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実験作  作者: げるとう
10/13

崩壊

宣言などというものはない。

戦争ではないし、まして政治的なものではない。

だから宣戦布告というものはないのだ。

皮切りになったのは郊外の住宅街、一夜にして単純且つ原始的な暴力の犠牲者が地域単位で出現する。

ここにきて今更のようにメディアは大きく騒ぎ始め、行政も対策本部を置いた。

それゆえに私もあの男の動向を逐一知ることができているのだが……

対応が後手後手だ。

自分の内にある能力を認識するようになってまだ何日も経ってはいないのだが、この能力が本当に申し訳程度であるというのなら、あの男の能力はもはや異能であり魔法だ。科学技術の類いではない。

今自分のいる都心のさらに中心部である行政区から見れば、川を超え県境を跨いだ先の出来事であるから目視することは困難だ。

しかし、見て取れるのだ。

視力が良くなったからではない。

昼間の空が赤くなるほどに街が燃えているのだ。

たぶん、男は発火装置を用いずに火を放つことができる。

だからあれだけ焼き尽くすことができる。

そう内心で観察していると、横にいる学友が震えていた。

「この国、どうなっちゃうのかな……?」

携帯端末で報道映像を見ているらしい。

確かに、これだけ衝撃的な映像を見れば恐怖も襲ってくるだろう。

「国だけで済めば良いけどね」

「それって、どういう意味?」

「聞き返すほど難しい話?」

「…………」

黙り込んでしまった。

ちょっと可哀想だったかもしれない。

「ねえ、これ警察だけじゃどうにもならないよね?」

「たぶんね」

「じゃあ、軍隊でもダメかな?」

「わからない」

そう返すと、また黙り込んでしまった。

たった1人を相手に治安出動ができるだろうか。

出動したとして、本当に倒せるだろうか。

能力はただ火を発するだけではない。

「あの人、焼いてるのはたぶん、試しただけだと思う」

「どういうこと?」

映像では男をリアルタイムに上空から映していて、ちょうど逃げ遅れた人が火に巻かれている。

「……っ!」

学友が目を逸らした。

自分が代わりにその端末を覗き込む。

「積極的に火をつけようとはしてない。でも、色んなつけ方をしてる」

―――ということは。

「まだ、自分の力を把握しきれていない?」

能力を効果的に使おうという姿勢が見られない。

「……逃げよう」

「え?」

「都市部、というか人間の居住範囲にいたら危ない」

「どういうこと?」

可哀想なことに、学友はさっきから一切話についてこられていない。

そこへ別の級友が飛び込んできた。

「すぐ帰れだって!帰宅できない人は体育館集合って!」

対応が遅い。

そもそも、朝の登校時間前に自宅待機を連絡するレベルの出来事だと思うんだけど。

「じゃあ、私は行くよ」

「え、待って。私も帰るから、一緒に……」

「家に帰るつもりじゃないから。そうね、取り敢えず首都圏は脱出しておこうかな」

呆気に取られる学友たちを残して校舎を出た。

「さて……」

自分の端末で改めて様子を見るのだが、今度は随分と大きな瓦礫を投げ飛ばしていた。

もはやというか、当然に人間の身体能力ではない。

近くの装甲車両がその瓦礫に貫かれていた。

人間の持つシールドではどうにもならないだろう。

紙っぺらで剣を受け止めるようなものだ。

やがて広い交差点に差し掛かった。

「マシンガン……かな?」

ピストルらしいものは先ほど扱っていた。

もちろん、男に向けてだ。

見通しの良い場所でずらりとマシンガンを並べて……

「あれ?」

報道レポーターがなにやら叫んでいる。

マシンガンに注意を向けさせた上で狙撃したらしい。

だが、直撃したはずの弾丸は男を貫いていなかった。

「もう人間戦車か何かかしら、あいつ」

ライフルやマシンガンでも傷1つ付かないとなれば、大砲でも仕留められるかどうか疑わしい。

「どっかの映画じゃないけど、1人を止めるためだけに核兵器を使うなんてことになるのかしら」

と、映像が消えて着信が入る。

「あ、もしもしお母さん?」

今どこにいるのか、という通話だった。

「ううん。帰らない。このまま避難するつもりだから、お母さんたちも早く避難した方が良いと思うよ」

困惑する母を尻目に、そのまま首都圏を離れていく。

既に家族すら見捨てて自分だけが助かる行動を選んでいたのだ。

私はもう普通の人間では不可能な環境でも生存する自信がある。

但し、あの男のように現代兵器の破壊力を前に生き残れるとは思わない。

だから取り敢えずは、巻き添えを食わないような地域へ。

その後は山奥にでも逃げ込めばきっと大丈夫。

終わってから戻って来れば良い。

その時に世界がどう変わっているかはわからないけども――――

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