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Ⅲ:信頼への疑念と新たな選択

庭の風が、イザベルの長い髪をそっと揺らしていた。

手で髪を抑えながら、彼女は静かに歩を進める。

優雅な庭園は、咲き誇る花々と手入れの行き届いた緑に包まれているが、その美しさも今の彼女にとってはただの幻影のようだった。


(逆行前は、私は何も知らないただの世間知らずだった)


足を止め、彼女はじっと手元を見つめる。

小さく震える指先に、前世での自分の過ちが思い返される。


――かつて信じてきた者たちは、皆彼女を裏切った。

そして、力を欲して彼女を命の危機に追いやった。


(あの時、私は何も疑わなかった。ただ、周りの期待に応えて生きることが正しいと思っていた)


だが、その結果は悲劇だった。

彼女を取り巻く人々は、表向きは微笑み、内心では彼女を利用しようとしていた。

彼らが見ていたのは、イザベル自身ではなく、その「力」だった。


冷たい汗が背中を伝い、死の恐怖が再び彼女の心に蘇った。

胸が苦しくなるが、今の彼女は前世のような無力な少女ではない。彼女は冷静に自分を分析していた。

この新たに与えられた命をどう使うべきか。

味方が必要だとしても、信頼する相手を誤れば、再び裏切られるだろう。


前世での自分は周囲に期待し、依存しすぎていた。

それが、彼女を裏切りへと導いた要因の一つだった。しかし、この世界ではそうはいかない。

今の彼女は、冷静で慎重に物事を進める必要がある。


庭のベンチに腰を下ろし、イザベルは静かに考え始めた。


誰を信じるべきか――いや、誰を選ぶべきか。


(頼ってばかりじゃ駄目。私は自分を守るために強くならなくてはいけない)


彼女は自分を裏切った者たち、彼らが本当に求めていたもの――その「力」を思い出す。


彼らの目的が自分自身ではなく、自分が持つ何かであったことは明らかだ。

力を求める者たちはどこにでもいる。


ロレンスやカトリーヌのように、最初は親しい顔で近づいてくる者も。


イザベルは一抹の不安を抱えていた。

世間知らずなお嬢様、今度はどうやって信じられる人を見つければよいのか。


単に外見や言葉だけで判断することは、もはや無意味だ。前世の失敗が、それを痛感させていた。


慎重さが何よりも必要だと彼女は感じていた。

前世の自分なら、噂や第一印象に左右され、簡単に信頼してしまっていたかもしれない。

今は違う。イザベルは慎重に、少しずつ相手を見極めることを決心した。


(焦らないこと、慎重に観察すること…それが今の私には必要よ)


彼女は冷静に、そして慎重に行動を取る決意を新たにした。

味方を見つけるには時間がかかるかもしれないが、それでも一歩ずつ確実に進む必要がある。


―――突然、庭の奥から誰かの足音が聞こえた。


イザベルは顔を上げると、執事のセバスチャンが庭の世話をしに屋敷から出てくるところを見つけた。

彼はいつも通りの冷静な表情を浮かべていたが、どこか優しさがにじみ出ている。

その姿にイザベルはかすかな安堵を覚えた。


(セバスチャン…貴方もまた、私の力を狙ってるの?なんて…心が読めたらいいのに)


その疑念が心に浮かんだ瞬間、イザベルは自分がどれほど猜疑心に満ちているかを痛感した。

彼女にとって、前世の経験はあまりにも強烈で、その影響から誰も信じられなくなっていたのだ。


セバスチャンは彼女の幼少期からずっとそばにいた。

グレタの指揮がありながらも『公爵家』に忠誠を誓い、常に忠実に仕えてきた人物だ。

しかし今は、彼をも疑わずにはいられない。


彼は感情を表に出さないが、いつもどこか彼女を気遣うような優しさが感じられた。

簡単に人を信用してはいけないと決心したというのに、無意識のうちに彼に対して多少の信頼を寄せている自分に気づく。


(本能からか、なんなのか。彼を疑う必要はないと感じているのよね。…私ってこういうところが駄目なのかしらね)


そんなことを感じながらも、彼を一度は試してみる価値があるかもしれないと強く願っているイザベルがいた。

彼の忠誠心が家全体に向けられているのか、それともイザベル個人に向けられているのかを慎重に見極めなければならない。


イザベルは立ち上がり、屋敷へ戻る。

信頼できる人材を見つけるためには、焦らず観察することが重要だ。

人を選び、時を待つ必要がある。それでも、完全に人を信用しすぎるのも危険であることは理解していた。


(簡単に人を信用してはならない。でも、味方がいなければ生き抜くことだってできない)


屋敷に入る前に、イザベルは再び庭の花々に目をやった。

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