6話 外来種
――3日後
「な! もう200枚全部描いたのか!?」
「かなり頑張ったからね!」
「それにしても早すぎじゃよ……200枚何て多分1ヵ月はかかるぞ普通……」
(まぁ初日に全部描き終わってたけどね……)
「そういえば、無地のカードは届きましたか?」
「そうじゃった。今朝丁度届いたぞ! これじゃ!」
そういって村長は、箱に入った無地のスペルカード500枚をネアンに手渡した。
「何か……枚数が多いようだけど……」
「いいんじゃ。200枚も描いてもらったんじゃ。これでも少ないくらいじゃよ……」
「有難う、村長!」
「それと、約束の代金じゃ」
村長はそう言うと、袋に入ったコインをネアンに手渡した。
「これも少し多くないか……?」
数えるとそこには白コインが100枚入っていた。
「短納期でやってくれたからのう! その分上乗せじゃ!」
「しかし……」
「いいんじゃ。どうか有効活用してくれ」
「有難うございます」
「すぐに発つのかい?」
「ええ」
「そうか。気を付けて行くんじゃよ」
「はい。また来ることがあればお土産をもってくるよ」
そういってネアン達は村を離れた。
・・・
・・
・
「さて、忘れ物は無いね?」
「ないよー!」
「そもそも、持ち物があまりないですからね」
「あはは。その通りだね。とにかく、あそこに見えている山を目指して一直線だよ。列車まで二時間あれば到着できると思う」
「はーい!」
中央山は大きい為、木に登ればすぐにその姿を確認できる。
(デバシーのマッピング機能も復活しているな……迷子にはならないだろう)
「じゃぁ行こうか」
「うん! 行ってきます!」
ツグユは小屋に対して元気よく挨拶した。
この小屋とはしばしのお別れだ。
・・・
・・
・
「整備された道だし、分かりやすくて助かるね」
村の人が外に出る事は滅多にないようだが、列車へ向かう際はこの道を使っているそうだ。
簡単ではあるが整備されている為、二人の少女にも歩きやすい道である。
「にしても……この身体だと全然疲れませんね。やはり若いからでしょうか……!」
「あはは、かも知れないね」
「ツグユは元々全然疲れないよ!」
「凄いなツグユ! 結構歩かなくちゃいけないから、頑張って最後まで歩くんだよ?」
「はーい!」
ツグユはそう言いながら先に走って行った。
「ツグユ! 今はそんなに走らなくていいから! 皆で歩いて行こう!」
そう言った瞬間、ツグユが森の奥を見つめ後ずさりしている姿が見えた。
「ツグユ……?」
ネアンは異変を即座に察知し、ツグユの元へと駆け寄った。
「ツグユ! 大丈夫か?」
「お兄ちゃん……あれなに……? 怖いよ……!」
ツグユの指さす方向には、異様な雰囲気が漂う兵士が居た。全身白い鎧で、鎧の隙間からは真っ白に光る霧が漏れ出している異形な姿だ。
全身白い鎧で、鎧の隙間からは真っ白に光る霧が漏れ出しており、ヘルムからは赤く光る眼が一つだけが見えている。背中の中心には天使の輪っかの様なリングが少し宙に浮いた状態で固定されている。
「こいつは……[外来種]……! 何故こんな森の中で……」
(リングは一つ……"フォーム1"か)
ネアンは即座に光球を出現させ、魔法陣を展開した。
「さなえ! ツグユと一緒に少し離れていて!」
「わかりました!」
(ネアン)――ディスオーダーマジック・ペイン
光速の光魔法を機動力とし、超高威力の闇属性の槍を無数に放つ。
ネアンは複数の槍を展開し、外来種へ撃ち込んだ。
(ネアンさんのあの魔法……一体何でしょう……! 恐ろしい魔力を感じます……)
――シュウウウ……
「な! 一切ダメージが無い?!」
外来種に魔法が触れると、そのまま魔法はキラキラと粒子化し、小さな音と共に綺麗に消滅してしまった。
(あの吸収の仕方……スペルシールドに酷似している……!)
「くそ……剣は無いが……!」
ネアンは右手を手刀の形にし、闘気をため込んだ。
("フォーム1"なら何とかこれで切れるだろう……!)
(ネアン)――魔装・一閃
剣先に闘気を込め、垂直に斬る。闘気の強さで、威力が大きく変わる。
今回は手刀にて使用。
――ザンッ!!
「グガァァァ……」
ネアンの剣技により、外来種は胴体から断ち切れ、そのまま消滅していった。
その反動で、ネアンの右手の指はぐちゃぐちゃに曲がっていた。
(切り込む際に、手に纏った闘気を殆ど持って行かれてしまった……闘気を飛ばすタイプの剣技は魔法と同じく消滅させられてしまうだろう……何なんだこれは……)
(ネアン)――ヒーリングライト
考え事をしながらネアンは回復魔法を使い、手は元通りに完治した。
「ふう……しかし……何故[外来種]がこんな所に……それに魔法が……」
ネアンは知っている情報より遥かに強くなっている[外来種]の出現で、底知れない不安を感じていた。
([外来種]……私が生き返った理由と関係があるかもしれないな……)
「あの、その[外来種]って何ですか……?」
さなえは怯えるツグユを撫でながらネアンに聞いた。
「ああ、どこから話せばいいのか……ちょっと休憩がてら説明しておこうか」
大きめの岩に腰を掛け、ネアンは話し始めた。
「この世界にはシャドウと呼ばれる魔物が存在する。厳密にいえばシャドウとシャドウが乗り移った動物を魔物と呼ぶんだけどね……」
ネアンは絵を描きながら説明を始めた。
「シャドウは生物に憑依する事で自身の力を高める習性がある。故に、動物やヒトなど生きた者を襲うんだ」
「そして……[外来種]だけど、これはシャドウとはまた全く別の脅威……元々この世界には居なかった生物なんだ……」
[外来種]……初めてその姿が確認されたのは、遥か昔、フィアンとネビアが宝珠と一体化する少し前、地下ダンジョン内である。
・・・
・・
・
シャドウの様に黒い瘴気と禍々しい鎧を纏った姿とは正反対……真っ白な瘴気と頭上で浮く天使の様な輪っか、そして真っ白な鎧姿……聖騎士や天使などと言われても違和感が無い程に神々しく見えたソレは、丁度シャドウを切り刻んでいる最中だった。
「シャドウを殺している……味方か?」
フィアンは敵意を感じなかった為、ソレに近づいたがその瞬間、外来種はこちらへ攻撃を仕掛けてきた。
「来ます! 戦闘態勢!」
・・・
「中々の動きだったな……」
「ええ、結局ディスオーダーマジックと剣技しか利きませんでしたしね……」
「とにかく……味方ではない様だな」
フィアンとネビアはこの存在を鎖で拘束し、神治博士の元へと運んだ……。
それを境に地下ダンジョン内でその姿は時々確認されるようになった。
その都度、捕獲できた場合は神治博士の所へ運び、研究を重ねた。
「神治博士、何か分かった?」
「いや……全くの未知じゃ……こいつの身体を構成している物質……全て初めて見るものじゃ……この世界もじゃが、地球でも見た事が無いわい……」
「そんな奴が一体何故この世界に……」
「非現実的な言い方をすると、宇宙人とかUMAじゃな……!」
そして……神治による研究が進むにつれ、いつしかソレを[外来種]と呼ぶようになり、シャドウの様にいくつかの姿がある事が判明した。
特徴ともいえる天使の輪っか……これは個体によってリングの個数が異なり、リングの数が多い程強力な力を持っていた。
神治達はリングの数に合わせて外来種をフォーム1、フォーム2と呼ぶようになった。
この時、確認されている最大数はリングが3つのフォーム3である。
いずれにしてもこの時代の外来種は、光と闇の複合魔法であるネアン専用とも言える[ディスオーダーマジック]や剣技ならダメージを与える事ができる上に、地下ダンジョンにしか現れなかった為、そこまで問題視はしていなかった。
・・・
・・
・
「とにかく、[外来種]は元々この世界には存在しない敵……といってもピンとこないだろうけど……」
「そうですね……あたしからすればシャドウも外来種も未知なる存在ですが……」
「地球にはそんな者はいなかったもんね……まぁ外来種は分かりやすく言うと宇宙人? かな?」
「この世界を侵略に来た宇宙人みたいな感じでしょうか……」
「そうそう! まさにそれだよ! まだ確定したわけでは無いけど……とにかく、シャドウと同じく生物を襲うから……敵だね」
「分かりました。気を付けるようにします!」
「そうだね。見かけたらすぐに私に知らせて欲しい。さっきのは白かったけど、シャドウはあれと真逆で全体的に黒い……両方危ないから注意してね」
「わかりました」
「ツグユ……さっきの様な奴を見かけたら必ず私やさなえの所にすぐ戻ってくるんだよ」
「うん……」
さっきまで楽しそうだったツグユの顔は完全に怯えた顔に変わっていた。
(あまり意識出来ていなかったけど……あんなの見たら普通の子供なら恐ろしすぎるよな……おばけみたいなもんだしな……)
ネアンはツグユを怖い目に合わせてしまった責任を大きく感じていた。
どうすれば外来種やシャドウを見ないで済むか……頭をフル回転し、それを考えていた。
すると……ツグユは顔を振り、きりっとした目でこちらを向いた。
「お兄ちゃん。さっきみたいなやつ……ツグユも倒せる?」
「え……?」
唐突な質問にさなえとネアンは目を合わせた。
「いや、大丈夫だよ。私が倒すから……」
「だめ! ツグユも倒せるようになりたいの! さっきは怖くて動けなかったけど……ツグユも役に立ちたいの」
「そうか……」
ツグユは拳を力強く握っていた。
「ネアンさん……実は魔法の勉強をしている時、ツグユはずっと役に立ちたいって言ってたんです。怖いのが来ても倒せるようになりたい。足を引っ張りたくないって……」
「……」
ネアンは少し何かを考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「分かった。でもまずは私が倒している姿を後ろで見る……あの怖い姿に慣れるところから始めようね。それに、私が教える魔法は……多分効かないから……」
「うん! 次は頑張る!」
(私はシャドウや外来種から遠ざける事ばかり考えていた……だが、そう言う訳にも行かないな……)
「わたしも姿を見て萎縮してしまいましたが……ツグユやネアンさんの役に立てるように頑張りますね!」
「二人とも……強い子だね……」
「強い子ですよ!」
さなえは自分の胸をドンと叩いた。
「さて、多分後1時間くらい歩けば駅に着くよ。頑張ろう!」
(仮に……外来種がスペルシールドを装着しているとなると、効果があるのは剣技と新生魔法……)
ネアンの表情は少し暗くなった。
(私も新たな魔法を覚える為に動かなければ……しかし、今の力と代償を捨てる覚悟が私には……)
考えはまとまらないまま、ネアンは再び歩み始めた。




