悲劇
「え、え?・・・うそ?お母さんが?」
宇木島はどうやら、あまり状況がつかめていないらしい。先生の方を向いて、目を見開いて突っ立っている。
「そうだ。お前の母さんだ。先生が病院まで送ってってやるから、早く来い!」
「そうだよ、荷物なんかは俺たちが持っていくから、お前は早く行け。」
先生や俺が話している間に、今起こっている状況が理解できたのか、宇木島は涙を浮かべながら先生と走って行った。
「俺たちも急ごう。」
そういって俺は宇木島が何か忘れてないか机を見た。
「そうだな、俺は鞄に教科書でも入れるよ。」
そうして俺たちは宇木島の後を追うように教室を出た。どこの病院かわからなかったので職員室の先生に聞いた。どうやら『根土』というところにある病院らしい。俺たちはその病院の前で止まるバスに急いで乗った。
何より空が心配だった。
しばらく、二人黙ってバスに乗っていた。あまりこうゆう重い空気は好きじゃない。
こいつもそうなのか、いきなり話し始めた。
「あー、朝の話の続き・・・なんだけどさ、最近起きてる事件って、ある法則性があるって知ってるか?」
「なんて言うか、情報ダダ漏れなんだな。」
「そうなんだよ、この法則もネットで拾ったんだよ。」
「で、その『法則性』って?」
「いや、そこまで詳しくは載ってなかったんだけど。なんでも、殺人は今日起こるらしい。」
「何だそれ。嘘くせぇ。」
俺は、わざと明るく返した。
「あーそれと、何人か目撃者がいて、その人達の話だと、そいつらなんかぶつぶつ言ってて、それが次の犯行現場の地名だったんだって。」
「ふーん。ってかお前空気読めよ。今その話するか、普通。」
いかん、つっこみが遅かった。
「悪い、これくらいしか話のネタがなくてな・・・。」
だが、正直、助かった。もし宇木島のお母さんが重傷だったら、どう慰めようか。なんて少し参っていた。
するといきなりバスが止まり、車内がざわつき始めた。
「な、なんだ?」
アナウンスが流れる。
『まことに申し訳ありませんが、前方にて事件のためしばらく停車します。』
事件・・・か。
「おい、聞こえたか?」
「へ?何が?」
「事件が起きて、バスが止まったらしいぞ。」
「そうなのか・・・、宇木島や先生はちゃんと病院いけてるかな?」
・・・・また重い空気になってしまった。
少しでも明るくしようと、俺は昨日の夜の話をしようとした。
「お前さ、『つちね』ってわか・・・」
この時、頭の中で、嫌な仮説ができてしまった。
「どうした?『つちね』?」
「あのさ、例の事件って、今日起きるかもしれないんだよな?」
「あ、ああ」
「犯人は、次の犯行現場の地名を言っているんだよな?」
「そ、そうだが・・・、それがどうかしたのか?」
「・・・・最悪だ。」
俺は走って運転席まで行った。
「運転手さん!ここで下してください!お金ならここに置いときますから!」
俺は千円札を両替機の上にたたきつけながら言った。
「ま、まぁお金を払ってくれるなら・・・。」
バスのドアが開く。
「ありがとうございます!」
俺はバスから飛び出ると、病院に向かって走り出した。
「間に合ってくれ。」
おそらく昨夜見た、おかしな集団は犯人。つぶやいてた言葉は『つちね』でなく『根土』!そしてあのバスが止まる次のバス停が、『根土病院前』。
「宇木島、無事でいてくれ・・・!」
少し走ると、商店街に人だかりが見えた。
「あれは・・・。」
人だかりに入ると周りで何か言っている。
「何なのあの化け物・・・。」
「警察はまだなのか・・・。」
いったいこの先で何が・・・?化け物?
俺は周りの人をどけて前に出た。
そこは商店街の大きな下り坂だった。下を見ると、何十人かの人影があった。
「あれは・・・宇木島!」
一番手前には宇木島の姿が見えた。だが、周りのやつらの様子がおかしい。おかしいくらいの前屈み・・・・。そうだ、あいつらだ。
鳥肌が立った。
すると、宇木島が倒れた、腰を抜かしているのか立つ気配がない。
「まずい!」
俺はまた走り出した。坂のおかげで足が軽い。
「これなら間に合う!」
その時。
バァン!
銃声と共に右足に走った激痛が、俺を転ばせた。
「・・・んなっ!」
俺は60メートルほどある坂から転がり、宇木島から5メートルほど離れた場所まで行った。
「てめー!な~に人様にぶつかってんだ?ああ!」
後方から俺を撃ったと思われる男の声が響く。
目を開けると宇木島がゾンビみたいなやつらに囲まれていた。
「なんだこいつら!」
体が動かない。左手がおかしな方向に曲がっている。
「たす、たす・・・けて・・・。」
宇木島が涙目で助けを呼んでいる。
「宇木島!立て!」
ついに宇木島はゾンビのようなやつらにつかまった。
「助けて!たすけて!助けて!」
するとやつらは、宇木島を食べ始めた。
「やめろぉぉぉぉぉ!」
「いだい!痛い!離して!いだいぃぃぃぃ!」
どんどんとゾンビ共は宇木島を食べてゆく。
「そらぁぁぁぁぁ!」
「いだい!いだ・・・・い・・・。」
空の声が止んだ。
「クチャグチャグチャ・・・」
「この・・・・クソッタレがぁぁぁぁぁぁ!」
妙な静けさのある商店街に、俺の叫び声が響く。
今回は少し残酷なところがありました。
でも、毎回ぐちゃぐちゃいうわけではないので、こういうのが苦手な方も読んでくれるとうれしいです。
・・・あとがきじゃ意味ないか?