エピローグ 魔女へ捧げるもの
R17.9くらいの性描写あります。
ご注意ください。
私自身は全く覚えていないんだけど、和希さんはあの店の常連だったらしい。それで、まじめに働いている私を見初めて、いつか声をかけようと思っていたんだって。そんなことを話してくれたのは広いお風呂の中で。
「ダブルワークしてまで一人暮らししようとねえ… そんなに母親のこと嫌いだったんだ?」
「好きとか嫌いとか考えたことなかったんだけれど… 気が合わなかったのは事実かも」
「俺は両親に感謝しかないけどな。俺、クソガキだったからね。昔から服装とかメイクとかいろんなのに凝り性でさ。よく付き合ってくれたと思うよ。生意気で金ばかりかかるガキだったのに」
バスタブの中で私を抱き寄せながら語る。その体は貧弱な私に比べて筋肉質で引き締まっている。ダイエットした方がいいのかも。
「また余計なこと考えてる。俺がいい男なのは当たり前なの。見た目で仕事してるんだからさ」
そんなことを言いながら私の肩にお湯をかけてくれる優しい人。だけど、自分で自分をいい男とか言えるってすごい人だ。私は私を可愛いなんて言えないけれどな。
「恥ずかしくならない? 自分で自分をカッコいいとかいい男とか言ってて」
ふと気になって抱き締められたままで問いかけてみる。雰囲気が何度目かに色っぽくなっていく。私の肩から腕をなでてそっと重ねられて足が開かされる。…本当にこれ以上はお腹いっぱいで無理そうなんだけど…
「恥ずかしく思ってたら舞台に立てないでしょ? 観られてなんぼの世界で生きてるんだからさ」
「そう言われてみるとそうだけど…」
「まして、芸能界はいつでも群雄割拠! 周りは敵だらけだからね。自分だけでも味方やってないといけないんだよ。美鈴の可愛いのは俺が最初から知ってたけど」
そう言いながら遠慮なく自分のものみたいに私の全身に触れてくる。声が漏れそうになるのを抑えるために唇を嚙もうとすると、長い指が唇に触れて…
「商売道具の手だから噛んだらダメ。美鈴の声は俺が聞きたいから」
遠慮なく口の中に入ってくる。…こんな明るいうちからとか、色々と気になったけれど、すぐにどうでもよくなってしまった。
◆
ホテルの朝食を二人で新婚気分で食べたら、なんとなく気恥ずかしい気持ちで家に帰る。だって……
「昨日今日で早速なんて… 気が早くない?」
「俺にとっては昨日今日じゃないからいいんだって」
和希さんがどうしてもお母さんに挨拶したいってついてきたんだもの。展開が早すぎてついていけそうにない。他人の迷惑とか考えてなさそうで考えているんだよね。だって、本当に迷惑だったらこんなにごり押ししないもの。
「美鈴!?」
部屋に入ってくるなり、お母さんが自室から飛び出てくる。今朝はいてくれてよかったような、そうでもないような…
「和希さん、紹介するね。私のお母さん」
「サキュバスとのハーフっていう?」
小さく頷いてリビングへ案内する。お母さんは割と稼ぐ方だけど、和希さんからすると質素に見えるんだろうなあ。
「今、お茶淹れるから座ってて。あんまり大したものないけど」
「いや、挨拶だけして仕事行くよ」
和希さんにはどう見えたんだろう。ソファに座るのをやめて歩み寄り、私の眼もとにキスしたかと思うと、
「そんな寂しいなら、夜遅くなるけど迎えに行くから支度して待ってて」
嬉しそうに笑いながら言ってくれる。リビングのドアあたりにお母さんいるんだけどな。でも、これくらいはいいのかな。
「あなたが… あの?」
「初めまして。昴流和希と申します。お嬢さんとお付き合いさせて頂いております。俳優なんて仕事してますけど、俺自身は真剣ですので」
きっちり45度で一礼してから生真面目そのものの顔で挨拶してくれた。真剣なんだと分かって、私は泣きそうになった。けれど、それだけじゃいられない。私なりに決めたことがある。
「美鈴… あなた分かってるの?」
「分かってる。サキュバスの本能があるって… だけど、お母さんみたいな生き方はできないから。幸い、魔女と契約したことがあるの」
そう言いながら戒めの為に持ち歩いていたアトマイザーをカバンの中から取り出す。あの日から常に持ち歩いていたアトマイザー… いつか私は魔女に代償を支払わないといけない。
「魔女…? 琉偉さんから聞いたことあるけど、美鈴も?」
私は迷わず頷いた。一宮琉偉さんという人のことは良く知らないけれど、あの女性とも何かあったのかもしれない。
「私、どうしてもあなたを殺したくない。精力を付ければどうのって話じゃないレベルで命を削ってしまうって分かるの。真剣に愛していればいるほど… だから、これしか浮かばなかったから」
「待てって! 俺が努力すればいいだけだから、そこまでリスクを背負うことないんだからさ! 俺はそんな簡単に食い殺されやしないから!!」
きつく抱き締めて言ってくれる。真剣に愛してくれているんだってわかる。私のなにもかもを… だけど、だからこそ、私はこの道を選ぶしかない。
私よりも魔族みたいに獰猛な笑い方のできる人、二次性徴が始まってから常に飢えていた私を一晩で満たして、それでも足りなくて何度も抱いた人。
言葉より雄弁に愛していると訴えてくる人。そんな器用で不器用で、繊細さと傲慢さを併せ持った人を、私はきっと誰より恋しく愛しく思うから。
「魔女よ、この代償を受け取って。捧げます。私の、サキュバスの血を…」
その途端に全身が熱く金色に光った。和希さんはそんな私をだれにも奪われまいとするようにきつく抱き締めてくれていて。お母さんは少し複雑な顔で見守っていて。
『確かに受け取ったよ。これより先、お前さんがサキュバスの血を発露させることはないだろうね。契約はお前さんが生きている限り続く』
その声が聞こえたのを最後に私の全身から光が消えた。途端に何かを確かめるように口付けられる。
「…よかった。生きてる」
泣きだしそうな顔で言う和希さんを見上げて私は小さく頷いて、彼の腰に腕を回した。安堵するあまりディープキスまでしてくるから恥ずかしくなってしまった。お母さんの見ている前だし。
「これで俺と同じ普通の人間になった?」
「うん。不安なら夜に確かめてみて」
「OK.なにがなんでも早く迎えに行くよ」
そう言ってもう一度キスを交わす。これでよかったのかどうかなんて分からない。後悔する日が来るかもしれないし、そうじゃないかもしれない。けれど、私はどうやってもたった一人の為に女でいたいから。
お母さんみたいに一夜の恋人をとっかけひっかえなんてできない。その方がずっと幸せに若いまま生きられるんだとしても… 私は和希さんと出会ってしまったから。和希さんと愛し合うってことを知ってしまったから。
「サキュバスの血が発露する時、すげえきれいな金色だったからさ。もう一度くらい見ておきたかったな」
「ふふっ、金色のカラコンでもすればいい?」
「それじゃ足りないって」
じゃれあうように言いあいながら、私は和希さんの腕の中で安堵していた。信じてサキュバスの血をささげずにいたら、私はずっと不安のままでいたから。だけど、恋しい愛しいと思う人の命を食い殺すなんて、忌まわしい血筋を引いたままで生きていたくないから。
お待たせしました( ^^) _旦~~ (-ω-;)和希くん美鈴ちゃんはエッチ好きだな。
琉偉くん五月ちゃんは全く浮かばなかったのにな。まあ、いいか( ゜д゜)ウム
楽しんでくだされば幸い。感想くださればもっと幸いです。