タナトスを殺せ
重い両足を左右に動かし、前に進む
タナトスを殺せ
私に科せられた呪い。
私はタナトスを殺すために生まれ、タナトスを殺さなければ私が殺される。タナトスを殺せ。タナトスを殺せ。
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…お前が生まれるずっと前、世界は二分されていた。
手足を拘束されたまま浴びせ続けられる世界の成り立ち、何も無い無機質で気味の悪い部屋でどこからしているかも分からない音を聞いていた。
ずっと生きてきたそんな気はするが、今この景色以外何も思い出せない。
声を出せず、自分の身体も見れない状況で自分が女か男か、身体は実際にあるのかそれすらも分からない。
説明は続く
…お前に科せられた使命は1つ。タナトスを殺せ。タナトスを殺さない限りお前の命はないと思え。
タナトスとやらを殺すこと。それが私に科せられた使命だそうだ。
それから途方もない時間気が狂いそうな長い間、話を聞かされていた。時計も時報もない中、時間の経過がわかることは眠りそうになった時に身体に流れる電気と目の乾きだった。
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「ーーや、ーーー。ーーや。…きて。…て。起きてかりや」
2度目の覚醒だ。目が慣れていないのだろう。周りは真っ暗で何も見えない。
「起きたのね。かりや」
右後ろから声が聞こえる。
どうやら自分は座っているようだ。声の主の顔を確認することは出来ないがおおよその年齢と性別は判断できた。
「誰だ。貴様」
自分から出た声に驚く。どうやら女性らしい
「何寝ぼけたこと言ってるの。早くここを移動しないとタナトスにやられるわよ。」
20代女性。背丈は多分同じぐらいだろう。腕を掴みながら話しかけてくる。状況はよく読み込めないが移動した方が良さそうだ。
ここで手に持っているものに気づく。形状重さから拳銃だとわかる。ただ拳銃を握った記憶は無い。ただ使い方はわかるみたいだ。安全バーを外しリロードをした。
「すまない、あまり夜が得意では無い。その腕を掴んだまま道を案内して貰えないだろうか」
「そんなこと今まで聞いたことないけど、どっちみちこのままじゃ2人ともやられるしね。いくわよ」
一向に見えるようにならない目。果たして開いているのか閉じているのかも分からない感覚になってくる。
2kmほど歩いただろうか。この道中、私は彼女から疑われない範囲で色々聞き出した。話す度に「なんでそんなこと聞くの?」「大丈夫?」と聞かれたが、どっちかと言うと聞きたいのは私だった。
わかったことを列挙する
自分のこと
・私は25歳、女、どこかの部隊の一員でタナトスを追っている。仲間は他に5組いるようだが途中ではぐれたようだ。
一緒にいる女の事
・この女は22歳、同じ部隊の後輩で今回が初任務だが昔から知っている仲らしい。名前は話の流れでは聞き出せず貴様と呼ぶことに違和感を相手が抱かなかったため貴様と呼ぶことにした。
いる場所
・この場所はどこだかは彼女も知らず、目隠しをされ移動をし、着いたら降ろされ目隠しを外せと言われたらしい。目的地に着く直前大きな爆発音がし、慌ててバディである私を連れて車を降り、今に至るらしい。目隠しはいつもそうなのか?と聞かれたが私は何も覚えていないので「そうだ」と答えておいた。
「ねぇかりや。ずっと気になっていたんだけど、いつまで目隠しをしていないといけないの?」
「え?」
「だってずっと目隠ししてるから」
後頭部に手を当てると布の結び目がある。
「…早く言え」
「…こんな状況でふざけてるの…?すごいねかりや」
目隠しを外すと多少明るく感じる。
「さあ行こうか、貴様」
「…うん」
彼女は可愛い顔をしている。きっと私も可愛いんだろう。
銃を持つ私の指は細く綺麗で、腕は細いがしっかりとしていた。胸はあまりない。
タナトスを殺せ