16日目
今日からは自転車登校が解禁されるから、あの地獄みたいなバスに乗らなくて済む。
気がとても楽だ。
ただ、自転車を指定の場所に止めようとしたら、皆の駐輪の仕方が雑すぎて止められるスペースがないという問題が発生した。
そのため指定の場所から少しはみ出してしまったが、仕方ないだろう。
他の生徒の自転車に触ったら何されるかわからないし。
教室の中は相変わらずうるさかった。
いや、昨日よりもうるさいような気もする。
そんな中で一人だけ、うつむいてスマホをいじっている人。いた。
彼と話すために僕は昨日脳内で会話のシミュレーションまでしていたのだ。
今話しかけて、友達になるぞ、頑張れ僕っ!
「おっ、おはよ。僕は晴斗っていうんだ。これからよろしくね」
よし、言えた。最初少し噛んじゃったけど。
彼は無表情のまま僕の顔を見て、そして言った。
「……おはよう、俺は拓哉。よろしく」
拓哉はその後すぐにスマホに顔を向けてしまった。
あれ、もしかして迷惑だったかな。
彼もコミュ障で話しづらいだけかもしれないし、会話を続けていこう。
「えっと、拓哉って呼んでいいかな?」
「うん」
「わかったよ。た、拓哉はどこらへんから来てるの?」
「松戸」
「え、僕、松戸結構行くよ! 良いとこだよね」
「うん」
想定していたより、話しづらかった。
拓哉はスマホを触りながら適当に返事をしているようだ。面倒臭いオーラを出してるような気もするが、気のせいだよな。コミュ障だから……だよな?
質問の内容とか、あらかじめ結構考えておいて良かった。
「んー、拓哉と同じ中学の人とかこのクラスにいるの?」
「いない」
「そうなんだ、僕は少しいるけど全然話したことない人なんだよ」
あ、まずい、会話が途切れた。
えっと、えーっと。
「だから、拓哉が高校で始めての友達かな」
「友達……」
彼はスマホから目を離してこっちを見た。
友達というワードに反応したのか。
やっぱり彼は僕を面倒臭いと思っているわけではなく、コミュ障で上手く話せないだけなのだろう。
「ふふっ」
拓哉は始めて僕に笑顔を見せてくれた。
どうやら、友達作りは成功したようだ。