オプチャではファイルが送れなかった。
オプチャではファイルが送れなかった。
なんのためなのかわからない規則。そういうものはどこにでもある。私服OKと書いていたはずのバイト先では、ピアスも金髪もバンドTシャツも禁止で、中学の時は第一ボタンを開けるのが禁止だった。
「ねぇ。」
「ん?」
ノートパソコンの向こうの彼女は、いつも通りショート動画の音を部屋中に響かせながら、いつまでも見慣れない美しい顔で僕を見ている。
「私がさ、浮気したらどうする?」
「浮気するような女の子とは、そもそも付き合わないよ。」
「そんなこと言って、高校の時の彼女に浮気されたんでしょ?」
彼女が、あの頃の僕の憂鬱を全て遠くに放り投げるような、そんな快活な笑い声で六畳の部屋を満たす。きっと僕が好きなのは、彼女のこういうところだと思う。顔も体型も、声も、なにもかもが好きではあるけども、僕のことを僕一人では絶対にたどり着けないところまで連れていってくれる。
「で、浮気してんの?」
「してるわけないじゃん。」
「ほんとに?」
「ちゃんと好きだよ。」
彼女はベッドの上から立ち上がって、ソファに座っている僕のことを抱きしめた。ピアスが彼女の柔らかい胸に沈む。
「この映画どんな話?」
「なんか映画監督になりたい大学生とその恋人が、今ニューヨークで雨の中喧嘩してるよ。」
「ニューヨークどんなとこなのかな。」
「寒いんじゃない?」
「だよね。寒そう。」
主人公がコートの襟を合わせるのを見ながら、彼女はそう言ってベッドに戻った。同じ柔軟剤、同じボディソープを使っているというのに、どんな花よりも芳しいその香りは、僕から離れていった。
「ねぇ、さっき見てた映画さ、」
「む?」
細く吐き出したタバコの煙の向こうで、彼女はほんの少しだけ目を細めた。
「サークルでやってるオプチャがあってさ、そこで「この映画、今彼氏が見てるんですけど、面白いですか?」って聞いたらさ、「この映画好きすぎて、似たようなのを隣の大学とのインカレサークルで作りました」って言ってた人が居るんだけど、PDFでもらった脚本見る?」
「んー。とりあえず、最後まで見て気に入ったら見せて。」
僕はそう言って、ビールの残りを飲み干した。
その映画は、少なくとも僕にとって何一つとして面白いと思える箇所がなかったし、オプチャではファイルが送れないらしいことに気がついたのは、彼女の声も顔も香りも、全てが曖昧な過去になった頃だった。




