二話 潤っている母親と飢えている私
翌日、私は大嫌いな朝日を浴びて目を覚ました。のそのそとベッドから起き上がり、昨夜にあったことを思い出す。不思議なようなそうでもないようなおばあさんに会って…
なんでも願いを叶えてくれるアトマイザーを貰ったんだっけ…? 何か代償を支払わないといけないとか…?
そんなことを思い出してみたけれど、何か起きる兆しはない。普段通りの日常があるだけだ。スケジュールをスマホで確認してみてため息をつく。
今日は9時から6時まで事務作業に従事した後、料亭で給仕のアルバイトを10時までだ。明日が休みでよかった。
「美鈴、6時過ぎなのに起きてこないなんてどうしたの?」
「別に。ちょっと疲れてるだけ。すぐ朝ごはんの支度するからお風呂行ってきなよ。ちょっと匂うよ」
そっけなく返しながら着替えて、お母さんを自室から追い出す。普段通りの日常がそこにある。唐突にイケメンを紹介してもらえたりするわけじゃない。当たり前だ。あのおばあさんに騙されたんだと思うことにしよう。
お金を奪われたわけじゃないだけマシだったんだ。なんでも願いが叶うなんてありえないんだから。そもそも一人暮らしをするために資金稼ぎしている最中なのに、贅沢はできない。
そう言い聞かせつつあり合わせで朝ご飯を用意していく。
作り置きのおかずをいくつか出して、鮭と卵焼きを焼いて、冷凍のご飯をあっためて… こんな感じだろうか。
家では大食しないようにしている。飢餓でおかしくなりそうだけど、早死にするまでの我慢だと言い聞かせて。
「相変わらず飢えてるわね。そんなにいい男いないの? あんたの会社に」
「私はお母さんと違ってモテないからだよ。別にどうだっていいでしょ? ほら、今日も忙しいんじゃないの?」
「それもそうだけど、同じくらい心配しているのよ。24にもなって精気を吸ったことないなんて… サキュバスとしては血が薄いとはいえ流石にねえ」
無視して先に食べ始める。イライラして味なんか分からない。お母さんはまだ何か言いたそうだったけれど、相手にしていないと分かるとあきらめた顔で向かいに座って食べ始めた。
その顔はツルツルピカピカに潤っていて、毎日満たされているのがよく分かった。お母さんがそうやって若々しくいられるということは、どこの誰とも知らない男の人とそういうことをしてきたという事だ。
…好きでもない人と、必要だからというだけでキスして交わって……
同じ女だけど汚らわしいと思ってしまう。そんな自分が嫌で、そう思わせるお母さんも大嫌いで仕方ない。だから、家でもめったに一緒にいないようにしている。その為にはダブルワークがちょうどよかった。
「そうそう。噂だと思ってたんだけど、お母さんの部下だった小菅五月という子、まじめでいい子だったのに引き抜かれちゃったのよ。それも芸能事務所。お前の好きだった昴流和希って子と同じ事務所の琉偉くんに!」
「だからなんなの? 私には関係ないし」
「分からないわよ。お前にだってあるかもしれないじゃない。あきらめてばかりじゃ、人生つまらないものね」
いつになく説教くさいことを言うお母さんを無視して、まだ中途半端だった朝ごはんを切り上げ、席を立ちあがる。いつもはもっとたくさん食べるのに、今日はなぜか食べられない。お母さんから男の人の匂いがするから? それともどこかで期待している私がいるから?
もしかしたら願いが叶うかもなんて… ありえないのに。打ち消すように支度を急ぐ。歯磨きして申し訳程度に化粧をして着替えて… 今日も長い一日の始まりだ
お待たせしました( ^^) _旦~~ 次回で昴流和希くんを登場させられたらいいなと思います。ちょっぴり大人になった姿で登場していただく予定です。それではお付き合いくだされば幸いです。感想くださればもっと幸いです。






