」
「うん!」
「はい!」
俺達は未だ混乱している砦の中へ突入した。
ーーーーーーーーーーーーー
『く、くそ!
なんだ、このガキども!?』
『こ、攻撃が当たらねえ!?』
俺達は砦へと入ってすぐに内部にいる帝国兵の制圧を開始した。
帝国兵達は混乱して状況が飲み込めてないようで、俺達にとっては非常に有利な状況だった。
「炎爪!」
高熱を纏った炎の爪に鎧ごと切り裂かれた帝国兵が崩れ落ちる。
「こっちだ!ブリザード!」
俺はクロの能力で敵を翻弄しつつ、隙を見てユキで攻撃を繰り返し敵の数を減らしていた。
まさに神出鬼没な俺に帝国兵は狙いをつける間もなく倒れていく。
「ふう………こっちは終わったぜ」
「こちらもだ」
フォンと二人で敵を倒し終え一息つく。
ここまでは順調だが、そろそろ敵も本格的に迎撃をしてくるはずーーー
『いたぞ!あそこだ!』
『貴様ら、生きて帰れると思うなよ!!』
俺達の前後を挟むようにして帝国兵が現れた。
数は………前に六人、後ろに四人か。
帝国兵達は逃げ場を塞いだことで油断しているのか、すぐに距離を詰めずじりじりと近づいてきている。
恐怖を与えているつもりなんだろうが、生憎挟み撃ちなんて俺にとって何の意味も持たない。
「クロヒメ!」
俺は斬り裂いた空間に入り、後方の帝国兵の後ろに出る。
『なっ!?一人消えーー』
「凍刃!」
そのまま素早く帝国兵四人を斬りつけ凍らせる。
『ば、馬鹿な!?』
前方にいた帝国兵達が挟んでいたはずの俺が後ろの帝国兵を倒したことで動揺する。
『くっ、あのガキをーー』
「おっと、俺に目を向けてて良いのか?」
『なに…………!!』
帝国兵達が気づいた時にはもうフォンは懐へと潜り込んでいた。
「爆炎牙!」
振りかぶった足を地面に叩きつけ爆発を起こし、帝国兵をまとめて凪ぎ払う。
「ふう………流石にもう襲撃はバレてるか」
「ああ、今からは本格的に迎撃してくるだろう」
この砦は元々は共和国の物だが、今日始めて来た俺達より向こうの方が内部を熟知しているだろう。
思わぬところから奇襲を受けないように気をつけないとな。
「よし、慎重に進むぞ」
俺達は辺りを警戒しながら砦を上へと登っていく。
「大佐さん達、大丈夫でしょうか………?」
「あの人なら大丈夫だと思うぜ。
それに陽動も成功したしな、今頃街にいる奴ら、慌ててんじゃねえか?」
ーーーーーーーーーーーーー
『あーあー、こちら異常なし、異常なし………ったく、暇だなぁ』
『気持ちは分かるがよ。
ちゃんとやっとかないと隊長に怒られるぜ?』
『けど勝ち戦でなんでこんなところで見張りしてなきゃいけないんだよ。
あー、ムカつく、おい後でここの適当な奴捕まえてぶっ殺そうぜ』
『そりゃあ良いな。
よし、もうすぐで引き継ぎだ、それまで頑張ろうぜ』
『ああ。…………………ん?』
帝国兵の一人が街の前に広がる草原を見て首をかしげる。
『どうした?』
『いや、なんかあそこで動いた気が………黒っぽいような灰色のような』
『そりゃお前、アレだ。
この辺に住んでる動物じゃねえか?』
『それにしちゃなんか変なものが付いてたような』
『変なもの?』
『ああ、長い棒みたいな………そう、まるで砲塔ーーー』
ヒュンッ ドカアアアン!
突然自分達がいる外壁のすぐ近くが爆発し、帝国兵達は狼狽える。
『な、なんだ!?ガス爆発か!?』
『いや違う!見ろ、アレは………!!』
目を凝らすまでもなく、徐々にその姿がはっきり見えてくる。
さらにその後ろからも続々と同じような形をした物がこちらに向かってきている。
『きょ、共和国の魔導戦車!?』
『と、砦の奴らは何してるんだ!
敵襲!敵襲だーーーーー!』
ーーーーーーーーーーーーー
『調子に乗るなよガキどもめ!』
『ここが貴様らの墓場だ!』
砦の部隊を順調に制圧していた俺達だが、広間に出たとたん帝国兵に四方を囲まれた。
俺達の進路を読んで待ち伏せしていたらしく、囲むと同時に四方から同時に銃撃を開始した。
咄嗟にリリィが水で半円状に膜を作ってくれたが、このまま銃撃が続けばいずれは壊れてしまうだろう。
「リリィ、大丈夫か?」
「うん………でもこのままじゃ………」
《わしの能力で向こうに回ればどうじゃ?》
「いや、敵の数が多すぎるし、流石に何回か使ったから向こうも何人か後ろを警戒してる。
アレじゃあ後ろに出た瞬間、蜂の巣にされて終わりだ」
今、帝国兵達は何人かずつで銃撃をして、リロードの時は別の何人かが変わる、という戦法を取っている。
リロードの瞬間も狙えないし、さっきから弾を持ってきている補給部隊もいる以上弾切れも期待できない。
砦にある弾が尽きる前にこっちがやられるだろうし。
「なあ、お前ら何か打開策思いつかねえか?」
「思いつかないな」
「わ、私も…………」
「すみません、私もです」
「…………」
「お前はせめて何か喋ってくれ………」
やれやれ、完全に手詰まりだ、さてどうしようかな………?
途方に暮れたその時、砦のスピーカーからガガーと雑音が入り、切羽詰まった男の声が聞こえ始めた。
『砦にいる全部隊に告げる!
占拠したザンルートが共和国の奇襲を受けたとのこと!
すでに街にまで侵入され防衛隊は苦戦中!
さっきからひっきりなしに救援要請が来てる、早く侵入者を片付けて出撃用意だ!
繰り返すーー』
『奇襲だと!?
まだそんな戦力がーー!?』
『まさかこいつらは陽動ーー!?
俺達は嵌められたのか!?』
放送を聞いた帝国兵達は狼狽え、銃撃の嵐も止んだ。
「ーーー今だ!
白銀の世界に誘え、ダイヤモンドダスト!」
その隙を逃さず俺はユキを地面に突き刺した。
瞬間、広間が一瞬にして凍り一気に気温を下げる。
「フォン、頼んだ!」
「任せろ」
フォンは大きく息を吸い込み
「はあっ!」
四肢に炎を纏わせた。
凍った床がフォンの足の熱気で溶けて白い煙を噴き出している。
「炎脚!」
フォンは凍った床を滑るようにして部屋の中を縦横無尽に走り回る。
たちまち溶けた氷で視界が真っ白になった。
『な、なんだ!?
何も見えんぞっ!?』
『お、落ち着け!
奴らも条件はーーーぐはっ!』
『ど、どうしーーぎゃあっ!』
一人の悲鳴を皮切りに次々と悲鳴が上がる。
フォンが走りながら次々と敵を殴り付けているのだが、動揺した所に視界を奪われた帝国兵達はパニックの頂点に達していた。
あちこちで殴り合う音、怒号が聞こえ煙が晴れた時には帝国兵のうち、8割が戦闘不能になっていた。
『貴様らぁ………!!』
「はっはっはっ、油断してるからだバーカ!」
包囲網も崩れ余裕ができた俺はここぞとばかり帝国兵を挑発する。
「る、ルークあまり調子に乗らない方が…………」
「いやいや、もう敵の戦力は頭打ちだろ。
この程度の人数なら負ける気がしねえよ」
『そうはいかんぞこの化け物どもめ!』
「へっ…………」
ガションガションという音にまさかと思い振り返れば、階段の上から数機のストライカーが降りてきた。
おまけにこの砦の司令官であろう一人だけ兜ではなく、帽子を被り士官の服を着た男のストライカーには、対拠点制圧用の重装備がされてある。
「……………冗談だろ?」
『散々調子に乗りおって……!
くたばれーーーー!!』
司令官はそう叫び、味方が巻き込まれるのもいとわずストライカーの重機関銃を放つ。
動けない帝国兵達は、銃弾を浴び次々と死んでいく。
『し、司令!
なにを………ぐわあ!』
『ぎゃああああ!』
『た、助けてくれ………ごふっ!』
『司令!まだ味方が………止めてください!』
「うるさいこの役立たずども!
たった四人のガキに砦を奪われましたなんてこと上にバレたらどうなるか!
私の立場を考えろ!」
司令官は血走った目で部下に言うと、他のストライカーとともに左アームの武器を持ち上げる。
それはーーー!
「グレネードだ!
伏せろーーーーーーーー!!」
「木っ端微塵になれーーーー!」
そう言ってストライカーから次々とグレネードを射出した。
くそ………!防御も回避も間に合わーーー
「………………狙撃」
ドオオオオオン!
「ぐわあああ!?」
『司令!?』
しかし、グレネードは発射された直後、爆発を起こしグレネードを発射したストライカーを巻き込む。
他のストライカーが爆発する中、司令官のストライカーは運が良いのかすぐには爆発せず、煙が吹き出しバチバチとショートする音が聞こえる。
「な、なんだ………?
暴発か?」
クーデリカの声が聞こえたが………
振り向くとクーデリカは二挺の拳銃を持っていた。
「クーデリカ………まさか、これで発射された直後のグレネードを撃ったのか?」
「…………………そう」
「そ、そうって………」
高速で放たれるあんな小さいものをしかも複数捉えたってのか…………。
その腕前よりそれを当然のごとく言うクーデリカに呆れた視線を送る。
「ひいいいい!?誰か、誰か助けろ早く!」
男の悲鳴に振り向くと、司令官の男が今にも爆発しそうなストライカーから何とか脱出しようとしていた。
しかし、誰も動こうとはしない。
「な、なにをやっている!?
早く助けろ!
助けた奴は私の側近にしてやるぞ!」
『司令………あんたには愛想が尽きた。
死んだ仲間達に土下座してくるんだな』
部隊の隊長らしい男が言うと司令官は絶望した表情になった。
「そ、そんな………!?
嫌だ、死にたくな」
ボンッ!とストライカーが爆発し、乗っていた司令官ともども四散する。
まあ自業自得ってやつだよな。
「で、あんたらはどうする?」
隊長の男に聞くと男は両手を上げた。
『…………投降する。
だが部下の命は保証してくれ』
「それは大佐達が判断するからな。
俺達じゃ保証はできない」
誤魔化しても仕方ないので事実を伝える。
『…………それでも良い。
どちらにしろ我々にはもうお前達と戦える程の戦力はない』
それは向こうも分かっているらしく、素直に言葉を受け止める。
「さて、それじゃ早速大佐達に連絡をーーー」
「それは困りますねぇ」
俺の声を遮るように男の声が聞こえたかと思うと、何かが猛スピードで走ってきて、帝国兵の一人に食らいついた。
『う、うわあ!?
なんだ、こいつ』
ブチィッ!と何かを噛み千切る音がし、その帝国兵は動かなくなった。
俺は帝国兵の死体を貪っているソレに目を向けた。
「な、なんだこいつ………!?」
ソレは異様な姿だった。
見た目は人間だが、目は死人のように濁り、焦点も定まっておらず、歯が異常に鋭い。
クチャクチャと何かを咀嚼しているその口からは、赤い液体がポタポタと垂れ落ちている。
「うっ…………!!」
「こ、これは…………」
その姿を見たリリィとユニは、口を押さえて後ずさる。
「見るな二人とも!
こいつは俺とフォンで………」
「ウオオオオオオン!」
突然、ソレが空を仰いで吠える。
すると、上と下から次々と多少の違いはあれど、同じような奴らが現れ、近くにいる者に襲いかかった。
『ぎゃあああ!
やめろ、離せぇ!!』
『止めてくれ!食わないでくれ!』
『だ、誰か!助けーー』
たちまち、辺りが血が飛び散る地獄絵図と化す。
「な、何だってんだよ………?」
呆然とその様子を見ていると、一匹が俺に気づき牙を剥き出して襲ってきた。
「グルオオオ!」
「ちっ、クロ!」
身を横に反らし牙を避け、すれ違い様に両足を斬りつける。
両足を斬り飛ばされたソレは、勢いのまま床に倒れ込んだ。
「よし、これでもう動けないはず………」
《マスター!》
クロの声に振り向くと、ソレが半分なくなった足を無理矢理動かし俺に飛びかかってきた。
「っ!氷棺!」
ユキを突き刺し、全身を瞬時に凍らせると流石に動かなくなる。
「なんだこいつ………痛みを感じないのか?」
両足を斬り飛ばしたんだ、普通なら痛みで動けないはず…………。
人の姿をしているだけにすごく不気味だ。
「そうだ!ユニとリリィは………!!」
二人がいた方に振り向くと、クーデリカが襲いかかってくる奴らの攻撃をかわしながら、的確に銃弾を急所に叩き込んで倒していた。
だが流石に数が多く、拳銃の火力じゃ追いつかない。
「クロ!」
《承知!》
剣を振って裂け目に入り、クーデリカに気を取られている敵の真後ろへ。
「氷棺!」
2、3匹にユキを突き刺して全身を凍結させる。
「グル………?」
俺が現れたことで俺とクーデリカのどっちを狙うか迷ったようだ。
そしてそれは致命的な隙だった。
「クーデリカ!」
「…………了解」
その隙を逃さず、俺とクーデリカは同時に挟むようにして攻撃を仕掛ける。
知能は高くないようで、抵抗させる間もなく鎮圧は完了した。
「何なんだこいつら?
帝国の兵器にしちゃ味方襲ってたし」
辺りを見渡すと、生き残っていた帝国兵は全員こいつらに襲われて息絶えていた。
辺りにはおびただしい血が飛び散り、凄まじい匂いを放っている。
「お前ら大丈夫か?」
「だい………じょうぶ……」
「…………うう、吐きそうです…………」
ユニとリリィは極力辺りを見ないように上を向きながら答える。
女の子にはやっぱりキツいよな………俺でも少し気分が悪くなるし。
「クーデリカは?」
「…………慣れてるから」
「?おう、まあ無理はすんなよ」
“慣れてる”という言葉に少し引っ掛かるが、今は聞いても多分教えてくれないだろうし止めとこう。
「…………無事だったか」
帝国兵の死体の向こうからフォンが歩いてきた。
特に疲れた様子もなく平気な様子だ。
「向こうの方は片付けた。
こっちはどうだ?」
「ああ。こっちも片付けた。
ってか、お前一人でやったのかよ………」
こっちは数が少なかったにも関わらず、クーデリカとの二人がかりだったのに。
まあそれはともかく
「ちょっとハプニングがあったけど、砦は制圧したってことで良いんだよな?」
こいつらが何なのか気になるが、あの司令が放ったんだろう、部下の命も軽視してたしやりそうではある。
その時、大佐から渡された通信機から音が鳴る。
「はい、もしもし」
『ミラウェルだ。
こちらは終わった、そちらはどうだ?』
どうやら大佐達も街での戦いに勝利したみたいだな。
「はい、こっちも終わりました。
帝国の新兵器っぽいのが出てきて大変でしたけどね………」
『ふむ?まあご苦労だった。
今からそちらに合流する、少し待機していてくれ』
「了解」
通信機が切れたので服のポケットに仕舞う。
「大佐さんから?」
「ああ、向こうも終わったらしい。
今から合流するから少し待っていてくれってさ」
「え…………この中で、ですか?」
「わ、私も………嫌かも」
ユニとリリィは待つという言葉に嫌そうな顔をした。
「奇遇だな、俺もだ。
まあ、ここから動かないでくれって意味だろうし、外でも良いだろ」
「そ、そうですよね!
早く外に出ましょう!」
「よ、良かった…………」
俺の言葉にホッとした顔を見せるユニとリリィ。
フォンとクーデリカに視線を送ると、二人とも頷く。
「よし、それじゃとっととこんな辛気臭いとこからーー」
「おいおい、もう帰るのか?」
外に出ようとした所で、男の声が聞こえた。
その瞬間、凄まじい殺気が階段の上から放たれる。
「なっ…………!?」
その殺気を浴びた途端、体から冷や汗が噴き出し、体中が小刻みに震え出す。
な、なんだこの殺気…………!?
あの疾風と対峙した時にもこんな殺気は…………!!
思う通りに動かない体を無理矢理動かして、声の方に顔を向けるとそこには二人の男が立っていた。
一人は白衣を着たいかにも研究者っぽい男。
眼鏡をかけたその男は俺達を面白そうな顔でへらへらと笑いながら見ていた。
その隣には二振りの太刀を腰に差した白髪の長身の男が立っていた。
そして殺気はこの男から放たれている。
「おい、どうした?
あの疾風と殺りあったんだろ?
この程度でビビってる訳じゃねえよな?」
男が荒い口調で俺達に話しかける。
二振りの太刀………そしてこの白髪………まさか………!?
「お前は………まさか“白閃”のゼクト……………!?」
「ああ?俺のこと知ってんのか?
まあどうでも良いがな」
そう言って白髪の男は片手で太刀を1本抜き、だらんとやる気無さそうに構える。
「さて……てめえら纏めてかかって来い。
本気で来いよ、でないと……あっさり殺っちまうからなぁ!」
殺気がさらに膨れ上がる。
さっきとは比べ物にならない殺気に俺はとんでもない間違いをしていたことに気づく。
さっきまで俺が殺気だと思っていたのは、ただこの男の漏れ出しただけの、本人は殺気とすら思ってない物だったということに。
「ど、どうするんですかルーク!?
この人、何か人間じゃなさそうな気配がビシビシ伝わるのですがっ!?」
「…………いまの俺達では手も足も出ないだろうな」
あのフォンも流石に匙を投げるか。
確かに俺達じゃ傷一つ負わせることができるかどうかも怪しい。だが
「…………戦おう」
「ほ、本気なの?ルー君」
「もちろん、ガチンコする訳じゃない。
大佐達があともう少しで来るはずだ。
それまで時間を稼げれば………」
どうせ逃げても逃げ切れないだろうし、それだったら持てる力を振り絞って、時間稼ぎをした方がまだ生き残る確率は高くなる。
幸い、相手は本気で俺達を殺すつもりはなさそうだし、時間稼ぎぐらいなら出来るかもしれない。
俺の言葉にリリィ達も覚悟を決めた顔で頷く。
「良いか、これからとにかく時間を稼げ。
前に出るな、回避を重点にしてあいつの間合いに絶対に入るなよ。
必ず生き残る!行くぞ!」
「「「「了解!」」」」
ーーーーーENDーーーーー