三話 運命の変わる瞬間
昴流 和希(27) 175センチ
五月を略奪に失敗して以来、あきらめることなくタレント兼俳優として努力している。以前と違って、少し落ち着いて大人になってきた。拘り症は相変わらず。
一宮琉偉 (32)
五月と同棲生活を満喫しつつ、相変わらず忙しくしている。公私ともに充実していてうれしい限り。
小菅五月(28)
琉偉のマネージャーを続けつつ、同棲生活でも彼を支える日々。
事務仕事は何もなく終わり、疲れ切った体にお握りとコーヒーだけを押し込んだら、料亭で給仕のアルバイトに従事する。…そういえば簡単に聞こえるけれど、実態は大変な忙しさだ。
料亭は星をいくつか獲得している人気店で、最近は外人や芸能人が押し掛けるようになった。…この日も。
「松崎さん、今日は個室を専門に頼む」
店長から直々に呼び出されたかと思うと、どこか緊張した面持ちで指示される。…そんな大変なお客さんでも来るのかな。
「なんというか… 華やかな客でさ。他の客が騒ぎそうで」
そう言いながらお客さんのリストを見せてくれた。
予約名を見て納得する。一宮琉偉、昴流和希って書いてある。二人とも今を盛りと咲き誇る花のような人だ。要するに売れっ子俳優が二人もいらっしゃるとあっては店長も普段通りというわけにはいかないだろう。
「しかも一宮琉偉さんの方は直に結婚予定の女性を伴っての来店だ。なにを見ても聞いても黙っていてくれる人がいいという条件での来店でな」
「分かりました。私でよければ引き受けます」
「ありがとうな。今度、賄いを豪華にするよう言っておくから」
内心は私が地味で口が堅そうだから選んだんだろうなあと思いつつ、個室の準備に取りかかる。とはいっても大したことはない。むしろ、個室で三人しかいない分、普段より楽なくらいだ。
こんな機会でもなければ滅多に会えない人ばかり。幸運を喜ぶことこそあれ、マスコミに売るかもしれないなんて… そんなもったいないことはしない。
それに昔から好きだった昴流和希さんに会えるんだもの。こんな嬉しいことはない。最初で最後の幸運だ。大事にしよう。
そう決意して予約客専用の出入り口で三人を出迎えた。
「予約しておりました一宮琉偉です。今日はお世話になります」
そう挨拶してくれた人は物腰柔らかく優しくて紳士的で、隣に控えている女性も素晴らしく美人で優しそうで、どこから見てもお似合いの二人に見えた。料亭に合わせてくれたんだろう。二人ともスーツで着飾っている。
そんな二人よりもいくらか個性的なスーツで決めて、私の憧れの人は私に歩み寄り、
「昴流和希です。今日はお世話になります」
と気後れしているんだろう。想像していたよりも物静かな様子で挨拶してくれた。
「それでは個室へご案内いたします」
もう一度深く礼をして言うと、他の客に会わないように注意しつつ個室へ案内し、普段通りに前菜から始まる和食のコース料理を並べていく。
その間、私は不自然にならないように注意しつつ、昴流さんだけを眺めていた。声をかけるわけにはいかないけれど、最後の記念にサインだけでも貰おうかと考えつつ。
最後に三人分の和菓子と果物をお出しして個室を出ていこうとすると…
「あのさ。明日、空いてる? 俺に付き合ってよ」
と唐突に昴流さんに腕を捕まれて言われた。すぐには意味が理解できない。これがいわゆるナンパだと気づくまでにどれだけかかっただろう。
「昴流さん…! それはさすがに失礼ですよ」
「見せつけた俺達が悪かったから、返答に困ることはやめた方がいいって!」
一宮さんとその恋人の五月さんが慌てた様子で割って入ってくれたけれど、昴流さんの目はまっすぐ射貫くように私だけを見上げていた。
「酔ってるからでもなんでもないよ。ねえ、付き合ってよ。明日、俺とデートしよう」
貫くような目で見上げられて、何にも考えられなくなった私は黙って頷くより他になかった。…なにより、これを逃したら一生会えない人だと私はよく知っているから。一生に一度の奇跡、逃すことなんかできない…!!
お待たせしました( ^^) _旦~~ ようやく昴流くんの登場です。
彼なりに考えあってのことでお酒の勢いではありません。これだけは言えます(`・ω・´)