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  作者: 葉山光輝
青い思い出
8/10

Determine

 明日香の葬儀が終わり、葵は、またいつもの日常に戻った。とは言っても、母が病弱だったのは葵がこの家に来てからは周知していたため、大して生活の様式が変わることはなかったのだ。その葵の影を、湊は木の上から静かに見守っていた。「なんで……俺…あいつが気になるんだろ……。」湊は、この心の霧は葵から何かしらの影響を受けているのではないかと考え、しばらく葵を観察することにしたのだった。「しばらく死神の仕事もねぇし。ちょうどいいか。」

 その頃、葵はスーパーで夕飯の買い物をし、家に帰っていた。「明日香、元気に過ごしているのかなぁ。」なんてことを呟きながら帰り道を歩いていると、誰かが葵に声をかけた。

「あ、葵ちゃん。こんにちは。夕飯のお買い物かい?」

「そう。今日はカレーにでもしようかと思って。」(楽しそうな会話をしてやがる……。)屋根の上で湊は二人の会話を眺めていた。歳は50代半ばぐらいだろうか。「俗にいう、近所のおばさんってところかな。」呆れ顔をして、湊はそろそろ帰るか、と飛び立とうとした瞬間、

「それより、葵ちゃん。お母さんの件は大変だったわねぇ。」おばさんが葵に向かって話す。

「…………‼︎」葵はその場に立ちすくんだ。(っつ……!あいつ、わざと聞いてるんだ。)湊にはわかった。おばさんの心の中に黒い渦が巻いているような感覚を感じる。表面では心配しているように装っているものの、内面では葵のことを皮肉っているのだ。「全く、卑怯なやつだな……。」若干怒りの感情を感じた湊は、葵のそばへ降りて行こうとする。おばさんへ対する鬱憤を晴らすこともそうだが、湊は母親のことを聞かれた葵の心の方が心配だった。しかし、それは葵の一言によってかき消された。

「……大丈夫です。」

(……は?)湊は動揺する。葵の方を見ると、目に光が点っているような真剣な眼差しをしていた。どうやらおばさんも驚いている様子だった。

「確かに、私は母を失ってとても苦しいし……悲しい。でも、過去のことはもう変えることはできないんです。私は、お母さんを失ったという過去は変えることはできません。でも、お母さんと一緒に過ごした楽しい日々もまた、変えることはできません。私は……。私は、お母さんが生きたかったと願った未来を、一日を……母の分まで生きていきたいんです。」葵はキッパリという。満面の笑みを浮かべながらそれを言われたおばさんは、「あ、そう……。」とだけ言い残し、去っていった。

「あいつは、親を失って、苦しいはずなのに。どうしてあんなことを……?」ボソボソと湊は屋根の上で考え事をしながら、葵の凛とした後ろ姿をただひたすらに見つめることしかできなかった。

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