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掌短編集  作者: おでき
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ブサイクル

見た目による判別を始めた一国の顛末。

 王は言った。

「美を持たざる者は、この世の罪。見目麗しくない国民は即刻、隔離しろ」

 それを聞いた臣下達は一様に青ざめた。あまりに無体な宣旨である。だが、どよめく彼らをよそに王は悠然としており、発言を訂正する素振りを見せない。その為、ついに一人の臣下が諫言した。

「我が君、我が君。恐れ多くも申し上げたき事が……。どうか、わたくしめの発言をお許しくださいませ」

 額ずく臣下を認めた王は、彼が口を開くのを許した。すると臣下は遠慮気味に、今回の宣旨がいかに横暴かと回りくどく伝える。そして「第一、美とは何を指すか」と話を及ばせると、それを王に尋ねた。

 しかし臣下はそこまで話して、途端に口を噤んだ。王が眉をひそめて溜め息を吐いたからである。

 口上を止めた臣下は、不穏な空気に身の行く末を案じた。今度は周囲にどよめきすら起こらない。皆固唾を呑んで見守るだけであった。が、いくら待てども臣下の想像したような事態は起きない。捕縛を言渡されるわけでもなく、無礼を働いたと非難されるわけでもなかったのだ。

 王の様子を窺う臣下達に、王は一息つくと口を開いた。

「美……とは容姿に優れた者でいいだろう。古今東西、美しい外見というものは大方どのような容姿であるか決まっているものではないか」

 そう言って、唖然とする臣下を前に何とも簡単に美的感覚を定義した王は、自身の言葉に納得したようで一人でしきりに頷いていた。

 曰く等身の均整がとれた者、曰く顔の各部位が均整のとれた者。

 絶対の権力者が着目したのは、主にこの二点であった。

 こうして、曖昧な美の基準――王個人の外見の好みによる政策が出来上がったのである。


 この政策を即日施行する為に王はまたもや考えた。

 横暴なうえ奇抜で突飛、かつ大きな改革であるというのに、さして悩む事なく答えは出る。事態に呆然とし置いていかれた臣下達に、王は「一策練ったぞ」と笑って立ち上がった。

「階級を作るとしよう。見目の麗しいものを上流とし、醜悪な者は下流、それ以外の特記すべき事もない平凡な者は中流としよう。これで自然と私の思った事が実現できるな」

 ――そうして全ての国民が階級分けされる事となった。

 ここで問題なのが、階級闘争に発展する可能性である。階級に分けるという事は、下手をすれば反乱を引き起こす種を持っているだろう。しかし、そのような事は起きなかった。何故なら、各階級の位置づけとなった基準は個々人の容姿にあったからである。つまり見た目は自身の問題、自己責任とされた。自己責任であるがゆえに、国に楯突く前に反乱の芽が殺がれたのである。

 あまりにおかしい思想に支配される時代が到来していた。人々はそれに飲み込まれた結果、容姿至上主義による格差も相まってますます階級分けは明確になり、国家規模で「自己責任論」が台頭していったのである。

 この御触れ以降、王は見た目の美しい上流階級の者達と戯れては悠々自適に過ごした。王にとってはまさに眼福の人生だった。


 それから長い月日が経ち、いつしか国民は階級に関し何の疑問も持たなくなっていた。その年月ゆえ、王座には別の人間が座っていた。件の「美」を追求した王の子孫である。

 その王は、王座に就いてからというもの、大変悩む日々を送っていた。上流階級者同士が交配を進めた結果、見事に上流階級の子孫達は美しい者達ばかりとなったが、遺伝的な問題からか病弱な器質を持って生まれてくる者が多くなったのである。

 美白を好む為に屋外には出ようとせず、病的なまでに白い肌を礼賛していた結果もあった。また遺伝性の為に、臓器が衰弱するという問題も表出し始めていた。

 ……このままでは上流階級の人数が減少してしまう。

 事態の悪化を防ぐ為に王は考えた。考えた末に妙案が思い浮かんだ。王家に流れる血によるものか、奇策の発想は秀でていた。

 下流階級を使えばいいのだ、と。

 先代までの王は、下流階級者を労働力としてしか見ていなかったが、その彼らに関し搾取以外に使える点を見出したのである。

 種の保存の為には、上流階級の夭折だけは避けたい。

 王は考えたのだ。手っ取り早い方法を。

 ――すぐに臣下を集めた王は高らかに宣言した。

「美を持たざる者は、生きている価値などない! よって、その価値こそある者の為に下流共を役立たせよ」

 こうして王の命令で、すぐさま下流階級者狩りが始まった。

 病む上流階級者の為の臓器提供である。万が一の輸血用に多くの血も抜き取られ確保された。

 普通の見た目を持った中流階級者達は、狩りに遭う下流階級者達の様子をただただ傍観していた。

 王の一言から始まった、この事態。いつしか巷ではこう呼ばれるようになった。

 この国はブサイクな人間をリサイクルしている――ブサイクル、と。

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