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#10 無敵vs無敵

鈴です。最悪な青空トイレを済ませて帰ってきたら、お姉ちゃんが血を撒き散らしながら打ち上がっていました。

マジで嫌ですこの世界。帰りたいですほんと。

次わたしもああなるの??

......でもきっと大丈夫。お姉ちゃんはめっちゃ強いから、きっと。




「もう一回......!フィリア!」

少女が片手で印を結びながら叫び声を上げる。

すると、ボロ絹を纏っただけの不格好な少女、叫んだ本人である少女の直下にまた魔力が集中して行くのが分かる。


あぁ!もうそれわかったから!!


私も負けじと地面を踏み締め、高速で周囲に闇を収束させると、即席の闇弾をいくつも作り出す。

やがて私の目の前の地面から飛び出した黒魔獣の大口へと向け打ち放つ。

「ヒュンッ!」と言う心地のいい音と共に射出され、放たれた闇弾は口の中へ吸い込まれる。

けれど、黒魔獣はそれをものともせず、全てを飲み込むかの如く、口を大きく開けたまま私へと突っ込んで来た。


無敵かこいつ?!

慌てて蜘蛛脚を使って上空に高く跳躍して何とか回避するも、直後いつの間にか私の正面に飛び出していた少女の鋭い蹴りを空中で貰う。


蹴りは剣の腹で何とか受け止めたものの、空中でその威力を受け流す物体なんてなく、私はすさまじいスピードで後方へと吹き飛ばされ、木へと激突した。


あまりの衝撃に、肺の空気が全て押し出される。


しかし吐き出された酸素を貪る間もなく、一気に距離を詰めてきた少女の大剣が横一文字に繰り出される。

慌てて上体を横に逸らしてそれを回避すると、後ろの木が大きな音を立てて倒れていた。


こいつ、こいつらヤバすぎる!!


黒魔獣の動きは、あまりに魔力の大きな塊だから地中でもわかり易い。

けれど、視界の奥で、まるでそこに何もないかのように地面に潜り込むアイツに抵抗する手段がまるで浮かばない。

その上、それに合わせたこのアマの攻撃タイミングが良すぎる!!


私は次の追撃が来る前に、能力を全身に使う。

その瞬間、ふわりと宙に浮くような感覚に襲われ、私の体すべてが闇の霧へ変化し、原型を留めずに気体に変わる。

そして少女から見て直線約50m程。可能な限り距離をとったその場所で闇が渦を巻き、地面の砂埃が舞い上がる。

砂は空を赤く照らすガルギアに照らされ、キラキラと光っていた。

渦巻いた闇は、徐々に私の体を頭から足へと創り出すと、再びそこに、私は現れた。


「おもしろーい!!」

と少女はキャッキャと声を上げる。


しかしその間にも、地面の中を高速で泳ぐ黒魔獣は、高速でこちらへと切り返し、接近していた。


考えろ考えろ考えろ。

どうすれば良い?どうすればあいつらを止めれる?

それに鈴は大丈夫だろうか??


蜘蛛脚を駆使して高速で後退しながら必死に思考を巡らせるも、答えが出ぬまま黒魔獣が正面の地面から飛び出す。

それに追従するように、少女はその後ろからこちらへ走ってきていた。


ひとまず、私は私の周囲に目一杯の闇弾を生成すると、飛び掛る黒魔獣目掛けて打ちっ放す。

しかし黒魔獣の体表にぶつかった闇弾は、傷を付けることなく闇へと還っただけだった。

こいつ、魔力の塊で出来てる癖に物理耐性も高いの?!理不尽すぎる!!


私は迫り来る黒魔獣を地を蹴って横に回避すると、体勢を崩した所で、上段から勢い良く剣を振り翳しながら切り掛かってくる少女。


コンビネーションが上手すぎる。


けれど、その行動はもう読めていた。

その斬撃を、私は弾く事無く受け入れる。

ブォン!と重厚感のある音と共に振り降ろされた大剣は、まるで紙切れを切り裂くかのように、容易く私を右肩から脇腹へと切り裂いた。

私の右腕が宙を舞う。

しかし、血を撒き散らしながらも、臆することなく前のめりになった私は、左手に握った剣を、少女の脇腹目掛けて横凪に振り払う。


しかし剣が届く寸前、少女は大剣を離して後方へと大きく距離を取ってしまった。

チッ。


しかし、その目は驚愕のように見開かれていた。

ああそうだよ、私は右半身を吹き飛ばされようが、戦うという、

明確な殺意を、彼女に見せ付けた。


これが私の基本の戦い方。被弾前提の、反撃中心の戦い方。

被弾はこちらの方が大きいけれど、私は身体を再生させられるので、そう痛くもない。

物理的にはめちゃくちゃ痛いけど。

タダで私を殺せると思うなよ。


「良いじゃん良いじゃんやるねぇ!!」

少女は尚も高揚したように、狂気的な笑みを浮かべて、楽しそうに身を揺らす。


さぁ。勝機はまるで見えないけれど。

ここから出来る限りの抵抗はしてやる。


空を明るく照らしていたガルギアは刻一刻と地面へ迫り、夕刻の時を告げる。

空が薄暗くなり始める度、私は勝機が損なわれて行くのを感じる。


何故かって、完全に夜を迎えてしまえば、闇か何かも見分けの付かない黒魔獣に対応できる訳が無い。

それは完全な詰みを意味していた。


けれど、少しばかり、考えが無いことも無かった。

そう思考を巡らている間も、黒魔獣と少女の攻撃は止まらない。


「逃げてばかりじゃなくて戦おうよ~!!」

下から横から上からも。四方八方から飛び出す黒魔獣。それを躱したと思えば、その隙を付くように、大剣を振り抜く少女の攻撃。

ブォンと言う風を切る音を耳元で聞く度、冷や汗が止まらない。


大剣さっき離してたじゃんって?

あぁ、そんなの直後に地面から飛び出た黒魔獣に回収されましたよ。

無理ゲーすぎる。


お互いの戦闘はまさしく疾風迅雷。

木々があるおかげで触手と蜘蛛脚の機動力を存分に生かしてして地上を空中をと駆け巡る。


そこに遅れて、少女と黒魔獣が襲い掛かり、私のいた場所にあった木々が抉れ、大木が吹き飛ぶ。

というかそもそも、少女が蹴りだす度、その地面が抉れて、その重さを物語っている。


私の蜘蛛脚や触手は飾りじゃない。

襲われる度、背中の触手はうねり、複数の角度から少女を貫かんと迫る。

けれど、瞬時的に翻された大剣に切り落とされたり、手慣れた体術に受け流され、捕まれちぎられている。


技量が違う。

多分私が異形でなけりゃ、いや、それ以前に再生なんて出来なければ当の昔に死んでいた。


疾風迅雷なんてカッコつけたけど、到底その速度に追いつけず、大剣は幾度となく私の腹を抉り、頭を砕き、身体を吹き飛ばす。

その度に大砲にぶち抜かれたのかって程の威力で私の体が飛んでいくので、痛みより面白さが勝ってきた。


けれど。やられてばっかじゃない。

私はここで負けちゃいけない。今度こそ鈴を守るって誓ったから。


踏み込みながら、横凪に振り払われた大剣に足を切り飛ばされながらも、少女に上段から切り掛る。

慌てて少女は飛び退いてそれを躱し、黒魔獣に置いてきた大剣を回収させる。


な~んか違和感あるんだよな。

少女の剣技は確実に私を遥かに上回っている。

なのに、必要以上に私に接近してこないのだ。

“私が見えなくなる距離まで”は。


多分これさ。

私は足を切りつけられ、機動力を失い膝から地面に崩れ落ちると、地面からあるものを手に握る。


そして、隙を逃さぬように再び横凪に振り抜かれる大剣を目一杯に体を逸らして回避する。

イナバウアー!!!

そして。

剣を振り抜いたまま私を見据える少女の顔面に、思いっきり手に握っていた砂を投げつけた。


「ッア゜?!」

情けない声を上げながら、大慌てで後ろに飛び退く少女。

そして、今まで以上に異常な程に距離をとると、必死に目を擦っていた。


その間、地面の中の “黒魔獣の動きは止まっていた”

やっぱアイツの意識と連動してんのね。


あの少女は、必ず黒魔獣の後に攻撃していた。

多分あれ、あの少女が目のない黒魔獣の代理してるんじゃないかって。


予想はビンゴ。少女が必死に目を擦る間、地中の中の黒魔獣は私に襲いかかること無く、すっかり動きを止めて居た。


こうなれば、無敵の黒魔獣様だって怖くない。

さぁ、やられた分をここからやり返してやるか。


第2ラウンド、開始だ。

私はパンパンと体の砂を振り払い、足を再生して立ち上がった。


直後、視界の先にいた少女が燃え上がった。

闇に落ち始めた山々を、煌々と照らすくらいメラメラと。


ええぇぇええ????


「ギャアアアアアア!!!

ア゛ッッッツ゛!!!!!!」

少女の断末魔が山を木霊する。

次いで、


「キャアアアアアアアア!!!」

というもう1人の女の子の甲高い悲鳴が、山を再び木霊する


多分鈴の声だ、

いつの間に居たんだろう。

少女の後ろの木陰で尻もちを付く鈴と、

激しくメラメラと燃え上がるさっきまで私を追い込んでいた少女。


ええぇえぇぇぇぇ??????

出鼻をくじかれた私は、訳が分からず、困惑する事しか出来なかった。

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