寝たバレ
浮気がばれた。
リビングは物々しい雰囲気であった。とある夫妻が「離婚する、しない」と言い合いをしていたからである。
事の発端は、妻が言い出した夫の浮気だった。妻は離婚の宣言後さっそく慰謝料を請求しだしたが、対して夫は取り合わず証拠を要求し、今に至っている。
だがここで、夫の言葉を受けた妻は涙交じりに叫んだ。
「証拠? 証拠ならあるわよ!」
夫が挑発するなか、妻は「あるもの」を突きつけた。それは写真や映像ではなく、夫妻に飼われている九官鳥の「ジゴロ」だった。
「馬鹿げている」
浮気が事実であった夫は内心たじろいだが、それを隠すように鼻で笑った。だが次の瞬間、彼の表情は一変にして凍りつく。妻がジゴロに餌を与えると、ジゴロは軽やかにさえずりだしたのだ。
ア、ア、ヤダァ。オネガイ……ジラサナイデ。
ネエ、オクサンヨリモ、スキ? ワタシノコト、スキ?
アイシテルッテ、イッテ。
夫は背筋に汗が伝う感触を不快に思いながらも、声を荒らげて威勢よく言った。
「そんなものが浮気の証明になると思っているのか! 離婚だと? 世間体を考えろ、馬鹿馬鹿しい……まったく」
付き合ってられん、と、捨て台詞を吐いた夫は背を向けてリビングを出て行く。やがて玄関の扉の開閉音が聞こえた。妻にはその行動が逃げたようにしか思えなかった。だが、夫を追いかける気も起きない。苛々と溜め息を何度も吐きながら窓を眺めれば外は厚い雲に覆われており、今にも雨が降り出しそうである。
妻は再び嘆息すると、洗濯物を取り込む為にベランダのある二階へ上がった。
しばらくして、リビングに放っておかれたジゴロは呟いた。
その歌うようなさえずりは、誰にも聞こえないメッセージだった。
ナア、オマエサ。
ハヤク、ダンナトワカレテ、ウチ、コイヨ。






