ラフレター
ある朝、自分の靴箱に手紙が入っていました。
空は気持ちのよいくらいに快晴。外からは野球部の朝練なのか、リズミカルな声が高らかに空へと響いている。自分のいる教室にも届くほどのかけ声。いつもの風景。しかし今、目の前に風変わりな手紙があった。自分はこれを先程いつも通りに通学した折、靴箱から発見という古風な手段で手にしたのだ。靴を履き替え、教室に味気なく向かうという通常の展開とは少し違うことが起きていた。
手紙。手紙である。
あまりに薄っぺらい姿に、若干の期待に胸膨らませ靴箱からそれを掴んで取り出した。人知れず靴箱に入っていた手紙。この言葉の事実。
このシチュエーションでは予想は裏切られないはずである。否、あった、というべきか。手にしてよくよく見れば、まったくふざけた代物に見えた。それもこれも見た目に問題があるのだ。
……裸婦画のプリントされた封筒というのは何とも珍しい。
しかし、送り主のセンスは置いておこう。裏面にあるシールが可愛い小花柄であることに思わずニンマリする。裸婦のインパクトは冷めやらぬままであったが、とりあえず教室に向かう。その際、野球部でレギュラーになれるかもしれない韋駄天走りを誰もいない廊下で披露した。
いつも通り、一番乗りで席につくと、握っていた手紙の裏面のシールを意気揚々と剥がしにかかる。胸は高鳴り、何とも素敵な心拍を奏でていた。今日は外から聞こえる野球部のかけ声すらも、自分が応援されているみたいだ。野球部の面々相手にたまらなく愛おしい気持ちを抱いてしまう。
シールを丁寧に剥がす間も、手紙の返事の仕方を頭の中で考え始める。裸婦画のレターという意匠を凝らした手紙であるので、自ずと返事も気の利いたものを考えねばなるまい。
裸婦レター。
駄洒落を引っかけてくるとは、相手は中々のやり手である。
きっと愛嬌のある可愛い子に違いない。そのような魅力的な子から手紙を貰っておいて、単刀直入に返事をするのも味気ないものだ。
裸婦の衝撃に勝りつつ送り主の喜ぶ返答の仕方……と、浮かれる頭で考えを巡らせながら中の便箋を取り出した。逸る鼓動に身を預けて、二つ折りのそれを開く。すると封を切って覗いた文面は、裸婦の、更にその斜め上をいく圧倒的な衝撃であった。
手紙には、ただ一言。
「あなたが嫌いです」
Laugh Letter End.