それ、何てホラー
筆者の記念すべき、新境地開拓挫折作品。
夜の濃い色に染められて辺りは暗く、街灯だけが申し訳程度に光っている。
人っ子ひとりいない道路で、私は「あるもの」の気配を背後に感じていた。
後ろからつかず離れず、こちらを追ってくる音が聞こえる。もちろん私の足音ではない。
(なんだろう? こわいな)
歩いていると、次々に見かける「通り魔に注意」の張り紙が、街頭に照らされて薄気味悪く警告を発していた。
また音がする。誰かが私の後ろを、一定のスピードで歩いているのか。
(こわい、こわい、こわい……)
気味が悪くて仕方ない。どの曲がり角も、背後の足音は私と同じ進路をとっていた。同じ道を行くくらい、別段珍しくもないのは分かる。けれどこの時間帯に後ろを歩かれるというのは、こわくてたまらない。
(いったいなに?)
不安に押されて、自然と足は速くなる。これで距離があくと思った。ヒールの音を鳴らしていれば、いつの間にか競歩のような速度になる。しかし、後ろの足音が遠くならない。
間違いない、私の後をついてきている。
(なんで? ……誰か……!)
声を上げるなんて出来ずに、とうとう私は走り出した。我が家であるマンションが見えてくる。安心した矢先、なお聞こえる足音にどきりとした。
だがマンションの正面玄関には監視カメラがある。何かあっても叫べば大丈夫。カメラに映るだろう。興奮状態の中で少しだけ平静を取り戻した私は、勢いよく振り返った。
そこには、近所で見るコーギー犬が二匹いた。
「……え」思わず口をあんぐりと開ける。「おまえら……首輪はどうした」
しかし、当たり前だが彼らは答えない。ただ私に狙いを定めているのか、じっと一点を睨み、舌をだらんと垂らしている。電灯に揺れる不気味な捕食者の鋭い牙。
そうして。
閉店間際のスーパーに立ち寄って購入した半額惣菜の入った袋に、あろうことか二匹は襲いかかり、見事に私は惣菜を奪取されるという通り魔に遭ったのだった。