土に還る前に
愛されない女の価値とは。
朝も夜もないソープランドの世界にいたら、いつか時が止まる時を考える。佐和子は別にしているへそくりの数を数えて、諭吉と出会う度に指先で時を待つ。
プッ…プルルプルル。
部屋のコールが鳴った。仕事の合図なのだからお金が保証されるというのに憂鬱な気分にさせるのは、コールの直前の音だ。安女郎たちを暗黙へ誘うのはこのちょっとしたことで、それは彼女たちを着実に土へ戻す。
仕事の詳細を聞き佐和子は佐和子を脱ぎ捨てる。自分じゃないわたしなら軽蔑されても構わない。3度目の性行為の時から、覚悟ならもうできていた。
一度や二度なら愛する人を思って穢れを感じていただろう身体には、商売道具としての価値を佐和子自身が気づいてしまった時、0が1となる。非可逆性の事実は他人の哀れみ程惨めでは無い。稼いできたお金が唯一のプライドとなっていた。
涙を絶頂のふりで誤魔化し、接吻した唾液は見えないところでシーツに吐き出す。飲み込んだとき佐和子は佐和子を失うことに気づいているからだ。
「ゴッドブレスの中あるいていきたいな」
イリーガルに耽る様初めて佐和子は佐和子になれた。世俗の穢れも地獄も構わないから暗闇を欲していた毒が毒で相殺されるのだ。
土の中の湿気のごとくソープランドの部屋は湿気が強いため、女郎たちは肺に病を持つことが多い。そうでなくとも死に直結する病と日々遭遇する彼女たちは半ば死にかけの亡霊なのだ。
笑顔も涙も全部佐和子は源氏名になすりつけた。
「さあ、戻ろう」
あなたの笑顔に会えるのは、冷たい土の中だけなのだから。