~本戦スタート~
本戦が八時から行われるはずが、七時前にリビングに集合させられた。 今は、相葉グループの社員に、新商品のスポーツウェアを着せられている。 モニターになって、今日の本戦を戦うらしい。
薫は、うんざりしながら着せ替え人形になっていた。 社員は、やたらと防水性が高いウェアを進めてくる。 鈴子と志緒は、別の部屋で女子社員と騒ぎなら着せ替えている。 一着、また一着と、着る度に、ファッションショーよろしくポーズを決めながらお披露目してくる。
薫は、心の底から『どうでもいい。 いちいち、見せなくていい』と独り言ちる。 ビリィだけは、二人が出てくる度に『可愛いよ、凄く似合ってる』と二人を褒めちぎる。 男子は皆、早々と着るウェアを決めて、既に着替え終わっている。 後は、本戦が行われる登山口に向かうだけだ。
薫と良人は、足首までのレギンスに膝上のハーフパンツ、薄手の長Tだ。 薫は黒系、良人はグレー系の色を選らんだ。 ビリィと瑛太は、腰丈のフード付きの半袖に、体にぴったりフィットするロングパンツだ。 ビリィは紫紺系、瑛太はブルー系の色を選択した。
(何で、女の支度って、こんなに時間が掛かるんだ……だるぃ。 早く出発したい)
やっと着るウェアを決めたようで、鈴子と志緒が女子社員を伴って出てきた。 Vネックのメッシュ素材のTシャツに、鈴子は足首まであるレギンスにショート丈のパンツ。 志緒は、七分丈のスウェットパンツだ。
ビリィが二人に『可愛いよ』と蕩けるような笑顔を向ける。 鈴子は慣れているので、笑顔で返していたが、志緒は、頬を引き攣らせてビリィから後退した。 女子の着替えが終わって、集合時間の八時ギリギリに登山口に着いた。
――本戦会場入り口、登山口
明神は薫たちを見ると、恭しく頭を下げる。 明神の足元には、籠が置いてあり、水鉄砲とガンベルト、丸い的が付いている。 人数分入っているのが見えた。 顔を上げた明神が薫たちに挨拶する。
「皆さま、おはようございます。 本日も引き続き、イベント管理の担当をいたします、明神です。 順調に行けば、今日の正午過ぎには終了予定です。 ご協力お願い致します。
では、本戦のゲーム内容の説明を致します。 本戦はサバイバルゲームです。 敵チームは、相葉グループの社員です。 向かって来る敵チームを倒して、イベントホールまで行って頂きます。 イベントホールでは、迷路を用意してあります。 迷路を抜けた先がゴールとなります。
皆さまには、これで敵チームと戦ってもらいます。 このガンベルトに付いている丸い的に、水鉄砲を当ててください。 的を当てると勝ちです。 当てられると負けですので、死んだふりして下さいね。 ゲームから退場してもらいます。 的に当たると本部で分かるようになっていますので、ズルは出来ませんからね」
明神が足元にある水鉄砲を手に取って、薫たちに見せた。 薫たちに、ガンベルトの胸当てを渡して、着けるように促す。 薫たちは、それぞれウェアの上から胸当てを付けた。 水鉄砲を手に取って、薫は納得した。
(なるほど、社員さんたちが、防水性が高いウェアを進めてくる理由が分かった。 この胸当て……また、通信機とか付いてるんじゃないだろうな)
明神の説明が続く。
「給水場を設けてますので、補給に使ってくださいね。 こちら、給水場の設置場所です。 地図に記しましたので利用して下さい。 他にご質問はありませんか?」
代表して、瑛太が地図を受け取った。
「いえ、ありません」
瑛太は携帯で地図を撮影して、皆の携帯に写真を送信した。
「これで、逸れも大丈夫だろ?」
瑛太は薫をみて、厭味な表情で笑う。 薫の頬が引き攣って乾いた笑いが口から漏れた。
地図を明神に返すと、不適な笑みを浮かべると、地図を瑛太から受け取った。
「では、皆さま、そろそろ出発してくださいね。 皆さまがイベントホールまで無事に着く事を心からお祈り申し上げます」
明神は、深々と頭を下げた。 良人が溜め息を吐いて、自分の長Tの裾を引っ張ってボソッと呟く。
「サバイバルなら、迷彩服が良かったなぁ」
「っつか、びしょ濡れになる未来しか見ないけどな。 水着にすれば良かったかな~」
良人の呟きに、薫が嘆いた。 薫の嘆きに、更に嫌な未来を瑛太が予想して、溜め息を吐いた。
「風邪ひく未来しか見えないな」
――緩やかなS字のハイキングコースを進む。
携帯をジッパー付きのビニール袋に入れて、首から下げる。 防水加工されてあるけど、万が一の為に水没予防をしておく。 薫の胸で、クロスのネックレスと一緒に携帯が揺れる。
クロスに光が反射して、草叢に隠れていた伏兵の目に当たったらしい。 眩しさに目を避けた時に、大きな葉擦れが鳴った。
薫たちは瞬時に拡がって散る。 今まで薫たちがいた所に、水鉄砲の水が勢いよく飛び出して、音を立てて散った。 地面に水の染みが広がって行く。 数人の迷彩服の男たちが、水鉄砲を薫たちに向けて、飛び出して来た。 柄さず、迷彩服の男たちを、薫たちが取り囲む。 男たちに慌てた様子はないが、囲まれて僅かに動揺しているようだ。
「やっぱり、迷彩服が良かったな」
良人の再度の呟きに、薫が目を細めて言う。
「でも獲物、水鉄砲だぞ。 様になってないだろ」
迷彩服の男の胸当ての的に、標準を合わせる。 男たちも避ける為に、逃げようとしたが無駄だった。 皆で一斉に水鉄砲を撃つと、意外にも結構な威力があり。 迷彩服の男たちは、腕で顔や胸を庇う。 何発か胸当てに当たって、けたたましい音が鳴り響いた。
「ええっ! 音鳴るの? そんなの言ってなかったよね?」
志緒が少し離れた場所で、叫ぶ声がした。 社員は、明神が言った通りに、死んだふりをして倒れていく。
草叢に隠れている伏兵に気づいた鈴子が、胸当てに一発で水鉄砲を当てる。 的を当てられた社員は、大袈裟に叫んで死んだ振りをした。 白々しい演技に、薫たちは唖然としてたじろいだ。
薫たちが園児だったら、喜んだだろう。 社員の耳元は、羞恥で真っ赤に染まっていた。 社員に同情の視線を向けて、薫たちは合掌してその場を後にした。
「俺、絶対にスカウトされても、伊織くんのとこの会社には入らない」
「大丈夫だよ。 薫くんをスカウトなんて、絶対にそんな事ないから」
薫の呟きに、ビリィがにっこり笑顔で宣った。 ビリィは薫の睨みに舌を出して返してくる。
「遊んでないで先に進むぞ」
先に立って進んでいる瑛太が薫たちを急かす。
薫たちは、順調に先を進んで行く。 何処からか見ている伊織と紫苑が笑った様な気がした。
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