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僕たちの場合  作者: 伊織愁
11/12

イベントの終わりは突然に

 薫たちは、補給する為に給水場に向かった。 薫の野生の勘に頼り、生い茂った薔薇の生垣で作った迷路を突き進む。 突き当りの角を曲がれば、給水場に続く道に出るはずだ。 曲がった先に複数の人の気配を感じた薫たちは、急ブレーキをかけて止まった。 生垣に張り付いて曲がり角の先を覗きこむ。 背中にチクチクと薔薇の棘が刺さって痛い。


 「やっぱりいるな。 どうする? もう、弾ないし」

薫は後ろの幼馴染たちの顔を見て伺う。 答えは分かっている。

 「行くしかないな。 補給しないと伊織くんたちと戦えない」

瑛太の意見に皆が、首を縦に振った。 何も合図もなく薫たちは飛び出して行く。




――迷彩服の男たちの悲鳴が響き渡る。

 先行したのは、薫とビリィだ。 少し後ろに続くのは良人。 更に後方に瑛太と鈴子、志緒は鈴子の背後に引っ付いてついて行く。 もう、弾がないので、反則だが迷彩服の男たちを倒して、水鉄砲を奪って戦うしかない。 薫たちは水鉄砲を奪う為に素手で男たちに向かっていった。


何処からか、誰かの囁き声が聞こえる。

 『まず先陣を切るのは、薫とビリィだ』


 声の通り、先陣を切ったのは、薫とビリィだ。 2人で突っ込んで行って、蹴りで水鉄砲を蹴り飛ばして、後ろからついて来ている良人が受け取る。


 『そこで何発か弾を消費させる』


 良人は、向かって来た迷彩服の男たちに向けて、水鉄砲を撃つ。 命中して倒した男の水タンクを奪って空を捨てる。


 『ここで気づけばいいけどな。 気づくとしたらあいつか』


 薫たちは、水鉄砲を奪いながら、奪った水タンクを消費させて迷彩服の男たちを倒していく。 薫はしゃがんだ状態から、地面に片手を付いて片足を上げて、迷彩服の男の顎を蹴り上げた。 男は飛び上がって吹っ飛んでいき、生垣にぶつかる。 男の水タンクを奪って自分の水鉄砲につなげると、迷彩服の男が不意にニヤリと嗤ったのが目に入った。 薫は瑛太と目を合わせる。 逡巡の後、瑛太が何か閃いた表情をして顔を上げた。


 「奪った水タンクを使うな! すずと蘇我は、持てるだけ水タンクを持ってくれ」

 「「「「「了解!」」」」」


 ビリィは迷彩服の男を投げ飛ばし、良人は奪った水鉄砲で、一発で仕留めていく。 迷彩服の男たちも水タンクを奪われないように必死になった。 作戦が失敗した後の伊織のお仕置きを考えると身震いさせた。


 迷彩服の男たちの心配を他所に、薫たちは順調に水タンクを奪っていった。 全ての水タンクを奪った後、薫たちは給水場に走っていった。 給水場の先に迷路のゴールがあるはずだと薫が宣ったからだ。 勿論、薫の野生の勘だ。


男たちの無線に連絡が入る。 無線からは伊織の声が響いていた。


 『そちらの状況を報告しろ』

 「……全ての、水タンクを……奪われました……」

 『そうか、お前たちは休憩してろ。 休憩が終わったら、イベントの後の打ち上げ準備に取り掛かれ』

 「承知……いたしました……」


迷彩服の男は、白目をむいて気絶した。 無線を切った伊織は、口の端を上げてニヤリと嗤った。




――薫たちは、給水場のすぐ近くまで来ていた。

 給水場の入り口で2手に分れて、生垣の影に身を潜ませている。 薫がそうっと、生垣の影から顔を出して給水場の中を覗く。 同時に薫の顔に向かって、水弾が飛んできた。 すぐさま顔をひっこめた薫は、心臓がバクバクなって深呼吸した。 ビリィと良人と鈴子が隠れている生垣の方に視線をやると、ビリィたちが頷いた。


薫は隣の瑛太を見て

 「ライフル型の水鉄砲だ! 伊織くんに間違いない。 待ち伏せされてる」

 「やっぱりか、水タンクを全部、奪っておいて良かった。 どうするか」

 「伊織くんは、腹ばいになって狙ってるから、胸の的に当てるのは難しいな」

 「大丈夫なの?」

志緒の問いに困った顔で薫が答えた。

 「大丈夫かって言われたら、大丈夫じゃないかもな。 俺たち、伊織くんに1度も勝てた事ないし」

 「まぁ、伊織くんと初めて会ったのが、10年前で、伊織くんは既に高校生だったし、俺たちは6歳で幼稚園児だったからな。 勝てないのも当たり前だ」

 「そろそろ、伊織くんも年だし、下剋上したいよな」

薫はそう言ってまた、給水場を覗くとまた、水弾が飛んできた。 薫は慌てて顔をひっこめる。


 薫がビリィの方に視線をやると、身振り手振りで自分が囮になると言って来た。 薫と瑛太はビリィ1人では駄目だと合図を送った。 無言で合図を取り合い、いつもどおり薫とビリィが飛び込む事になった。


 今回も勝てない予感が否めない。 薫とビリィは目で合図を送って、屈んで突っ込んで行く。 居ると思っていた伊織と紫苑の姿が見えない。 薫とビリィはすぐさま伏せて、辺りを見回す。


 薫とビリィは頷き合うと水タンクの入った籠まで、付近まで足音を立てずに移動する。 背後で水鉄砲の引き金を引く小さな音を耳が拾った。 薫が振り返る前に後頭部に、水鉄砲の銃先が当てられる感覚がして硬直した。 すぐにビリィが動いた、薫の背後にいる伊織に回し蹴りを放つ。 伊織は上半身をかがめただけでビリィの蹴りを避ける。 ビリィの背中に紫苑が撃った水弾が当たる。 ビリィは屈みながら、水タンクの籠の向こう側に移動した。 薫は、ビリィが伊織を相手にしている隙に水タンクの籠の向こう側に移動する。 くしくも水タンクが入った籠を挟んで薫とビリィは、伊織と紫苑と向かい合った。


 伊織たちの背後から、良人と瑛太が薫たちの援護に回る。 薫たちの水弾は、全く、伊織たちの胸の的に当たらない。 水タンクの籠を背にして隠れると、薫の頭の上を水弾が飛んで行く。


 「ビリィ、どうする?」

 「やばい、瑛太くんたちがやられる」

横目で水タンクの籠の向こう側を覗き見していたビリィの顔が強ばる。

 「薫くん、援護に行くよ」

 「よし!」

薫とビリィは水タンクの籠を飛び越えて、瑛太たちの援護に向かった。


 自然と薫と良人、ビリィと瑛太に分れて、それぞれ伊織と紫苑を相手に、水鉄砲の撃ち合いが始まった。 お互いがお互いの水弾を器用に避けて、水弾を撃つが、避けられる。


 「くそっ! 全然、当たらない!」


 地面が水弾を弾いて靴を濡らす。 薫と良人で伊織を挟むと、同時に狙う。 伊織がニヤリと嗤うとギリギリで水弾を避ける。 伊織は両手に水鉄砲を持って、薫と良人を狙う。 薫と良人は、飛んで水鉄砲の軌道から逃げる。 ビリィたちも薫たちと同じだった。 中々、いい勝負だったのだが、イベントの終わりは、いつも突然に起こる。 この男の乱入によって。


 上空からヘリコプターの音が近づいて来る。 ヘリコプターによって起こされる暴風に皆の髪が乱れる。 上空を見上げて皆が唖然とする。 相葉グループの会長がヘリコプターから垂れた梯子にぶら下がって水鉄砲を薫たちの方に向けている。 会長だけでなく、ヘリコプターにぶら下がっている会長の部下も薫たちを狙っていた。 動く間もなく、水弾の雨が降って来る。 薫たちはもちろん、伊織と紫苑を巻き添えをくう。


 薫たちは、器用にジグザグに避けながら生垣のを飛び越えていく。 ヘリコプターから塵尻に逃げた薫たちを見止めると、パイロットに合図を送る。 ヘリコプターから大量の水が地上に放たれた。


 見上げた薫たちは、驚愕に震える。 『そんな事したら、溺死するだろうが!!』と全員が声にならない叫び声を上げた。 伊織が全員に指示を飛ばす。


 「紫苑は、すずを頼む! 蘇我! 俺に掴まれ!」


 紫苑は頷くと隠れていた鈴子をおんぶすると、近くの木の上を器用に登っていく。 伊織も志緒をおんぶすると、薫たちに指示を出す。


 「お前たち! 早く木に登れ! 大量の水が落ちてくるぞ!」


 薫たちがそれぞれ、軽々と木に登ると大量の水が聞いた事がない音を立てて地面に落ちた。 大量の水は直ぐに濁流となって薔薇の生垣で出来た迷路の中を流れて行った。 暫く、濁流を眺めていると緩やかになって、水かさも減っていく。 薫たちの気持ちが落ち着いたころ、大量の水は土に吸い込まれてなくなった。 薔薇の生垣が水を弾いて水玉になって、陽射しで光っている。


 乱入した会長の所為で、皆の戦意を喪失させた。 会長の反則的で殺人的な所業で、話し合いの末今回、初めて薫たちが勝利した。 しかし、全く心から喜べない薫たちだった。


 そして、イベントの後は、いつも恒例にしている打ち上げがある。 打ち上げの事を思うと溜め息しか出ない薫たちだった。 

『僕たちの場合』を読んで頂き誠にありがとうございます。

気に入って頂ければ幸いです。

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