流れる手には涙が溢れて
目が覚めた。
冷たくて暖かい液体。
川に人が流れている。
水深は浅い。
逆らえるくらいに勢いは弱い。
安らかな顔で眠っている人。
険しい顔で憎しみを閉じ込めている人。
意識がある者はいない。
空は黒。
遠くに角の生えた生物が見える。
赤くて、手には金棒がある。
こっちに向かってきた。
お迎えが来たのだろうか。
待ち構える。
「お前はまだ帰れる」
「帰りたくはない」
体を横向きにして目を閉じる。
「こうしていれば戻らなくていい」
「帰れば、何か変わる」
「変わらない」
変えられないのはわかっているから。
「金棒でお前を眠らせることはできる」
「やってくれ」
自分はそれを望む。
「本当に、いいんだな」
「ああ」
頭に衝撃が来た。
目が覚めた。
布団の上で。
夢だったのだろうか。
鬼の嘘つきめ。
目から雫が出てくる。
憎い優しさが嬉しかった。