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【超短編小説】夢Dead⭐︎End精

掲載日:2025/12/18

 食堂でピザとハンバーガーをルートビアで流し込んだ後に、屋外喫煙所で煙草を吸っているときのことだ。

「え?みなさん毎週夢精しないんですか?」

 椅子に画鋲を置かれる対策としてケツに薄い鉄板を仕込んだ男はそう言った。

 おれたちは笑った。



 学生寮で暮らしているその鉄板ケツ男の部屋のドアは、酔っ払ったおれたちが投げつけた生卵で汚れていたし、世界はおれたちが投げ捨てた吸い殻で光っていた。

 だが煙草を投げ捨てるのは酔っているからじゃない。単に灰皿が無いからだ。


 別の男が、鉄板ケツ男の履いている真新しいスニーカーを踏んでから「夢精なんてしたことねぇよ」と答えた。

 実際におれも夢精なんてした事がない。

 おれたち精子はいつだって薄いゴムに遮られている。

 生麦未遂だ。

 アメ公どもの柔らかいチンチンとは違うことだけは覚えて帰ってくれ。


 そう、精子の話だった。

 おれたちの精子はコンドームに遮られるか、腹の上で凍死するか、薬剤に殺されたりする。

 そう言う意味で言えば未来はおれたちの手の中だ。



 しかし実際のところ、おれたちは行き止まりに向かっている。

 人生はそう言うものだ。

 薄いゴムの先端みたいに。

 防波堤の先みたいに。家系図の様に。

 つまり末代だ。

 何が遮っているのかって?

 それは自民党でも無いし、安倍晋三でもない。単におれたちの人生はそうだってだけの話だ。


「そうですか。みなさん、夢精はしませんか」

 スニーカーを踏まれた鉄板ケツ男は曖昧に笑う。

 だがド新品の男がする夢精は、暗い虚無に向かっているのに希望に満ちたニュアンスを含んでいる。

 気のせいだ。

 それはおれたちが薄いゴムに隔てられたセックスに対して絶望しているだけだ。



 だが鉄板ケツ男は曖昧に笑う。

「普通に夢精ってするもんだと思っていました」

 おれたちは工場の煙突みたいに煙を噴き出して笑う。

 新鮮な驚きと軽い嘲笑。

 微かな羨望と侮蔑のマーブル模様が浮かんで風にかき消される。



 鉄板ケツ男は笑っている。

 愛想笑い。迎合のそれ。

 それが順応なのか適応なのかは知らない。



 おれたちの行き止まりに向かったセックス、または死滅に向かう射精と鉄板ケツ男がすなる虚無に向かう射精との間に本質的な差は無い。 

「レス イズ モアの成れの果てだな」

 おれが投げた吸い殻は地面に当たって光る。



 おれたちはライ麦畑で遊ばずに精と子を倫理して遊んでいたからだ、仕方ない。

 高い塀。

 有刺鉄線。

 ギザギザの空。

 灰色の行き止まり。

 薄いゴムに似た景色。



「じゃあな」

 おれたちは手を振る。

「はい、行ってきます」

 鉄板ケツ男は答える。

 おれたちは行き止まりに向かって歩く鉄板ケツ男の背中を見ていた。


 誰かが煙草を投げると、鉄板ケツ男の背中に当たって光った気がした。

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