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小さな愛花と彼の話

前話が短いため、連投


※Caution

不審者の表現がありますので、不快に思われたらブラウザバックを



 


 愛花は人のいない公園で、ブランコに座っていた。ちっとも楽しくなさそうに、足をぶらぶらさせる。


「……………」


 後ろで小さく彼が揺らす。ぎーこ、ぎーこ。ぎーこ、ぎーこ。


 二人の時間。会話はなく、ただ古びたブランコの音が響くだけ。


 つまらなさそうな愛花は、それでもブランコに乗り続ける。外に出かけようとしない娘を心配する母。友達が居ないのではないか。決して裕福とは言えない家計の中でも、友達が作れるように習い事をさせようか、塾に行かせた方が良いのか、そう悩んでくれる大切な人のために。

 空っぽな心を抱えて、何にも気持ちを傾けぬようブランコの揺れを目で追う。地面に目を向けると、大きな影が目に触った。


「……ちかよらないで」


 この当時、愛花はまだ彼を無視するというより反発していた。この生き物のせいで、自分は化け物たちと関わりを持つようになってしまったのだと、一方的な気持ちを彼にぶつけていた。

 しかし彼は何も言わずに、ブランコを揺らし続ける。


「やだっ!!」


 大きな声で叫び、愛花は公園から走って出た。行き先も考えず、むしゃくしゃする心をどうにかするため彼に見つからないように走り続ける。


 しかし、それは悪手だった。彼は意味もなしに人型になることはない。幼い少女が一人で遊んでいるのを見かけた、いかにもな男性(不審者)が、愛花の周りをうろついていたため、彼は人型をとっていたのだ。


 愛花は知らなかった。

 世の中の危険は、化け物たちだけではない。それよりも身近なものは、恐ろしいものは、「人」だ。悪意のある、生き物。

 この頃の愛花は、そんな事実も知らぬほどに純粋で無知だった。


「きゃっ!!」


 ーー愛花は走り続けて、人にぶつかった。勢いよくぶつかったため、地面に転がる。

「ごめんなさい」そう謝ろうとして見上げた先にいたのは、瞳を爛々と輝かせた、愛花の人生では見たことのないような男。


 愛花の顔をマジマジと見つめてくる。

 鼻の穴が大きく開いて、眼孔も乾燥したように真っ赤だ。濃い、手入れのされていない髭。ニキビをかきむしったような、でこぼこな赤い顔。奇妙だった。

 男は、やった、やった、こんなチャンスもうないとブツブツ言いながら、ふっふっふっと興奮した息を吐く。なにか変な匂い。


「ふっ、だいじょぶぅ? けがしてないぃ?」


 媚びたような、舌ったらずな猫撫で声とともに、汗でベタベタになったふくよかな手が、差し出された。剛毛な毛がわさわさと手を覆っている。


 信じられない嫌悪感から愛花は後退りする。ゾワゾワゾワゾワと、一気に鳥肌が立った。


「どしたのぉ? たいちょうがよくないのかぁ」


 ワンピースの下、丸見えの足を撫でてこようとする。


「おにいさんち、すぐそこなんだぁ。たいちょうがわるいならやすんでいかない?」


 相手が何を言っているのか、理解できない。

 そのまま、しゃがみ込んでくる。対面したくなくて、愛花は顔を背けた。しかし、相手は背けた方に顔をグイッと向けてくる。


「ね?」


「……ひっ」


「おいしいおかしとげーむもあるよぉ?」


 黄色く溶けた歯が見えるように、相手が笑う。


「や、やだ」


「どうしてかなぁ?」


「やだぁ、きもちわるい」


 本心からの言葉。しかし、それは面と向かって言っていいものではなかった。

 告げられた男はみるみるうちに表情を怒りに変え、幼い愛花には理解できない言葉を捲し立てる。


「立て!! 気持ち悪いとはなんだぁああ!!****!! お前の方が◇※○◎※」


 ぐいいっと強引に腕を掴まれた。痛みに顔が引き攣る。こわい、こわい、こわい。

 体をばたばたと振り回して逃げようとするが、子どもが大人の力に叶うはずがなく、引き摺られていく。


 ーー何かの記憶がフラッシュバックしそうになる。


 「やだぁああ、たすけて」


 ーーお母さん! だれか!!



「どけ」


 彼の声がした。聞き心地の良い、滅多に聞けないその声が怒っていた。


 彼は男を投げた。サッと右手を振るっただけに見えたが、軽く数十メートルは飛んだ。直後、凄まじい音がして、あの男が落ちたのが分かった。

 


 もうあの男は襲ってこない。その安心感から身体の力が一気に抜け、立ち上がれなくなった。

 涙を流し、必死に声を押し殺す。誰にも弱みを見せない、彼にも怯えていたことを悟られないために、ぶるぶると震えながらも顔を背けて下を向く。過呼吸になりかけの息を、無理やり止めて。


 彼は愛花を掬い上げるように、抱き上げた。混乱する少女はイヤイヤと、彼の体から逃げるように手を押し上げる。


「泣いて良い」

「……ヤダッッ、……フゥ、クゥウッ」


「大丈夫」

「……ひっ、ふっ、な、何も大丈夫じゃないもん」


「心配いらない」

「う、嘘つかない、で……ひっくっ」


 抱き上げられたまま、家路に向かう。ゆっくりゆっくりと彼女が泣き止むのを待ちながら、彼は進んでいく。

 安定した足取りは揺籠になって、愛花の眠りを誘った。涙を流すのに疲れ、カクンカクンと眠気に抗う。そして、少し意地になったように問う。


「……なんで、やさしくしてくれるの」


「良い子」と言いながら、彼は彼女の頭を撫でた。それで問いに答えたつもりなのだろうか、疑問に思いながら柔らかく優しく撫でてくれる彼の手に促されるように、愛花は眠りについた。


 帰りつく頃には彼の愛しい少女は安心したように眠り、あったこと全てを忘れていた。……彼に優しく抱きしめられたことも、「良い子」と慰められたことさえ。


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