秘密の町
森の小道を抜けると、アオイの目の前にまばゆい光が広がった。
そこには、これまで見たことのない町が広がっていた。
屋根の上を猫が歩き、煙突からは小さな火の玉がふわりと飛び出す。
壁に沿って小さな妖精たちが滑るように移動し、空を漂う植物が風に揺れて光を反射する。
「……わぁ……」
アオイは思わず声を上げた。目の前に広がる光景は、まるで絵本の中の世界のようだった。
モコはふわふわの体をくるくる回し、耳と尾をぴょこぴょこ揺らして言った。
「さあ、町に着いたよ。ここが秘密の町――誰もが知っているわけじゃない、ちょっと不思議な場所」
アオイは足を踏み入れると、地面が柔らかく沈むような感覚がした。草や石、そして町の小道が微かに光を帯び、歩くたびにほんのり温かい。
最初に出会ったのは、背の低い老人だった。白いひげを長く伸ばし、帽子に小さな星の飾りをつけている。
「おや、迷い人かい?」
「えっと……私はアオイです」
「ふむ、ようこそ、秘密の町へ。まずは町を案内してあげよう」
その後も、アオイは奇妙な住人たちに出会った。
壁を滑る小さな妖精たちが、手を振りながら案内する
庭でお茶を入れているのは、猫の姿をした紳士
透明な泡のような生き物が空中で踊りながら、花の水をまいている
「みんな……話すんだ」
アオイは驚きながらも、町の住人たちの優しい笑顔に胸が温かくなった。
モコはアオイの手に寄り添い、くるくる跳ねる。
「町の人たちは、怖くないよ。みんなこの町を守っているだけ」
アオイは町の奥まで歩きながら、目に映る奇妙な光景の一つひとつに心を躍らせた。
小川の水は虹色に光り、橋を渡るとき、橋板が柔らかく弾むように動いた。
「ここは……現実の世界じゃないのに、すごくリアル……」
モコはふわりと宙に舞い、光を放つ。
「そう、でもこの町で過ごす時間は、君の心にも現実みたいに残るんだよ」
アオイは小さな家々や店、広場を巡りながら、町の不思議な日常を体験した。
そして、ここでなら、怖がらずに自分の心を開ける気がした。
「モコ……この町、私の夏休みの全部になりそう」
モコは嬉しそうにぴょんと跳ね、光の尾をふわりと揺らした。
町の奥の広場では、子どもたちや小さな生き物たちが集まって、楽しそうに遊んでいる。
アオイはそっとその輪に入った。
町の不思議な空気と住人たちの優しさが、心を満たす。
初めて出会った日から数時間しか経っていないのに、アオイの心は少しずつ変わり始めていた。
怖がりで引っ込み思案だった彼女が、町の中で自由に動き、声を出し、笑うことができるようになったのだ。
「ここ……本当に魔法みたい」
アオイはふわふわのモコを抱きしめ、町の中心へ向かった。
そこには、まだ見ぬ不思議な出来事が、彼女を待っている――




