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「(…………朝か)」
昨日は結構遅くまで騒いだから滅茶苦茶眠い…………今日は休みだしもうちょい寝ようか………
ふにっ
「ん…………」
…………あ?何だ今の柔らかいの…………
「ほわああああああああああああああああああ!?」
布団を覗き込んだ俺は眠気も吹っ飛び、思わず奇声を上げた。
「な、な、な、何でてめえがいるんだユニいいいいいいいいいいっ!?」
俺はあらん限りの声で叫ぶ。
俺の布団の中には穏やかな寝息を立てて眠っているユニがいた。
おまけに昨日が暑かったからかユニは薄着で寝ていた。
つまりさっき手に触れたのは布一枚越しのむ…………
「うおおおおおお!?
それ以上考えるな俺!
つかいい加減起きやがれええええええええ!!」
こんな所クロやユキ、ましてやナギサに見られたら………!!
ガチャっ
「兄さんおはーーー」
「マスターさっきから大声を出しておる、が…………」
「…………うるさーーー」
まさかの三人同時……だと。
和やかに入ってきたナギサ達は俺の布団で薄着で寝ているユニを見て固まった。
「に、に、兄さん………何してるの………?」
「マスター………流石に手が早すぎではないか?
せめて、もうちょっと親交を深めてからの」
「………変態」
「ち、違う!
聞かないだろうけど言い訳させてくれ!」
「うん、聞かない!」
ナギサはそう言うと大きな魔力の塊を作り
「このド変態ーーーー!!」
「やっぱりこうなるのぶべらっ!?」
ーーーーーーーーーーーーー
「ったく、朝っぱらから散々な目にあったぜ………」
結局ナギサが話を聞いてくれたのは、俺をボコった後だった。
「それは大変でしたね………」
と、横で他人事のように言うユニ。
このやろ…………頬を思いっきりつねってやろうか。
「他人事みたいに言ってるけどな、お前が俺の布団に入ってたことがそもそもの原因なんだぞ?
なんで、わざわざ俺の布団に潜り込んだ?」
「と、言われましても………寝てるときのことなんて覚えてないですよ」
「よし、分かった。
とりあえず頬引っ張りの刑な」
「何故ですかっ!?」
「お前のその能天気な面見たら引っ張りたくなったんだよ」
「いひゃい!いひゃいです!
おうふぉうです!」
おー、よく伸びる、どこまで伸びるか試してやろうか。
「あの………目が怖いれす………」
ユニが何故か本気で怯えてきたので手を離してやる。
心底ホッとしたように息をつくユニを見て少し溜飲が下がったので、まあこの辺で許してやろう。
「さーて、今日はうちで一日ゴロゴロダラダラ過ごそうか…………」
理由はともあれせっかくの休みだし、今日は布団から出ないことにしよう。
と呟き、自分の部屋に戻ろうとするとクイッと軽く袖を引っ張られる。
振り向くとユニが俺の袖を軽く握り、言いたいことがあるけど言い出しづらいような顔をしていた。
「?どうしたユニ?」
「あの…………心苦しいのですがお願いが…………」
お、ユニが自分からお願いをするなんて珍しい。
ユニは性格からか、自分のことは後回しで他人を優先する傾向にあるからな。
「なんだ、何でも言ってみろ。
俺が出来ることなら喜んで手伝うぜ?」
「……………実は」
にこやかにユニの頼み事を聞いていた俺は、ユニが話す内容を聞くにつれ段々と顔を引きつらせていき
「あのクソ教官がーーーーーー!!」
と、教官への怒りをぶつけるのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
数十分後、俺とユニは街へ出ていた。
「すみません…………」
「いや、お前は悪くない。
悪いのはあのアル中だ」
申し訳なさそうにしているユニに言い聞かせるように言う。
ユニのお願い事とはこうだった。
『服を一緒に買いにいってもらえませんか?』
当然、俺は聞いた教官と一緒に買いに行かなかったのかと。
第一発見者の俺の担当ということで、ユニが学校に泊まっている間は教官がユニの保護者代わりだったのだ。
俺の質問に対してユニは言った。
『教官さんは帰りがいつも遅くて………』
『なら休みの日とかは?
あったろ、確か』
『その日は頭が痛かったそうで………一日中寝てました』
………絶対二日酔いだな。
『私一人ではこの辺の地理が分からないですし………そろそろあの格好で寝るのも恥ずかしいです』
『あの格好って…………』
『服は洗濯してますので、もちろんーーー』
『よし、今すぐ買いにいくぞ!!』
聞いたら色々とヤバい気配を感じたので、ユニの言葉を遮り無理矢理連れてきた。
「ったく、あのアル中教官は。
今度二日酔いしてたら耳元で叫んでやる」
その後は、生死をかけた鬼ごっこが始まるだろうがな。
「さて、じゃあ服屋に行こうか?
その後、飯食って帰るつもりだがそれで良いか?」
「はい。お願いします」
「よし、なら早速行こうか。
っと、そうだユニ。
他にも何か買いたいものはあるか?
アカデミーに来てから何も買ってないんだろ?
俺はこう見えて金は持ってるから遠慮しなくて良いぜ」
親父が色んなダンジョンや遺跡から取ってきたガラクタの山は、見る人が見ればどれも貴重な物らしくどれもこれも高値で売れる。
そんなガラクタの山が、うちには倉庫一個分あるので金がなくなることはまずない。
そんな説明をユニにすると
「では何故家はあんなにボロいのですか?」
と、質問してきた。
「親父の遺言なんだよ。
他はどうなっても良いから、家だけはあのままにしてくれってな」
思い出のある家がなくなるのは嫌だったのか、別の理由かは今はもう分からないが、その親父の遺言に従って俺とナギサはあのままにしている。
中身は変えたけどな流石に、
老朽化した床を踏み外したことが何回かあったし。
「………なるほど、そういう理由があったんですか」
「ああ、そういうことで別に無理を言ってるわけじゃないから遠慮するなよ?」
「はい、分かりました」
………まあ、と言っても素直に欲しいとは言わないだろうな。
俺の方からもそれとなく勧めるか。
そんなことを思いながら服屋に向かって歩いていく。
途中、道行く人(主に男)からユニは何度も見られていた。
やはりその容姿が目立つのだろう、逆に俺は道行く男から憎しみのこもった眼を向けられるが。
「そろそろ着くな。
買うのは服だけか?」
「いえ、その……出来れば下着も………」
「ぶっ!?」
ユニの思わず吹き出す俺、と同時に周囲の男からの殺気が一段と濃くなる。
「ま、待て待て。
もしかして………それもないのか?」
「いえ、教官さんがいくつか自分のをくれたのですが、私には正直似合わないので………」
「似合わないって………」
「大人の人が履くような物なんです」
ユニが…………大人が履くようなようなのを…………
「って考えるな俺ーーーー!?」
何とか理性をフル稼働してギリギリの所で煩悩を追い払った。
しかし、弱ったな………服はともかくそれは流石に俺にはハードルが高い。
くそ、こんなことならナギサ達に付いてきてもらうんだった。
しかし、ナギサ達には服を買うだけだからとすでに言ってしまっている、だからといって今さら買うの止めようとも言えない、くそ一体どうすれば………!
と、リリィに気づかれないように葛藤していると
「あ、ルー君だ。ユニちゃんもいっ」
「リリィやっぱお前は最高だ!」
この上なくタイミングの良いときに幼馴染みが現れ、思わずそう叫んだのだった。
ーーーーーーーーーーーーー
リリィも服を買いに来たらしく事情を説明すると快く承諾してくれ、俺達は三人一緒に服屋に行くことになった。
俺は別のところで待つよう提案したのだが、遠回しにリリィに拒否され渋々ついてきた。
「行くのは女の服のとこだろ?
男の俺が行ってもしょうがないと思うんだが………」
「ううん、やっぱり私以外の人の意見も聞きたいの。
ごめんね、ルー君」
「いや頼んでるのは俺だからお前が謝らなくても良い」
俺がそう言うとリリィはホッとした顔を見せ
「………それにルー君に服を見てもらいたいし………」
「ん?俺が何だって?」
「な、何でもないよ!?」
小さく何かを呟いたので聞き返すと、何故かリリィは真っ赤になって慌てて否定する。
?まあ何でもないなら良いや。
俺達は軽く雑談しつつ服屋へと向かう。
「そういえば、シロちゃんとクロちゃんは来てないんだね?」
「ああ。ナギサがいるからな。
今頃家で仲良く遊んでるだろ」
「ナギサちゃんも休みなんだ」
「そうなんだよ。相変わらず俺のことは嫌ってるみたいでな。
昨日から散々な目にあわされた」
まああれはユニにも原因がないとは言えないが。
「…………ルー君、ナギサちゃんがルー君のことを嫌ってると思うの?」
「そうだろ、多分。
嫌いじゃなきゃあんなにつっけんどんにならねえよ」
「……………」
俺の言葉にリリィが何か言いたそうな顔をしているような気がするが、気のせいだと思うことにした。
「あ、ここだよ」
ユニが立ち止まったのは女性専門の服屋だった。
当然中には女性が多く、あとはカップルと思われる男女が何組かいるだけだった。
「………なあ、やっぱり俺も行かないとダメか?」
「やっぱり私だけじゃ不安だからルー君もいてくれた方が助かる………けど、嫌なら無理にとは………」
「あー、分かった分かった。
行きます、行きますよ」
俺は若干緊張しながら店内に入る。
やはりと言うか、店内の女性と店員さんからの視線を感じる。
『あの男の子、女の子二人も連れてるわよ』
『しかも両方とも幼くない?
ロリコンなのかしら?』
『ロリコンで二股なんて救えないわね』
『しかも冴えない顔してるのに二人とも可愛いわよ。
どんな手を使ったのかしら』
……………
「…………ごめん、俺トイレ行ってきて良い?」
「意外に打たれ弱いんですね」
「意外ってなんだ。
俺の心はガラスのハートなんだぞ弱いんだぞ」
「…………そう、ですね………」
「せめて目を見て言ってくれ!」
あと心底思う、ユキとクロを連れてこなくて良かったと、確実に趣味がアレな人と思われていた。
「ルー君、お店の中で騒いだらダメだよ」
「す、すまん…………」
リリィに注意され渋々引き下がる。
その後リリィ達は服を選びに店内の奥へと入っていった。
俺はとても奥には入る気にはなれず、入り口付近で落ち着きなくキョロキョロと辺りを見渡したりしていた。
なんか今の俺、はたから見ると完全に不審者だな………。
リリィとユニ、早く戻ってこないものか………いや、リリィのあの行く前の顔、生き生きしてたな。
アレはナギサがユキとクロに服を買うときと同じ顔だった。
そしてその場合、ガチで1時間かかる時がある。
特にユニは服には疎そうだし、リリィの言うまま色んな服を着るだろう。
まあ頼んだのはこっちだし、俺がユニの服を見繕うよりはマシだからな、このぐらいは我慢するか………。
「………邪魔」
そんなことを考えてると後ろから女の子の声がする。
「あ、すみません」
俺は慌てて横に避け、相手に振り向いて謝る。
その子は俺を一瞥すると、少し驚いたような表情を浮かべた。
「あなたは………」
「ん?どっかで会ったか?」
俺の質問に女の子は答えず店内へと入っていった。
「なんだったんだあの子?」
短い銀髪のクールそうな顔を思い浮かべながら記憶を辿る。
うーん、やっぱり覚えがないな…………。
「ルー君、ごめんなさい!
待たせちゃって!」
お、やっと来たか。
リリィ達の方に振り向き………そのまま固まった。
「ど、どう………かな?」
「遠慮なく感想を聞かせて下さい」
リリィは水色のワンピースの上に白色のカーディガンを羽織っており、ユニは白色のセーターに薄水色のロングスカートを履いていた。
どちらも二人のイメージに合っていてとても似合っている。
「あ、ああ………。
二人とも凄い似合ってるぜ。
特にユニ、その格好だと少しは大人っぽく見えるなお前」
「む、失礼ですね、私あなたと同じ年なんですよ」
ユニが口を尖らせる。
そういうところが子供っぽいというのに気づいてないんだろうか。
しかし、本当に二人とも可愛いな。
それは店内や店を通りかかった人(主に男)がちらちらと二人に視線を送っていることからでも明らかだろう。
「えへへ………ルー君に誉めてもらえた………」
「?リリィ、顔が赤いぞ?」
「えっ!?これは、その、きょ、今日は暑いから!」
あたふたとした様子で顔を真っ赤にしたリリィがパタパタと手で顔を仰ぐ。
確かに涼しいよりは暑いといった感じだが、そこまでじゃないけどな。
もしかしてリリィのやつ………暑がりだったのか。
それは知らなかった、幼馴染みの新たな一面を見つけてしまったな。
「………」
ユニがなにか言いたげな顔をしているが、言わないならそれほど重要なことじゃないんだろう、それよりもう腹が減った。
「二人ともそろそろ飯にしないか?
俺もう腹が減りすぎて死にそうなんだ」
「はい、私もペコペコです」
「リリィは?」
「わ、私も一緒で良いの?」
「なに言ってんだ、良いに決まってるだろ?」
「でも………」
「でも?」
リリィが恐る恐るといった様子で口を開いた。
「ルー君とユニちゃんはデート中じゃないの?」
リリィの言葉を理解するのに十数秒かかった。
「……………はあ!?な、なんでそんなことを!?」
「だ、だって昨日学校で…………」
リリィが頬を染める。
昨日のというと………ああ、あのユニの天然発言か………。
「いや、この際だから言っておくが、俺とユニはそういう関係じゃない。
大体俺は年上の大人なお姉さんが好みなんだ、断じてロリコンではない!!」
ユキとクロがまぎわらしい姿をして、「マスター」などと呼ぶからしょうがない部分でもあるが、俺の趣味は至って普通である。
「良かった………」
リリィは何故かホッとした顔をして、その後に自分の体を見て「大人なお姉さん…………」と、呟いてため息をついた。
どうしたんだ一体………はっ、まさか思ったより服がキツかったのか?
「ルーク」
「ん?なんだ?」
「私と付き合ってるとロリコンになる理由を説明して欲しいのですが」
「分かった、鏡持ってくるから少し待ってろ」
「その返答で大体言いたいことは分かりましたよ!」
ユニがパシパシと俺の背中を叩く。
「まあまあ、落ち着けって。
そんなことより飯食いに行こうぜ、もう腹が減って死にそうなんだ」
と言い、俺は店のカウンターでリリィ分の服代もまとめて払う。
「あっ………!良いよ、ルー君!自分のは払うから!」
「いやユニ分のついでだから気にすんな。
うちがお金に困ってないのはリリィも知ってるだろ?」
「で、でも」
「それにユニの服も選んでくれたしな。
正直俺が選ぶことになってたらかなり精神的にキツかっただろうから、そのお礼だ」
服だけならまだしも下着も選ぶことになってたら恐らく色々と起きてたに違いない。
それを回避できただけでもリリィにはこの程度じゃ足りないほど恩がある。
「う、うん………分かった。
でもいつか必ず返すからね」
うーむ、リリィにはいつも助けてもらってるし気にしなくて良いんだがなぁ。
本人の性格だししょうがないか。
俺達は近くの定食屋で昼飯を食べ、ついでに街を見て回る。
「ルーク、あれはなんですか?」
「ああ、あれは共和国の東にあるテーマパークのマスコットキャラだな」
「テーマパーク?」
「テーマパーク知らないのか?」
「はい」
共和国で最も有名な単語を知らないとは………。
「テーマパークっていうのは色々な遊ぶ物があるところだ。
俺も昔一回だけ家族で行ったことがあるが、遊ぶところが多すぎて一日じゃ回りきれなかったな」
「1日では回りきれないほどあるのですか!?」
ユニが驚愕の声を上げる。
その顔はキラキラと好奇心に満ちた顔をしていた。
「あ、私も何回か行ったことあるよ。
確かにあそこは凄いよね、何て言ったら良いんだろう………共和国の魔導技術の結晶みたいな場所だよね」
「そうだな、何せ魔導関係で高名な人達がノリノリで作った所らしいからな」
そのせいでレベルが高すぎて、他のテーマパークに客が一切行かなくなってしまったという話もあるぐらいだ。
「凄いですね………いつか、行ってみたいものです」
ユニの言葉に顔を見合わせる俺とリリィ。
共和国に住んでる人間なら誰もが一度は行ったことがあるテーマパークに、ユニは行ったことがないようだ。
………
「………なら今度休みがあったら行ってみるか?」
「え?」
「そんなに遠い訳じゃないし、金もある。
それに俺も久々に行きたくなっちまった」
本当にあそこは1週間通いつめても回りきれないぐらい広いし多いからな。
こいつが今までどんな人生を送ってきたかは分からない、ユニの言動から察するにあまり良い人生を送ってはなかったかもしれない。
だがそれなら俺は今までできなかった楽しいことをこいつに体験させてやる。
会ってまだ1ヶ月も過ごしてない関係ではあるが、俺は心の底からそう思っていた。
俺の言葉にユニは目を瞬かせ
「………良いのですか?」
「ああ。せっかくだし今日買った服でも着ていけばいいさ。
リリィはどうだ?」
「うん、私も大丈夫だよ」
トントン拍子で話が進むのをユニは驚いた表情のまま聞いていたが、理解が追いついたのか徐々に顔を輝かせ始める。
「ルーク、ありがとうございます!
私、楽しみにしてます!」
と言って花のような笑顔を見せた。
その無邪気な笑顔に改めて、今までの分こいつに幸せを与えようと誓ったのだった。
ーーー帝国第5研究所ーーー
「………で、奇襲に失敗しただけでなくEー000も取り逃がした、と。
お前はそう言ったのか」
薄暗い部屋の中で白衣の男が金髪の男………疾風を睨み付ける。
「………はい、申し訳ありません」
「ふむ、まあいい。
どっちみち本体の方はまだ完成に時間がかかる。
その間、せいぜい人間の真似事をさせておくのも一興だろう」
白衣の男はくっくっくっと笑うと疾風が提出した書類に目を通す。
「…………で、この目付きの悪い奴だったか。
Eー000を所有してるのは」
「………はい。その学生にはすでに学園に潜伏している部下に監視を命じております」
「まあその後の対応は悪くない。
それでギリギリ合格点としておこう」
男が尊大に言うのを疾風は恭しく「………ありがとうございます」と頭を下げながら言った。
「それにこの間の奇襲で玩具が大量に手に入ったしな。
共和国との戦争はどうでも良いが、研究費を減らされても困る。
当分はその玩具で共和国と遊ぶとしよう」
玩具、の言葉に疾風は白衣の男に悟られぬよう苦い顔をする。
よく目を凝らすと、部屋には鉄格子の動物を入れるような檻がいくつかあり、そしてその中には、人が入っていた。
男、女子供関係なく色々な年齢の人が恐怖に震えながら身を寄せあっていた。
その人たちは疾風の部下達がこの間の戦いで、この男に命じられて誘拐してきた共和国の人間だった。
その檻の一つに男が近づくと中の人達が「ひいっ………!」と怯えて後ずさる。
「おお、よしよし。
そんなに怯えなくても大丈夫だよ………すぐに怯えなんて感情もなくなるからねぇ!
さあ、楽しい楽しい人体実験をしよう!」
白衣の男が高笑いするのを疾風はこれ以上聞いておれず、「失礼します」と言って部屋から出ていった。
薄暗い通路を歩きながら疾風はあの不利な状況にも関わらず、自分に立ち向かいEー000を守りきった少年を思い出していた。
「………その覚悟、どこまで貫き通せるか見させてもらうぞ」
そう呟き通路の闇の中へと消えていった。
ーーーーENDーーーー