#プロローグ 終わりの始まり
広い、広い平原に風が吹く。
風は草花を涼しげに揺らし、黒く霞んだ花弁を宙に舞わせていた。
人々はそんな花々を荒々しく踏みつけ、喧騒と共に群れを作る。
その群れの中心には、黒い大砲が一つ、置かれていた。
黒く、大きく、歪な形でどこか浮世離れしたそれは、
異様な空気を放ちながらそこに鎮座する。
その周囲で徐々に大きくなる怒声は、やがてピークに達し、空気はピンと詰め切っていた。
「撃てェーーッッ!!」
緊張が限界に達すると同時に、ひと際大きな咆哮が響く。
それに合わせて、砲台が激しい悲鳴を上げて火を噴いた。
赤や青、様々な色の魔方陣が連なった砲塔から飛び出た砲弾は、熱に形を歪ませながら、真っ赤な尾を引き飛んで行く。
向かう先は、海上に悠然と浮かぶ、途方もなく巨大な飛行大陸。
砲弾はゆっくりと飛翔し、飛行大陸めがけて一直線に飛んで行く。
やがて砲弾は飛行大陸に激突すると、刹那、眩い赤色光を放ち、遅れて轟音が大気を揺らした。
さらに遅れて届いた爆風は、遠く離れたこの大地にさえ怒号のように吹き晒す。
砂煙が巻き上がり、草木は花弁を散らす。
目を開けられないほどの爆風が、人々の前で踊り狂う。
海は荒れ、大地は揺れる。
しかし人々はその凶変を気にも留めず、その光景に沸き、ただ歓喜の声を上げていた。
飛行大陸は、瞬く間に猛炎に飲まれ、遠くから見ればゆっくりと、それでも着実に高速で海へと墜落していく。
それはまるで棺桶のように、幾千もの人々を納め、火の海にのまれながら、沈んでゆくのだった。
───私はきっと、間違えてない。
摩擦の生じない永久機関なんて、馬鹿げた話だ。
この世のすべての物体は、必ず何かの対価や犠牲がなければ成り立たない。
夢や希望、大切だった記憶、弱者、金。エネルギーだって例外ではない。
必ずそういった何かを犠牲にして、世界というものは回っているのだ。
そんなつまらない日々なのなら、
終わりのない日々に終止符を。
これできっと、ハッピーエンドだ。
......ずいぶんとつまらない、ハッピーエンドだ。
つまりこれは簡単な話で、
この突飛で荒唐無稽なこの世界は、きっと初めから終わっていたのだ。
世界が崩れていく。
歯車が軋みの音を上げる。
それが
この夢物語の始まりだった。