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ワールドウォーズ  作者: ブラックシュミット
11/20

10

教官達の気まぐれによる休日が終わり、授業が再開してから俺達は帝国との関係が悪化したこともあり、より実戦的な訓練を受けることになった。

そして、今日やる訓練は「魔法の実戦訓練」、その名の如く、魔法を使って戦場で戦うための技術を教わるのだ。

自然、俺達はいつもより緊張して教官の言葉を聞いていた。

「………というわけで、今日は魔法の実戦訓練を行う!

それにはまず魔法というものを教えなければな。

ルーク!前に出ろ!」

「えっ!?はい」

いきなりの名指しに戸惑いつつも前に出る。

「お前今はあの剣達は持ってないな?」

「ユキとクロのことですか?

はい、今はあっちにいますよ」

俺は人の姿になって一緒に授業を見ているユキとクロを指差した。

「よし、ならお前はこいつを使え」

教官が投げてきた何かを受け取る。

それは帝国兵の一般装備である銃だった。

形状はアサルトライフルという万能型の種類だ。

「今から私とそれを使って戦ってもらう。

だが私は素手、さらに」

教官はグラウンドを歩き、かなり離れた所で止まった。

「この距離から戦いを始める」

当然、銃が有利なのは言うまでもない。

「良いんですか?」

「ああ、ついでにその銃には訓練用のゴム弾を入れてある。だから本気で来い。

もし私に攻撃を当てれれば、お前の貯まっている宿題をチャラにしてやる」

訳の分からない展開に戸惑っていたが、その言葉に俺は目の色を変える。

「………その言葉、忘れないでくださいよ?」

「ああ、当てれたらな」

教官はそう言うが、武器も何も持ってない上にこれだけ距離が離れているんだ。

さらにアサルトライフルの連射速度と命中速度なら、いくら教官でも一発ぐらい当たるだろう。

「よし、今から始めるが良いな?」

「いつでも!」

俺は試し撃ち代わりに教官に向かって発砲。

教官はひょいっと軽く身を動かしてかわす。

しかし、アサルトライフルの性能の恐ろしさはここからだ。

パパパパと俺はフルオートに切り替え連射する。

「はーははは!いくら教官でもこれは避けれまい!」

俺は勝利を確信し、高笑いしながら「ルーク、悪役です」「ルー君、帝国兵みたい………」教官の動向を見守る。

しかし教官は焦りもせず迫る銃弾を見据えると

「ライジングムーヴ!」

フッといきなり姿がかき消えた。

「なっ!?どこにーーー」

ゾクッと後ろに気配を感じ、咄嗟に後ろに発砲。

銃弾は教官をすり抜けーーすり抜けた!?

「私はここだ」

冷たい声は上から聞こえてきた。

「くそっ!」

俺は銃を上に向けるが、それより早く教官が手を突き出した。

「コールド!」

魔法が発動し、銃が徐々に凍り始めた。

「うおっ!?」

咄嗟に銃から手を離した俺の横にいつの間のか教官が回り込んでいた。

「しまっ」

「サンダーパンチ!」

バチィッ!!

「ぎゃああああああ!?」

教官に殴られた瞬間、強烈な静電気のような衝撃が体を走りさらに吹き飛ばされて地面を転がる。

ふしゅ~と煙を出しながら地面に横たわる俺を教官は一瞥し

「とまあ、これが魔法を使える者と使えない者の差だ。

魔法使いにとって距離などあってないような物。

武器も同じ、魔法を纏わせた拳等は銃より遥かに強い。

身体強化の魔法を使えば尚更だ」

「あ、あの教官………それよりルー君、大丈夫なのですか……?」

「大丈夫じゃないか?

死んではないと思うが」

『ルーク………惜しい男を亡くしたぜ』

『安心しろ、お前の意志はちゃんと俺達が継いでやるからな!』

『だから安心してユニさんと委員長とユキちゃんとクロちゃんを俺達に預けな!』

「て、てめえら………人を勝手に殺すな………!!」

俺は痺れが残る体で何とか立ち上がる。

「というか教官!

これだけのために俺を指名したんですか!?」

「そうだが?」

「そうだが?じゃねえ!

俺は訓練用のカカシか!?」

「何を言ってる?

そんなわけないだろう」

「え?」

教官は笑顔で

「お前はカカシより丈夫じゃないか。

おかげで助かってる」

「そっちかよおおおおお!

てか、カカシより丈夫ってどういうことだこらっ!?」

アカデミーや軍の魔法の練習に使うカカシは、対魔コーティングがされており、魔法に対して凄まじい抵抗力を備えている。

並の魔法使いなら一生使い続けられるというカカシより人間の俺が丈夫だなんてことが「攻撃を受けてすぐに立ち上がれるのは丈夫だと思いますが………」あるはずない!!

「というかコレ虐待だろ!

学院長に訴えてやるからな!」

「虐待?何を言ってるんだ、コレは愛の鞭だ。

それにお前も内心は喜んでるんだろう?」

「俺はMじゃねえ!!」

「さて、無駄話はこれくらいにして授業の続きだ。

このように熟練した魔法使いなら帝国兵など敵ではない。

しかし、魔法使いにも弱点がある。

まずひとつは魔力を使うため、使える回数には限りがあるということ。

帝国兵の兵器のように補給さえ受けられれば永続的に使えるというものではない。

よって戦場において我々は長期戦は必然的に不利となる」

………無視した上に話を進めるとは。

俺はもう教官に反論するのは諦め、トボトボと列に戻っていった。

「実際過去には戦いが長引いたために、敗北した戦いもある。

その経験から軍人は、魔法と同時にある技術を習得することを義務づけている。

それは………フォン、答えろ」

「はい、体術、剣術などの武器を用いた技術です」

「そうだ。魔法が使えなくなった時にも戦えるよう一定以上のレベルで武器等を扱えることが今の共和国の必須スキルだ。

剣も魔法も極めた一部の人間などは、武器と魔法とを組み合わせて戦う。

有名どころで言うと“風剣”の名は聞いたことがあるだろう」

クラスの皆が憧れを顔に浮かべて頷く。

「ルーク、風剣という人はそんなに凄いのですか?」

「凄いなんてものじゃねえよ。

あの疾風と生身で渡り合っていた人だ」

俺の言葉にユニは「あ、あの人ですか?」と驚いた顔をした。

「そうそう、あの人は共和国だけでなく他国………もちろん、帝国にも名前を知られてるからな」

帝国と戦っている国からは信頼と尊敬、帝国側の国からは畏怖といったところだ。

「じゃああの人があの大きい機械と戦ってたのは普通じゃなかったんですね」

「当たり前だ、普通はこっちも魔導兵器なり、大規模な部隊で緻密な作戦を組んで戦うような相手だ」

まして相手が名将なら。

断じて一人で戦えるような相手じゃない。

「そうですよね」

ユニは納得したように頷き、教官の話に耳を傾ける。

「まあアレは例外だが、お前らも生身でストライカーぐらいは相手できるようにはなってもらうからな」

教官の言葉にクラスメイト達が口々に『おお!』『やってやるぜぇ!』と気合いを発する。

こいつらは相変わらず暑苦しいな………。

「よし、というわけで今からお前らには詠唱無しでの魔法発動をやってもらう。

今日はできなくても良いが、次の授業までには簡単な攻撃魔法と、身体強化の魔法はできるようになっておけ」

次って………明日なんですが。

「よし、始め!」

教官が号令するとクラスメイト達は、バラバラとグラウンドの各所に散っていった。

程なくしてドオンッ!!ドカンッ!!といった爆音や轟音が響き始める。

「ルー君、一緒にやろう?」

「私も良いですか?」

「ああ、良いぜ。

お前らの魔法、しっかり見といてやる」

俺がそう言うとユニは首を傾げた。

「ルークはやらないのですか?」

「ふっ…………俺にとっては簡単すぎてやる価値も」

「マスターは魔法が使えんだけじゃ」

「何で言うんだよバカ野郎!!」

余計なことを言ったクロを睨み付けるが、クロは意にも介さず魔法が吹き荒れるグラウンドを面白そうに眺めていた。

「え?ルークは魔法が使えないのですか?」

「いや………まあ、うん」

「何故ですか?何か理由が?」

「あー………それは、だな」

「…………不器用なだけ」

「不器……用………?」

「だから何で俺が言う前に言うんだよお前ら!」

ユキも睨み付けるがクロと同じで以下同文。

「むー………?さっぱり分かりません」

「ユニちゃん、要するにねルー君は魔法のイメージができないんだよ」

疑問符を頭一杯に浮かべていそうなユニにリリィが説明する。

「イメージ………ですか?」

「うん、魔法を使うにはイメージ力が大事なんだよ。

魔法は自分の魔力をイメージした通りに撃ち出したりする技術だから」

「………つまり想像力が足りないと………」

そう言いユニが俺の方に向く。

「………ああ、そうだ。

俺みたいにイメージ力が貧相だと魔法は形を成さず、発動できない」

「る、ルー君、自分を卑下するのは良くないよ」

「………まあとにかく俺は魔法を使えないということだ」

そう言って俺は話を打ち切る。

そして一番簡単な「ファイア」を試してみるが………やはり発動しない。

まあ良いや、使えないものは仕方ない。

「そうじゃ、マスターには我らがいるではないか」

「…………気にしない」

クロとユキの励ましに感動しかけるが、元々の原因を思い出してやめた。

とりあえずこいつらは今日激辛スイーツの刑だ、帰ったら覚えとけ。

と、心の中で復讐を誓い、リリィ達の訓練に目を向ける。

「アクアウォール!

ヒーリングスプリング!

ウォータードール!」

リリィは次々と詠唱無しでの魔法を発動させていた。

「流石リリィだな」

「っ!?教官ですか………」

いきなり横に教官が現れ驚く。

「しかし、リリィ。

攻撃魔法は使わないのか?」

教官の指摘にリリィは少し苦笑いをした。

「はい………攻撃魔法はその、苦手で………」

「……………ふむ、まあお前は魔法の発動が早い上に、効果もちゃんと出ている。

今は良しとしよう」

教官の言葉にホッとした顔をするリリィ。

「ーーーで、お前はまだ魔法を使えないのかルーク?」

教官が俺の方を向いた。

実戦で使う方法は今日が始めてだが、初歩的な魔法は今までの授業で教えてもらっている。

そして、魔法が使えないのは俺一人だけだった。

「はい、今回もダメでした」

「お前はお前で、武器を使った授業は問題ないからな。

今回も多目に見てやる。

全く、お前らは足して2で割ったら丁度いいんだがな」

教官が冗談混じりに言う。

「そうは言いますけどリリィは使わないだけで、俺は使えないんですよ?」

「…………ふむ、まあそういうことにしておこう。

さて、そろそろ新顔がやるか?」

教官の言葉でユニに視線を移す。

「すみません、魔法のイメージってどういう風にやるのですか?」

「えっとね、まずは簡単なのからしよう。

火の玉を思い浮かべてそれを大きくするイメージをしてみて?」

リリィの言葉通り、ユニが目を閉じて集中し始める。

「そういえば、ユニが魔法使うの今日が初めてでしたっけ?」

「ああ、入ってきたばかりだし、アカデミーも先日のゴタゴタでバタバタしてたから、新人に魔法を教えるほど時間がとれなかったからな」

そう思うとドジで天然でおっちょこちょいなユニがどのくらいの才能を持ってるか少し気になる。

見ると、他のクラスメイト達も自分の練習をやめ、ユニの魔法を見物しようとしていた。

「むむむ………段々イメージ出来てきました!」

「じゃあそれを撃ち出す………」

リリィの言葉が止まる。

「ん?おい、どうしーーー」

俺も声をかけようとするが、同じく絶句する。

何故なら目の前に火の玉が現れたかと思うと、それが見る間に一気に家ぐらいの大きさになり、しかもまだ大きくなっている。

『お、おい!?

アレヤバくね?』

『嘘だろ、あんなのが当たったら校舎がほとんど吹き飛ぶぜ!!』

クラスメイト達もざわざわと事態の異常さに狼狽え始めた。

そこでやっとユニも目を開け、自分の近くにある火の玉をーーーいや、今や縦幅は校舎と同じくらいになった火の玉を見て焦った声を上げる。

「ちょ、な、何ですかコレっ!?

私、もっと小さい可愛らしい火の玉をイメージしていたのですが!?」

「なにっ?ということは魔力補正か?」

教官が驚愕する。

魔力補正というのは、イメージした魔法より自分の魔力が高かったり、低かったりすることで起こる現象で、普通は自分の魔力より高い魔力を必要とする魔法をイメージし、発動できなかったりイメージしたものよりも弱くなったりすることを指す。

高い場合は逆に強力になるのだが、それも普通の人が使うより少し威力が上がったりする程度、今のユニみたいにイメージした小さな火の玉が校舎ほどの大きさになるなんて聞いたことがない。

おまけに火の玉はまだ膨張を続けている。

まるで巨大な風船を膨らませているかの如く。

「ユニ!その魔法を制御して安定させろ!」

「せ、制御ってどうすれば………!」

「くっ、ユニに魔法の基礎を教えてやれなかったのが裏目に出たな………!!」

教官が舌打ちする。

「ユキ、アレ凍らせられるか?」

「…………あの大きさだと凍るのに時間がかかる」

「ならどのぐらいならいける?」

「…………あの半分ぐらいなら」

「よし、ならクロヒメ!」

「了解じゃ!」

俺は剣に戻ったクロとユキを手に持ち走り出す。

「はっ!」

クロを一閃し火球を二つに斬り裂き

「シラユキ!」

《…………これならいける》

「よし、凍刃!」

続けてユキを二つになった火球に二度振り凍りつかせる。

「ふー…………なんとかなったか」

完全に凍りついた火球を見て安堵する。

魔力という形無いものでも凍りつかせられるユキでなければこうはいかなかったろう。

もちろん、同じく魔力だろうとなんだろうと、それが存在する空間ごと対象を斬り裂けるクロもいなければ出来なかった芸当だ。

「……………」

ユニは呆然とした顔で地面に座り込んでいる。

腰が抜けたのかもしれないと思い、俺はユニに近づく。

「ほら、立てるか?ユニ」

「わ、私………」

「気にすんな、大丈夫だから」

「で、でも………」

ユニは不安そうにクラスメイト達を見回す。

クラスメイト達は顔を俯かせて一言も発してなかった。

その様子にユニが悲しそうな表情を浮かべる。

恐れられた、そう思ったのかもしれない。

そんなユニに俺は笑いかける。

「大丈夫だって」

「でも皆さん、黙ったままでーーー」

『『『『うおおおおおおおおおおおおおおお!!』』』』

突如ユニの言葉を遮るような大音量でクラスメイト達が叫んだ。

ユニはびくぅっ!!と思いっきり体を跳ねらせ、今度はさっきとは別の怯えた表情でクラスメイト達を見回す。

『すげえ!あんな大きさのファイアなんてみたことねえ!』

『しかも魔力補正の上位変換だぞ!?』

『あんな可憐な容姿なのに大魔導師クラスの魔力も持ってるのかよ!

完璧すぎる!』

口々にユニに称賛を送るクラスメイト達。

「ええと………?」

「な、だから言ったろ?

こいつらみたいな単純明快かつ深く物事を考えない奴等に恐れなんて言葉はねえよ」

「…………それ遠回しにバカって言ってませんか?」

「それにな………」

俺は少々照れ臭いが、今度はきちんと言葉に出してユニに伝える。

「俺達は“家族”だ。

お前に何があろうが、どんな存在だろうが俺は絶対にお前を信じる。

リンド家家訓その十『家族は何があっても信じ続けろ』。

だからお前も何があっても俺を信じれば良い。

今みたいに何が起こっても俺が何とかしてやる」

我ながら大言を吐くと思う。

インテリジェンスソードを持つとはいえ、それはユキとクロの力であり、少し剣術が扱えるだけのただの学生だ。

だが俺は自分の力が及ぶ限りユニの助けになる、あの日ユニを帝国の手から救ったとき、そしてユニがウチの家族になったときからそう誓った。

「ルーク…………」

ユニが潤んだ目で俺を見つめーーー

「あー、イチャイチャするなら家か人気のないとこでやってくれるか?」

「「だだ誰がイチャイチャしてるんだ(ですか)っ!?」

教官の言葉に同時に否定する俺とユニ。

教官は俺達二人の言葉に「あー、はいはい」と適当に返しながら続ける。

「これにて今日の授業は終了だ。

各自、今日習ったことをよく覚えておくこと。

それとルーク、リリィ、フォン、ユニの四名は私と一緒に学院長の所に行くぞ」

…………はい?

ーーーーーーーーーーーーー

数分後、俺達はアカデミーのやたら長い廊下を教官に付いて歩いていた。

「教官、そろそろ教えてくださいよ。

何で、学院長が俺達を呼んだのか、あと何でこのメンバーなのか」

「つけば分かる」

またか、さっきから質問しても教官はこればっかりだ。

「なあ、お前はなにか知らないのか?」

俺は教官に質問するのは諦め俺達の中で一番詳しそうなフォンに聞く。

しかしフォンも俺の言葉に首を振った。

「いや、俺も何も聞かされていない」

フォンにも聞かされてないのか………なら、つくまでは分からないみたいだな。

それにしても気になるな………この編成。

この間の帝国軍の奇襲の際に組まれていた班と全く同じというのが、なにか作為的なものを感じる。

………まあ、偶然かもしれないし気にしすぎることもないか。

俺はそう自分を納得させ、教官についていく。

「よし、ついたぞ」

教官が並ぶ扉の中でも、一際豪華な扉の前で立ち止まる。

上にあるプレートには「学院長室」と書いてあった。

「つきましたか、なら早速ノックしてーーーー」

ドゴッ!!

俺がノックしようと扉に近づく前に、教官が扉に魔力を纏わせた拳を叩き込んだ。

「ちょ、教官!?」

当然の如く扉は教官の拳によって中へと吹き飛ぶ。

「やあ、君達が例のごはっ!?」

そして中にいた学院長であるだろう人物に直撃した。

椅子ごとばたーんと後ろに倒れる学院長を見て、青醒める俺とリリィ。

「だ、だだだ大丈夫ですか!?」

「教官…………ついにトップの抹殺を企むなんて………!!」

「…………ふ、ふふふ」

倒れていた人が机に手をかけ起き上がる。

「あ、相変わらずね……アデーリア………」

そう言いながらよろよろと椅子に座り直す。

深緑色の長い髪にバランスの良い体、綺麗なお姉さんという感じの若い女の人だ。

この人が学院長……?

もっと厳めしいおっさんを想像してたんだが。

それにこの変人だらけのアカデミーの長にしてはマトモそうに見えるが…………。

そのお姉さんは教官に視線を向けて口を開く。

「そういえばアデーリア。

給料明細まだだったわよね?」

「ああ、そういえば今日だったか。

さっさとよこせ」

「はい、じゃあこっち来て」

教官が机に近づいた瞬間

「ポチッとな!」

ボンッ!!

突然机からギミックアームが飛び出し、教官の腹にめり込んだ。

不意を突かれたからか、教官はあっさり吹き飛ばされて俺達の横の壁にぶち当たる。

「「「………………」」」

もはや言葉も出ない俺とユニとリリィ。

「やったやった!いきなり人にドアをぶつけた罰よ。

そもそも学院長の扉を吹き飛ばして学院長に当てるなんて非常識にもほどがあるわよ、反省しなさい」

いや、あなたも学院長の机にギミックアーム仕込むなんて非常識です。

「さて、よく来てくれたわね君達。

知ってると思うけど私がこのアカデミーの長、シーナ・サフィリアよ。

今日は君達にお願いがあって来てもらったのよ」

吹き飛んだ教官を無視して話を進める学院長。

この二人仲悪いのか?

教官は何事もなかったかのようにスッと立ち上がりもとの場所に戻った。

「お願いとは?」

フォンが今のやり取りに一切動じず聞く。

「ふふ、それは…………」

「簡単に言うとお前らで各国の情勢を探って欲しい」

学院長が言う前に教官が言った。

「ちょ、ちょっと!?

私今日のこの瞬間のために、昨日三時間セリフ考えたのよ!?」

「それは良かったな、三時間の努力が水の泡だ」

「良くないわよーーー!!」

学院長がバァン!と机を叩き憤慨する。

それをニヤニヤ笑いながら見る教官。

「あー………すみません。

各国の情勢をって………どういうことですか?

街で聞き込みをしてこいってことですか?」

「ほらほら、生徒がお前の説明を待ってるぞ。

早く説明してやれ学院長(笑)」

「くっ…………あんた覚えてなさいよ………!」

学院長がギリギリと歯軋りしながら教官を睨み付け、俺達に向き直る。

「このアホの言うことはちょっとざっくりしすぎて分からなかったわよね。

もうちょっと詳しく言うと、あなたたちを独立部隊にしたいのよ」

独立……部隊?

「それはつまり………このメンバーで部隊を組んで、各国を回って情報収集してこい、と?」

「そうそう。あ、ちゃんと期間とか、大体何の情報を集めるとかはこっちで決めとくから安心して良いわよ?

そのかわり下手すると戦うことになるかもしれないけど」

さらりと言う学院長。

「あの………戦うとは?」

「もちろん、何故かあなたを狙ってる帝国兵やその国の軍隊、場合によっては傭兵などなど………」

「ちょ、何をやらす気なんですかっ!?」

「大丈夫、大丈夫。

なんせ支援が得意で特に回復魔法に関しては学年でトップクラスの実力を持つリリィちゃん、遠距離も近距離もできる優秀なフォン君、希少なインテリジェンスソードを持つルーク君、そして比類なき魔法の才能を現したユニちゃん、君達がいれば大抵の無茶はできるよ。

というわけで早速今週末に行ってもらいたい所を………」

「まだ承服してませんけど!?」

「ちなみにこれは私からの依頼、という形にするからちゃんと報酬に達成点もあげるよ?

普通の依頼よりは多目に出すつもりなんだけど」

「ぜひ、やらせてください!」

学院長の出した条件に思わず飛び付く俺。

その様子を呆れた顔で見ながらユニが「依頼とはなんですか?」と質問する。

「そうか、君は入ったばっかりだからまだあまりここのルールを知らないんだよね。

依頼というのは街の人や、軍の人たちからのお願い事だよ。

内容はただの雑用から、どこどこの基地を制圧してとか、中には直接そのまま、戦争に参加して欲しい、というのもあるよ」

「戦争にですか!?

でも………危ないような気がします」

「もちろん、アカデミーでもちゃんと依頼をランクで分けて、そのランクに相応しくない人の依頼受注はないようにしてるよ。

無闇に人材を消費する余裕は今の共和国にはないからね」

ユニの質問に学院長が答える。

「報酬と達成点とはなんですか?」

「報酬はその名のごとく、依頼を達成すると貰える物で、お金や人によっては武器やなにもなし、ということもある。

まあ大抵は依頼を受けてもらうために何かしらは用意してるんだけど。

達成点は簡単に言うと成績だね。

将来君達がどこか………まあ、軍関係になるだろうけど、に就職するとき今まで受けた依頼とその評価も一緒に出すんだよ。

当然、依頼を数多く受けて、さらにきちんと達成できてる人が有利なのは言うまでもないね?

逆もまたしかり、受けた依頼をきちんとこなさなかったら不真面目な人間だと思われて就職に不利になるからね」

「………………」

学院長の言葉を聞いてユニがじ~と俺を見る。

ま、まさか、この依頼を受ければ授業多少サボっても問題ないぜひゃっほう!と思ったのがバレたのか!?

「ふ、ふふふ。

ユニよ、成長したな………」

「?なんですかいきなり」

「さて、こちらの話は終わった。

あとは君達の意見を一応聞いておこうか」

学院長が俺達に視線を送る。

ん?一応?

「一応とは?」

「うん、実はこれ政府からの依頼なんだよね。

だから、君達が行きたくなかろうが強制的に行ってもらうことになる」

「政府からの?」

一介のアカデミーに政府から直接依頼があるなんてのはあまり聞いたことがない。

有名な所や、政府直轄のアカデミーならともかく。

「政府が俺達を指名したってことですか?」

「いや、君達を選んだのは私だよ。君達も知っての通り、三年生は就職、二年生は三年へ向けて依頼を受けてる子がほとんどで忙しい。

それで、一年生の中からバランスを考えて選んだのが君達なんだよ」

なるほど、無作為に選んだわけじゃないんだな。

「それにユニちゃんはまだ身寄りが分からないんだよね?

各国を回っていったら、もしかしたらユニちゃんを知ってる人に会えるかもしれないよ?」

「学院長………」

ユニのことを考えて………俺達に依頼を回してくれたのか。

「もちろん、この依頼受けます!」

「私もです!」

「元より断る気はありません」

「わ、私も………ユニちゃんのためなら」

俺達の答えに学院長は満足そうに微笑んだ。

「じゃあ正式な書類は後日届けるから、よろしくね」

「そういえば、一応部隊として活動するんですよね?

部隊名とか決まってるんですか?」

「そのこと?もちろんよ」

学院長は立ち上がり、俺達の部隊名を告げた。

「君達の部隊の名はーーーホルス。

神の目の如くの働き………期待してるわよ?」

学院長はそう言って笑みを浮かべるのだったーーー。

ーーーーーENDーーーーー

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