終焉
廃墟になったからといって、生存者がいないわけではなかった。
むしろ標準的な核爆発程度では"廃墟程度にしかできない"のだから、生き残る可能性は充分にあった。
しかし、問題は都市インフラが壊滅したことにある。
水、電気、ガス、通信は言うに及ばず、交通が事実上途絶している。電車や自動車といった輸送機械はおろか徒歩が有効な区間さえ限られてしまっているのだ。
地下へ避難した人を中心に相当数が命を留めたわけだが、それが却って苦難を生む。
都市というものはその領域内で完結する生活システムにはなっていない。消費に偏重し、生産がその人口に比して極めて少ないのだ。
生きるためには争奪戦が避けられなかった。
15年後
世界各地の都市は軒並み廃墟と化していた。
人類が無策だったわけではない。
だが、対策を講じるよりも早く新たな災害が襲ってきたのだ。
廃墟になった都市からは例の男の亜種ともいえる存在が湧き出し、地方を襲う。
人口が集積している地域を単発火力で崩壊させ、人口の疎らな地域は群体で襲撃する。
湧き出す、というだけあって群体の規模は無限とも評すべき永続的なものであった。
廃墟になった都市から定期的に、或いは不定期的に現れるならば、その都市を吹き飛ばしてしまえば良いかもしれない。
だが、内部には生存者がいるのだ。それも相当数が。
果たして自国民を諸共に消し去る選択肢を、それも直ちに選べるものだろうか。
精々、湧き出した群体を迎撃することで封じ込めるくらいしかできない。
そうしている内に廃墟は増え、そうなると湧き出し拠点は増える。結果、戦力が不足する。
そのうち指揮系統も麻痺するのであり、文明全体が終焉を迎えることとなったのである。
「さすがにもう誰も残っちゃいないか」
女は山奥にいた。
山岳地帯には群体も押し寄せて来なかったが、それは人間が逃げて来れなかったからでもある。
僅かに逃げ延びてきた人間もいたが、多くは野生動物との生存競争に勝てなかった。
「10年経ったか、15年か。20年かもしれないが、こんなにも変わっちゃうもんかね」
人里、という言葉からイメージするような農村の光景ではない。
現代社会では相当な田舎までも建築様式が現代だ。都市部の民家とそう変わらない。
「それにしても、人間が滅んだのなら野生動物が跋扈してると思ったけど……」
そうも見えない。
しかし、確実に何かがいる。
「一体何が……?」
そこで不意に取り囲まれる。
「旧人類の生き残りか?」
どちらのセリフにもなり得るこの一言は、果たして取り囲んだ側の言葉であった。
「旧人類と言うからには、ホモサピエンスは滅んだのか」
「滅んだ。しかし、お前、ただの旧人類ではないな……?」
「いかにも。言うなれば、その旧人類を滅ぼしたヤツの同類だ」
取り囲んでいた者たちがどよめいた。
ハイティーンに見えるその者たちは、一見すると普通にホモサピエンスだ。
「そうすると神の化身か」
「あいつは邪神だと言ってたけどね」
それが本当にホモサピエンスなのかはわからないが、あの男のことだ。何かしたに違いない。
「私は避難していたので文明崩壊から今までの事を知らない。知っているなら教えて欲しい」
こうして言語が通じるなら、相応の記録や情報も残っているはずだ。
そして新人類……のような何かは、互いに顔を見合わせ、そして少し何かを話し合った後、受諾した。