14日目
「雪羽、進級おめでとう」
「今日は好きなだけ食べていいからな」
「ありがとう、お母さん、お父さん」
笑顔で答える僕の姉、雪羽。
僕達家族は四人で寿司屋に来ていた。
少しお高めな値段設定の店だ。
来た理由は、雪羽の進級祝いのため。彼女は今年度から高校二年生となった。
雪羽は寿司が大好きなのだが、僕はそれほど好きではなかった。
両親もそれをよく知っているのだが。
僕も、高校一年生になったんだけど……。
と言っても、自分だけ祝われないことにはしっかり納得しているつもりだ。
理由はいくつかあるが、雪羽の高校と僕の高校の偏差値の差は二十を超えているというのが一つ。僕の方の偏差値が三十九で、低すぎるのだ。
あとは普段の生活だろう。明るくてそれなりに両親と会話をする姉と、暗くてほとんど口を開かない弟。
どちらを優先してお祝いするかなどわかりきっていたことだった。
「……おめでとう」
「うん、ハル、ありがと」
姉は僕にも笑顔で返してくれた。
ハルと言うのは僕の名前の略称だ。本名は晴斗という。
姉が生まれた日は雪だったから雪羽。
僕が生まれた日は晴れだったから晴斗。
同じような名前の付け方なのに、いつの間にか性格も扱いも同じではなくなっていた。
「……はぁ」
「なにため息ついてんだよ」
色々と考えてつい大きく息を吐いてしまうと、父親が怒気をはらんだ声でそう言った。
あぁ、僕だけ、いつもこう。
姉弟差別は父親の方が酷いのだ。
「ごめんなさい」
その言葉で父は僕の方を見るのをやめた。
これだから家族で行く外食は嫌いだ。
早く終わらないかな……。
帰ってスマホを確認するとさらゆりかから不在着信があった。
外食中に電話なんて来てたら父親が怒っただろうから、置いてきて正解だ。
すぐに僕の方から電話をかけると、彼はすぐに出てこう言った。
「なんで出なかったのー! どしたん? 話聞こか?」
「ぷっ」
あははは、と僕は声を出して笑った。
どしたん? 話きこか? というのが、最近ツイッターで流行っているネタだから。
出会い厨発言として話題になっている。
やっぱり僕の居場所は家庭じゃなくて、ここにあるのだ。
さらゆりかだとかのドンだー友達。
その後、さらゆりかは明後日空いてない? と聞いてきた。
学校終わりの午後は予定がなかったため近くのショッピングモールへ行くことに決定。
外食中は一切笑えなかったけど、通話のおかげで楽しく笑えた。
さらゆりかに感謝だ。
さて、明日はついに高校生活初日。
今度こそ友達作るぞ!