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実験作  作者: げるとう
7/13

進展

少女は噂話を集めていた。

男の、或いは悪霊の。

公式発表とデマの入り混じる中で、ただこの異変の流れを追っていた。

とはいえ不思議と物怖じしなくなった少女は、それだけでも周囲からすれば異変。

世間の動きとは別に、少女の身辺にも動きがあるのが当然……といえば当然だった。

しかしそれはまた少し別の話である。

なにしろ人生を狂わされていく人間は1人だけではない。

「おじいちゃん、やっぱり危ないことはしない方が……」

そう心配の声を浴びている老人は既に平均年齢を超え、杖を突いて歩く人物となっている。

「わしはもういつ死んでもおかしくない身。このまま座して見ているわけにはいかんのだ」

消えた孫のためにも、と強い語気で咳き込む。

「ほら、すぐそんな咳をする。探す以前におじいちゃんが行方不明になっちゃうよ」

宥めるのは少年であるが、その少年の目が見開かれる。

「なに……あれ……」

老人も硬直していた。

「…………」

無言で近寄ってくる存在に少年は我に返り、老人の手を引いて逃げようとする。

「待て。わしは残る」

言葉にならない言葉で少年は老人の手を引く。

しかし老人は動かない。

噂の通りであれば、あれが探していた存在だ。

デマかもしれない。

公式発表にはない。

だが、いかにも怪し過ぎる。

ならば……

「わしの孫を、どうした?」

答えがあるはずなどない。

答えを返すような存在には見えない。

それでも何らかの反応は示すだろう。

「……そうか、お前だったか」

老人はその場に腰を落とし、あぐらをかいた。

「あやつは昔から不器用な子じゃった」

ぶつぶつと呟く。

「よく虐められもしたし、仲の良い友達もいなければ良い仲の異性もおらんかった」

少年は手を掴みながらおろおろするだけで、近付く存在に目をやりながらたじろいでいる。

「ただ1人の孫というわけではない。出来の悪い孫が大切だったわけでもない。わしだって、それなりにぞんざいには扱ったつもりだ」

涙を流すわけではない。

「だからといっていなくなってほしいと思うわけではない。家族からも見捨てられたあの子を、わしはそれでも孫の1人だと思っておった」

少年はそろそろパニックになったのか、遂に手を放して逃げ出した。

が、今までとは全く異なる速さで滑るように追ったそいつは、まるで齧り取るように少年を襲った。

「あの子が抱いていた気持ちが、わしにも今、漸く正確に分かった」

人生への失望、家族への不満、異性への憎悪。人類社会全体が自分の敵。

しかし無力だからこそ反抗できない。

孤独で孤立しているからこそ反発する気力も起きない。

だがもし、そんな人間に力があったら。

団結して対抗できるようになったら。

けどもただ集まったところで限界は早い。

だからと言って自分一人でできることには限界がある。

だがもし、集まってなお一人になることができたとすればどうだろう。

もしかすると、積年の蓄積を形にすることができるのかもしれない。

「この世に生を受け、望まぬものあるべきや」

少年の始末を追え、老人のところに戻ってきたものが向かい合う。

「わしに心残りがあるとすれば、終ぞ孫を探し当てられなかったことだ」

それ以外にもう未練はない。

自分はもう充分に生きた。

充分にも満足にも生きられなかった1人の孫が、孫の1人として気掛かりであった。

「あの曾孫のように、わしのことも済ませるか?」

少年は曾孫。

それをまるで赤の他人のように。

この時点で、老人も幾分染まっていたのかもしれない。

まるで心の闇が寄せ集まったかのようなその存在に、老人は呑まれ――――

たのではなかった。

何かを飲まされたのだ。

「これは……っ!」

立ち上がる。

杖は要らない。

果たして老人からは、未練が消えていた。

「……!? あ、あやつは?」

一体どこに。

そう、口籠るようにして。

姿が消えていた。

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