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#11 終末を呼ぶ声

プスプスと嫌な音を立てながら、横たわる少女。

意識はもう無いようで、全身から煙をあげて目を瞑っていた。


鎮火をしたのは隣でアワアワしている鈴で、先程燃え上がってのたうち回る少女を慌てて鎮火をしていた。


あのまま見殺しにしても良かったのに。


とにかく、マジでどういう事?訳が分からなった。

突然燃え上がった少女に、そのすぐ近くの木に隠れていた鈴。

偶然とは思えないし、けれど火の要因になり得る何かがあった訳でも無いし、何が何だか。


曰く鈴は「お姉ちゃんをちょっとでも援護しようとしたら、やりすぎちゃって!!」との事で。気持ちは嬉しかったけれど。

援護も何も、鈴の能力は成水で、今回の自然発火事件とは何の関係もない無いはずだ。


地面に転がる少女を、今すぐにでも殺してやりたい所だけど、とりあえず触手を引き抜いて作った即席の縄で、手足を縛って置いた。


コイツの服を破いて作った目隠しもしてね。


こうやって度々都合よく使われる私の触手、可愛そう。

ビジュアル目的じゃなくて、ちゃんと動くし毒もあるし、戦えるのよ??これ。


心無しかしなしなと下を向く触手達に心で労いを掛けながら、地面に縛られ転がる少女を見やる。


どうやら燃え上がっていたのは服を中心にだったようで、

肌も少し焼けているけど死ぬほどの傷では無い。


顔にも殆ど焼跡は無いようで、痣という痣は出来なさそうだ。

敵ながらそういう所を気にかけてしまうのは、姿は化け物でも、私は女なのだろうか。


本当はすぐ殺しても良かったんだけど、これだけ戦闘に長けたやつがたまたま私達の目の前に現れるなんて事は無いだろうし、きっと何か理由があると踏んでの事だ。

後は、鈴に止められた。殺すなって。実はこっちが本音。


私は当初、イライラに身を任せ、殺す気マンマンでコイツの首に剣を突き立てた。

そこで、鈴の「ダメ!!!」と静止が入ったのだ。


「ダメ、だよ!

人を殺したら......!」

至って真剣な表情で、鈴は必死に言葉を紡いでいた。


......。その気持ちは分かるんだけどね。

でも、この世界ではその正義感は捨てて欲しかった。


私は再び少女に目を向ける。

第一、コイツだって私達を襲って殺そうとしてたんだ。


そんなヤツに慈悲を持てと?


つまりこういうことでしょ。

鈴は敵の殺意の是非に関わらず、地球って言う星の平和的な視点で、人だけは殺してはいけないと。

そう言う事でしょ?

だから止めたと。


私は再び鈴に視線を戻し、見据える。

お前マジか。みたいな目付きで。

いや実際そう思ってるけど。


「その子も......、

襲わなきゃいけない理由があったかも、しれないじゃん」


お人好しか。とも思ったけれど。

まぁ一理なくも無いなという事で、とりあえず殺す事は保留。


で、今。

まぁ単純に追い剥ぎのプロって可能性を捨てきれないんだけど、

執拗に私を殺そうとしていた事を考えると、多分その線は薄い......のかなぁ??

兎にも角にも、何を判断するにも全く情報が無い。

一刻も早く情報が欲しかった。


という訳で!!物色タイム~!!!

追い剥ぎだか何だか分からないけど、やっていいのはやる覚悟のある奴だけだ!みたいな事をどこかの誰かが名言で言ってたしね!!


こいつの素性をいち早く探るため、私は少女の横に屈み、ボロ絹のような服に手を突っ込みなんの躊躇いもなく服の中を漁る。


鈴も後ろから歩いてきて、近くでその様子を眺めてた。

物色程度なら鈴は何も言わないらしい。


地球的観点から行くとこの状態でも既に色々犯罪に発展してるけど、鈴は何も言わない。


うん。なら尚更遠慮はいらないね。


ってかこいつ着痩せするタイプか。触ってみると、おっぱいクソでけぇ。

そんなこんなで少女の胸筋辺りをまさぐっていた所で、少女の体がピクリと反応した。


あら起きたか。意外と早い。

もう少し眠ってて欲しかったんだけど。


少女は起きたばかりで、視界も塞がれ。

多分情報を整理している所だろう。

少女がやがて状況を理解し、己の胸をこれでもかと揉みしだかれている感触に気づいた頃、「何して......」

と困惑の声が聞こえた。直後、私は攻撃をぶちかました。


「ッ!?アハハハッ、ヤメッ!アハハハハハハ!」


その途端、少女は狂ったように笑い始める。

何のことはない。

脇腹に突っ込んだ手をわきわきしてやったのだ。

名を、コチョコチョ攻撃。


「ねぇやめッ、アハッ、アハハフヒヒヒヒヒ!ヒィヒィ...!

やめっアハハハハ!」


その様子を眺めながら、ぞくぞくっと背中に何かが走る。


なにこれ、楽しい。


私は手で少女の腹を擽る。

少女は笑う。


すると後ろでそれを見ていた鈴も、心無しか羨ましそうにこちらを見ていた。


私が一瞬手を止め少女を指差し、

「鈴もやる?」

と笑うと、鈴は嬉しそうに頷きこちらへと歩いてきて私と少女を挟んで向かい側へと座る。


ハァハァと息を荒らげていた少女はその光景に、顔を絶望の色に染める。


一応日本語で会話してたから分からないはずなんだけど、どうやら雰囲気で掴み取ったらしい。


覚悟しろよ......

私はわきわきと手を揉むと少女は気配を悟ってヒッと声を漏らし顔を引き攣らせる。


こっちは命狙われたんだ。

これくらいし返したっていいだろう。

襲われた恨み!


そこで勢い良く手を突っ込んだと同時、ゴトン、と何かが落ちる音がした。


?なんだろうと音の方に目をやると。

それは少女の横に転がり、手のひらに収まるサイズの黒い箱。

その箱には異質な空気を放つ、白い魔法陣が刻まれていた。


それを見た瞬間、私はドッと全身から汗が吹き出るのを感じた。


私は慌てて鈴を担ぎ上げると、えっ?!と慌てる鈴に説明する間もなく、出来る限り飛び退いて、それでも私の能力の射程圏内から少女を睨んだ。


魔法陣。この世界を知らない人間が見れば、それがどうしたとなるかもしれないけれど。

この世界で魔法陣、魔法と言われる物は、禁忌として扱われる物だった。


私がこの世界に産まれる数千年前、この世界では普通に魔法という物が使われていた。らしい。


それは、神の造った魔導書と呼ばれる本。

それに刻まれた魔法陣、それに触れるだけで誰でも簡単に魔法という物を使えたという。


でも、その魔法ってのが、実はヤバかったんだよね。

それは海の無い内陸に人々が生活に困らないぐらいの海を作ったり、本当は陸地にあった大陸を諸共空に飛ばしたり。

それだけ聞けば便利じゃ~んなんて思うかもしれないけど。

その本質は、一個人誰でも簡単に天変地異を起こせてしまうような、もちろんそんなこと出来れば生態系も簡単に崩壊させしまうような。

そんなチートもチート、バグみたいなアイテムだった。


それをいけないと思ったのか、魔導書を作った神と別の神がこの世から魔導書を全て回収し、根絶させた。


思うに、神と神の間でも派閥争いみたいなのが起きてるんじゃないかな?

神の事情詳しく知らないけど、それに巻き込まれる私達からしたらたまったもんじゃないんだけど。


そしてそんな便利な、能力を持たない人間でも簡単に能力を遥かに超える超常現象、魔法を起こせる魔導書を簡単に手放す者は少なかった。


そりゃそうだよね。

だから神が魔導書を根絶させたとはいえ、魔導書はこの世に幾つか残っていた。

知恵を凝らして人々は神から魔導書を何とか隠したらしい。


その魔導書自体を見た事なかれど、私はその魔法は1度だけ見た事がある。


あれは私がこの世界に転生したてで、この人型ではなく海月の姿で海に浮かんでた頃。主大陸と小島。合わせて5つの飛行大陸が、今の5つではなく、6つあった頃。


......そう、今は無い大陸。


つまり、その魔導書を隠し持っていたのは魔族で、空飛ぶ大陸を邪魔くさいと思った魔族はその魔導書で対大陸砲なる物を作り、それを人族の住む飛行大陸に向けて撃ったのだ。


......うん。

ヤバくない?

大陸沈めたんだよ?

あの直径何百kmもある様な巨大な大陸を。


いや〜あれはヤバかった。

未だに覚えている。

空を真っ赤な彗星が突っ切ったかと思うと、それが空飛ぶ大陸に当たって、木っ端微塵に爆ぜた。


一瞬でもきれー!とか思った私が馬鹿だったよ。

その瞬間海は天変地異そのもの、もう訳の分からないぐらい揺れた。

上も下も右も左も。

生きてるか否かすら分からないぐらい。


なんてったって、大陸が落ちてきてそれが海に沈んだんだからね〜......


いや〜ヤバかった。

あれは言葉では形容できるもんではない。

ほんとヤバい。


あの出来事は私の身にしっかりとトラウマを刻んでくれた。


というかそもそも今人族の住む飛行大陸も、私達の住む大陸の端で細々と暮らしていた人族達が魔導書で作り出した代物なのだ。


お分かり頂けただろうかこのヤバさが。


まぁそんな感じで、チートもチート、インフレなんて言葉でも収まらないヤバい産物。

魔導書。


それに刻まれていた、魔法陣が描かれた黒い箱。

それが少女を擽ってたら服の中からポロッと。

ポロッと出てきた。


これが如何にヤバい事かをお分かり頂けただろうか?

なんか雰囲気的に、これがおもちゃとかじゃなくて本気の魔方陣って分かるのが怖い所。

魔力云々以前に、気配で何となくわかったんだよね。


下手に触れたらドーン!とかやめてよ?マジやめてよ?

まだ死にたくないからね?


なんでこんな少女がそれを持っているのか。

そんな疑問は生命本能が告げる死への危険の警報で掻き消された。


その箱が出てきた瞬間、鈴を抱えて大袈裟なぐらい距離を取った私、剣を構えて己の周りに数えきれない無数の闇弾を生成し何が起きてもいいように警戒心を顕に、少女を睨み付けた。


そう。

危機感を感じ距離を取ったのは私だけ。


少女の傍にあったはずの箱を、私は見失ってしまった。

ッ?!箱はどこに?!

魔法陣がどれだけ危険かも知る由のない鈴はそんな私を見て笑う。


「あっ、これ?」

鈴はそんな事をほざきながら、私に担がれたまま、いつの間にか箱を手に握っていた。


ッ!!!!ばか!!!!


「これ、危ないの?」

鈴は私に担がれたまま動きを止めること無く、魔法陣に触れる。

その瞬間、魔法陣がカッ!っと夜闇を照らし、眩い光を放った。


ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛⤴︎!?!?!?


それにビックリした鈴は

「うわっ!?」という驚きの声と共に箱を放り投げ地面に落とした。


ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛⤵︎!!!!!!


なんて事をしてくれる!!!

もっと丁寧に扱え!!!!


箱に描かれた魔法陣は白く発光しながらクルクル......というかギュンギュンと言う言葉の方が似合うぐらい高速で回転していた。


もう駄目だぁ、おしまいだぁ......!

私はギュッと目を閉じる。


だって、考えてみ!?

倒した敵から出てきた術式の分からない魔法陣。


これがラノベなら十中八九自爆する流れよね!?

死ぬぐらいなら道ずれにしてやる!みたいな!

しかもその魔法陣は大陸すら滅ぼせるような力を持っている物。


抵抗しようがない。


私が少女を倒してしまったが故に、魔物達が平和に暮らすこの大陸は沈んでしまうのだ。


ごめんね罪無き魔物達......(泣)(泣)


鈴は、落とした魔法陣の輝く箱を見ながらオロオロとしている。

やがてあの箱の自爆に巻き込まれ、そんな鈴も消し飛ぶだろう。


いい人生だった......


私は空を見上げ手足を投げ出し寝転がる。

そこにはやっぱり綺麗な星空が広がっていた。

もう一度転生できるなら、もっと平和な世界に.........



全てを諦め死を覚悟した時、箱から放たれたのは破壊の光ではなく、野太い男の声だった。


「やったのか?フェリア」


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