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僕たちの場合  作者: 伊織愁
6/12

~予選会場の町~④

 『12時をお知らせします。 イベント参加者の皆さまは、一時休戦して頂き、休憩を取って下さい。 ゲームイベントは、13時より再開致します』


聞こえてきたイベント会場の放送に、薫は寝転がったまま目を細めて愚痴る。 

 「ってか、参加者って俺たちだけだろ。 他の人間は皆、伊織くんと紫苑くんとこじゃん」

薫の愚痴に答えたのは、瑛太だ。 瑛太がいつもの癖で、難しい顔をして眼鏡を押し上げるのを、薫は無言で眺めた。 

 「参加者以外も休憩は必要だろう。 それより、今のうちに移動したい。 小規模イベント区画まで行く。 最終的には、登山口に続く一本道を走り切るしかないけど……」

 「まじで、ご飯は?」

薫は、瑛太に表情で『腹減って、死にそうなんだけど』と訴える。


 薫の無言の訴えに、良人も無言で皆の前に、パンパンに中が詰まっているであろう紙袋を二つ掲げた。 中身を見ると、ファストフードが『何人分だ?』というくらい詰まっていた。 レストラン区画と、グッズ区画の中間にある屋台村区画で、買って来てくれてたらしい。 薫たちは、良人たちに感謝して頂く事にした。


食事の後、ビリィが手を挙げて意見を出した。

 「伊織くんに、僕たちの位置がバレてる気がするんだけど……」

ビリィの意見に、瑛太が顎に手を当てて考える様子を見せる。

 「……それは俺も何となく感じてた。 でも、移動はする。 ここに居てもそのうち捕まるしな」

瑛太が薫たちを見て、同意を確認する為に無言で意見を求めてくる。


 「それよりもシャワー浴びたい……服、着替えたい……誰かさんが森の中に入って行くから」

志緒がボソッと呟いた言葉に、薫は自分たちの恰好に目を遣る。 志緒の隣で鈴子が、苦笑を隠せない様子で眺めている。

 「……」

 (まだ、根に持ってんのか……)

薫も含めて皆、着てきたスポーツウエアーは、草の汁や土汚れでズタボロだ。


ついでに言うと、全員、顔も髪も汚れてズタボロだ。 今頃、伊織は何処かで自分たちの現状を、涼しげな顔で見ているのかと思うと、薫は面白くなさそうに顔を歪めた。




――小規模イベント区画内

 他の区画内とは違い建物が少ない。 中心に丸い舞台があり、舞台の周りを階段状のベンチが囲っている。 ベンチの一番上には、今日は何もないけど、テントなどが張れるスペースがある。

 外周は、ツツジの生垣で囲まれていて、赤いツツジの花が満開だ。 舞台の中心には、『探偵』に扮したスタッフが立っている。 薫たちは、ツツジの生垣に隠れて中の様子を伺う。

 予選会場のゴールは、登山口だ。 小規模イベント区画の入り口横の一本道を真っ直ぐに行くと、登山口に辿り着く。 一本道の左右の草叢には、伊織と紫苑の私兵が潜んでいると思われる。

 ビシバシと草叢辺りから殺気を感じて、嫌なオーラが一本道全体に漂っている。 薫は、殺気に当てられて全身に悪寒が走った。


 「なぁ、あの草叢、絶対に伊織くんと紫苑くんの私兵、いっぱい居そうなんだけど……」

薫は、眉間に皺を寄せて目を細めている。 顔を引き攣らせて、後ろにいる瑛太たちに報告する。

 「陽動作戦で数を減らしたいけど、位置が知られてるなら意味がないな……」

瑛太が横で溜め息を吐いた。

 「なんで伊織くんたちが、僕たちの位置が分かるのか、調べる方が先だね」

ビリィが口に指を立てて言うと、皆が『う~ん』と頭を捻る。


 葉が擦れる音で、薫はしゃがみながら身構えた。 他の皆にも緊張が走り、空気が緊迫する。 更に葉擦れが数度なって、睨みつけた満開のツツジの生垣から出てきたのは、可愛らしい子猫だった。

 子猫を見て、安堵の空気が広がる。 鈴子が子猫を抱き上げ、志緒が子猫の頭を撫でて『かわいい』と騒いでいる。 皆が子猫の可愛らしさに吸い寄せられていく。

 一匹だけなのかと、薫は子猫が出てきた生垣の辺りを探ってると、赤外線センサーみたいな機械を生垣の中に見つけた。 薫の口元が面白い物を見つけたと弧を描く。 


 「面白い物、見つけたぞ」

薫は振り返ると、子猫と戯れている幼馴染+1に、生垣の中を指し示す。 瑛太がハッとして生垣を覗き込む。 

 「これか……森の中で薫たちと別れた時に、何か違和感を感じたんだよな。 これの気配を無意識に感じ取ったのか……これが発信をキャッチする機器だとして、発信元があるはず……」

腰と顎に手を当てて考える瑛太に、良人が答える。

 「それって、俺たちの所持品以外だよね。 だとしたら……」

全員がそれぞれに気づいた。 全員が付けている『泥棒』を示す、唐草模様のバンダナが目に付いた。

 薫は、バンダナが発信機になっている事に愕然とした。 バンダナを手に取って隅から隅まで調べるが、何処にもそれらしい所が見つからない。 伊織がほくそ笑んでいる様子が目に浮かんで、背中に悪寒が走る。


 「意外だな……伊織くんの事だから……携帯とかにGPSアプリを入れられてたりしてるのかと、思ってたんだけど……入ってないな」

瑛太が携帯取り出すと、変なアプリが入ってないか確認している。 志緒が、ボソッと呆れた顔で言った。

 「それ、入ってたらストーカーだよ……」


薫はニヤッと笑って悪戯っ子の様な顔をすると、ポケットから大量の何かを取り出す。

 「まぁ、これで伊織くんの邪魔が入らないのは分かった……後は……これで半分くらいは、『刑事』を撃退できるかな?」

薫の手には、大量の爆竹が乗せられている。 何処に入ってたんだってくらいある。 続いて良人もポケットから大量の爆竹を取り出した。

 「薫……良人も……お前ら、そんな物持ってきてたのか……」

瑛太が頭を抱えて、眉間に皺を寄せている。 鈴子が、これから起こり得るであろう事を察して、顔を引き攣らせている。 薫はというと、ドヤ顔で宣った。

 「何かの役に立つと思ってな」

ビリィも楽しそうに薫と良人が持ってきた爆竹を、より分けている。

 「いいんじゃない。 か弱い女子を襲うなんて、更生できてないベビーシッターもいる事だしね」

にっこり黒い笑顔で言うビリィに『襲ったんじゃないって!!』とボロ雑巾になった迷彩服の男の言い訳が聞こえてきそうだ。


 母猫と兄弟猫が居ないか確認してから、子猫は鈴子のTシャツの中に納まった。 イベント終了後、子猫は『イオリ』いう名で、伊織の飼い猫になる。 名前の由来は、おでこの黒い毛の模様が、伊織の左分けにして流している前髪に似ているから。 薫が独断で決めた。 伊織の溜め息が聞こえてきそうだ。

 

 『13時をお知らせします。 参加者の皆さまに、ゲームイベントの開始をお知らせします。 休憩を終了して、ゲームの再スタートをお願いします。 引き続き午後も頑張ってください。 ゲームスタートです』


 ゲームの再スタートの放送が流れた。 薫たちは、作戦通りに動き出した。

 

絶対に真似をしないで下さい。 花火は人に向けてはいけません。 まして、投げつけるなんて、絶対にしてはいけません。 人の足元で鳴らしてもいけません。 適切な距離を保って、ルールを守って遊びましょう。


 複数の『刑事』役に扮した伊織の私兵が、薫たちのいる小規模イベント区画に雪崩れ込んでくる。

舞台の中央にいた『探偵』はギョッとした顔で事態を見守っている。 舞台の入り口で、火薬が弾ける音が何度も起きる。 踊り弾ける爆竹、火薬の音に『刑事』役がイベント区画に入って来る。

 足元で弾ける爆竹に飛び上がって驚いている。 イベント区画に薫たちがいると確認出来てるはずなのに、薫たちの姿は確認できない。 薫たちのバンダナはツツジの生垣に括り付けてある。


 登山口に続く一本道、左右の草叢には伊織と紫苑の私兵が潜んでいた。 薫たちは彼らの後ろに回り、音を立てずに近づく。 『刑事』役の男たちの話し声が薫の耳に入って来た。


 「少年たちは今、小規模イベント区画にいます。 イベント区画で発信されてますから、こちらに来るのも……ん? なんだ……」


薫は、彼らの足元に爆竹を転がす。 『刑事』役の男たちは、自分たちの足元に転がって来た爆竹をじっと見ている。 彼らはまだ、状況が把握出来ていないようだ。 火薬が弾けて爆竹が鳴って、初めて慌てて草叢から飛び出した。 騒動に気づいた反対側に潜んでいた『刑事』役も飛び出して来る。


騒動の隙を見つけて、薫たちは一本道を駆け出した。 直ぐ後ろの瑛太から声が掛かる。

 「薫! 山の方に行くなよ!! もう、発信機ないんだから、遭難しかけても、伊織くん助けくれないぞ!!」

 「分かってるって!! 行かないように善処する!」

薫の返事に一抹の不安を覚える瑛太と良人とビリィ。 半眼で薫を見つめる瞳は『大丈夫か』と物語っている。


 駆ける四人、鈴子と志緒は気づかれないように、騒動が起きる前に登山口まで先に行っている。 後ろから、薫たちに気づいた『刑事』役が追いかけてくる。 新な『刑事』役が現れて前方を塞ぐ。

 前と後ろで、挟まれてしまった薫たちの足が止まる。 薫の眉間に皺が寄って舌打ちが出た。


 「絶対に逃がすな!! 俺たちの今後の処遇が掛かってるんだからな!!」

『刑事』役の男たちは、涙目になっている。 ちょっと自棄になっているようにも見える。

 「処遇ってなんだろう?」

ビリィの呟きに瑛太が同情するように言った。

 「どうせ、伊織くんの親父さんに、無理難題を押し付けられてるんだろう……」

瑛太の意見に『可哀そうに』と良人が頷く。

 「だろうね……」

薫は、頭を掻きながら『しょうがないか』と身構えた。 登山口のゴールまで、後五百メートル程

『僕たちの場合』を読んで頂き誠にありがとうございます。

気に入って頂ければ幸いです。

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