異変
「うわぁ……」
「ひどい……」
「これは……」
漏れ出る群集の声が指し示す先にあるのは、無残な姿となった少女の遺骸であった。
中にはもちろん動画や画像に保存して拡散を図る人もいたが、そんな彼らでさえも気味悪がって近寄ることはしないほど。
おれは足早にその場を離れ、立ち去ろうとした。
「ちょっとキミ、待って!」
声をかけられた。
「…………なんでしょうか」
聞かれても答えることはない。
「第一発見者、わかる?」
「知りませんね。おれが来た時にはもう野次馬が集まってたんで」
「あっそ、じゃあ行っていいよ」
相変わらず無礼なやつらだ。
おれには彼らについて良い思い出がない。
昔からそうだ。
前世からそうかもしれない。
まあ、そんなことはどうでも良いことだ。
この騒ぎは早くも大ニュースになっている。
なにしろ繁華街の雑踏で起きた猟奇的事件だ。
耳目を集めないわけがない。
速報では遺留物が多く残っていて、犯人は早晩特定されるだろうと言っていた。
とは言え、おれには関係のないことだ。
なんなら連続した事件になっていけば良い。
それにしても。
おれには今や人間関係らしいものが残っていないから、会話する相手もいない。
喋ることがないから口を開けるには基本的に食べるときだけだ。
ということは、食べることもなくなれば本格的に口を開くこともなくなるな……と思った辺りで。
おれはそれに遭遇した。
禍々しいとでもいうべきか、人としての気配を感じない。
形容するなら、例えば、悪霊とか。
怨霊かもしれない。
ホラーものであれば目が合えばそこで物語開始、必死に逃げて怖い思いをするのだろうが。
生憎と現実はそんなものではなく。
その日、1人の男が闇に吞まれた。