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Ⅷ:再会への準備

イザベルが自室へと戻る途中、ふと屋敷の雰囲気に違和感を覚えた。

普段は静かに働いているはずの使用人たちが、妙に忙しそうにしている。

その動きには、ただならぬ緊張感が漂っていた。まるで何かが迫っているような、見えない圧力が彼らを急き立てているかのようだ。


イザベルは足を止め、周囲をじっと見渡した。

行き交う使用人たちの目が、一瞬こちらをちらりと見る。その目は何かを隠そうとしているかのようで、イザベルの胸に不安を広げた。


(あまりにもあからさまね…。何企んでるんだか)


そのまま自室に戻ろうとしたが、彼女はある決意を胸に抱いていた。

これまでは流されるままだった自分。けれど今は違う。

これからは誰にも翻弄されず、自分自身の未来を切り開いていくと決めたのだ。


ふと自室の窓際に立ち、庭園に広がる美しい花々に目をやる。

自分の心は荒みきっているというのに、風にそよぐその光景は平穏で穏やかで、眩しいほどに美しい景色だった。


「綺麗だわ。…ほんと、嫌味なくらい、綺麗…」


そう思った瞬間、背後から軽やかなノック音が響いた。

振り返ると、メイドのアンヌが無表情なまま立っている。


(貴女にはこの前の出来事(使用人に私が注意した事)なんてお構いなしってことね)


アンヌはグレタの側近であり、彼女が姿を現す時はいつも良い知らせではない。

何かが動き出していることを、イザベルは直感で感じ取った。


「入室の許可なんてしてないわよ。何の用?」


イザベルは冷静に問いかけたが、その裏では警戒心が高まっていた。

アンヌの口から出る言葉が、何か重要な出来事の始まりを告げるものであることは間違いない。


「公爵夫人がお嬢様にお伝えしたいことがあるとのことです」


その言葉を聞いた瞬間、イザベルの心に微かな緊張が走る。

グレタが彼女に何を伝えようとしているのか、考えただけで胸がざわつく。


「後で伺うわ。下がって」


冷ややかな声で答えながら、イザベルはアンヌに背を向けた。

アンヌは一瞬、何か言いたげな表情を浮かべたが、すぐに黙って頭を下げ、部屋を出て行った。


イザベルは深く息を吐き、これからの対策を考え始めた。

グレタは冷酷で、狡猾な策士だ。イザベルにとって彼女は避けられない。いつかは向き合わなければならない。そして、今がその時なのかもしれない。


――――――


グレタの私室に足を踏み入れると、彼女はすでに優雅に椅子に腰掛け、イザベルを待ち構えていた。

まるでイザベルの動きを予見していたかのような冷静さで、彼女は微笑んでいる。その表情には、どこか挑発的な意図が垣間見えた。


「お前が来るのを待っていたわ、イザベル」


その言葉には、まるで捕らえた獲物を見下ろすような冷たさが滲んでいた。

イザベルは動じることなく、まっすぐに彼女の目を見据えた。


「何のご用でしょうか、お継母様」


彼女の声は冷静だったが、内心では警戒心がさらに高まっていた。

グレタが自分に何を求めているのか、何を企んでいるのか――それを見極めなければならない。


「ロレンス様が再びお前に会いに来るのは知っているわね。公爵家にとって、彼との婚約は非常に重要なこと。お前もそれを理解しているはず」


グレタの声は穏やかでありながら、どこか圧力を感じさせるものだった。

だがイザベルはその言葉に怯むことなく、心の中で反発する力が湧き上がるのを感じた。


「はい、存じております。…お言葉ですが、この婚約は取りやめるべきだと感じております」


その言葉を聞いた瞬間、グレタの表情が一瞬硬くなった。

だがすぐに、彼女は冷ややかな笑みを浮かべた。


「お前ごときが、偉そうに…何を言っているのかわかっているの?」


グレタは挑発的に言葉を投げかけ、イザベルの反応を楽しんでいるかのようだった。

しかし、イザベルは彼女の挑発に乗らず、冷静さを保ったまま答えた。


「私は、私の正しいと思った道を進みます」


イザベルの静かな返答に、グレタはしばらく彼女をじっと見つめていたが、やがて目を逸らし、書類に目を落とした。


「はっ…そんなこと言っても、お前は世間知らずな馬鹿な娘よ。お前になにができるというの?今までヘコヘコと全てに従ってきた、力のないお前が」


その冷ややかな言葉に、イザベルは胸の奥で怒りが静かに湧き上がるのを感じた。

だが彼女は感情に流されることなく、冷静に言葉を選ぶ。


「何故…そこまでして、ロレンス様と私の婚約に拘るのです…?」


その問いが、思わず口をついて出た。

グレタの表情がわずかに揺らぐ。その冷静な仮面の裏に、わずかな焦りが見え隠れした。


「お前は知らなくていいことよ。お前…気持ちが悪いのよ!突然人が変わったように…人を探るように動き回って、薄汚いネズミのように!」


グレタの声が突然高まり、その言葉には怒りの感情が込められている。


「それでも構いません。私は、精一杯足掻きますわ。お継母様を蹴落とす必要があったとしても。」


静かな言葉だったが、その背後には強い決意が込められていた。

イザベルは背筋を伸ばし、毅然とした態度でグレタに向かい合う。


彼女の冷たい視線が突き刺さるが、イザベルはそれを無視して部屋を後にした。

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