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5話 出発前

――前略


 スペルシールドの起源は[完全反作用魔法陣]の発見からだと言われている。

 当時、魔法研究において最先端を進み、二度と現れる事が無い天才と言われている人物[神治博士]によりそれは発見された。

 今は古代魔法とされている闇魔法※1[ドレインマジック]の研究で、闘気も一緒に吸い込むことはできないだろうか? という研究から始まり、長年の研究の末[ドレインマジック]での闘気吸収は叶わなかった。しかし、その過程で[完全反作用魔法陣]は発見されたと残されている。

 ※1魔法陣を描きそれ自体に効力が発生する。放たれた魔法等の魔力を吸い取ることができる。闘気は全く防ぐことができない。


――中略


 [魔力と微量の闘気→形状・形態変化→魔法発現]のプロセスを経て魔法は発生するのは周知の事実ではあるが、彼の研究によりそのプロセスを一切のズレ無く[魔法発現→形状・形態変化を逆流→魔力と闘気]に戻す模様を作り出したのだ。

 これが発見された当時はそこまで大きな事態としては扱われなかった。理由は単純で、使い勝手の悪さだ。

 [完全反作用魔法陣]は魔法の種類に合わせて全く異なる魔法陣をそれぞれ用意する必要があった。

 神治博士は、当時発見されていた魔法(古代魔法)に関しては全て[完全反作用魔法陣]を作り上げていたが、実際に使われることは殆どなかったと言う。


――中略


 そして現在……技術の進歩により、魔法陣を描きこんで機械に定着させることが出来る技術※2[エルフ族の機械刻印]開発によりその魔法陣が大いに活用された。

 その中で生まれたのが、古代魔法全ての[完全反作用魔法陣]を刻み込み、魔法が飛んできた際に自動発動させる事ができる[スペルシールド]の完成だった。


 ※エルフ族は自身の身体に魔法陣を刻み込み、その魔法に限っては魔法陣を描くことなく無詠唱で発動できる技術を持つ。

 その技術を機械に転用したのが[エルフ族の機械刻印]である。


 [スペルシールド]の装着が半義務化された今の時代、魔法による殺人や犯罪が大幅に減少した。

 だが……それに対抗する為、スペルシールドには刻まれていない新たな[新生魔法]が生み出されている……トリガーに使用されるバレットスペルもその一つだ。特に、製造が比較的容易なバレットスペルカードの販売は厳重に管理されてはいるが、そんな中でも[トリガー]による犯罪は後を絶たない。

 現代の進んだ技術でも、新たな[完全反作用魔法陣]を作る事は一切できない。神治博士が今の時代も居てくれたら……そう思う者も多い。


 生み出されていく新たな技術を悪用されるのは本当に悔やまれる。そういった悪人が減っていくのを切に願うばかりである。


――[古代魔法とスペルシールド]著:魔法研究所


・・・

・・


 さなえとツグユは魔法陣を描いて魔法の練習……ネアンは村で借りてきた本を読んでいる。


「難しそうな本ですね」


 さなえがネアンの本を覗き込んだ。


「そうだね。でもかなり興味深いよ……」

(技術の進歩ってのは良い事ばかりではないみたいだね。でも、スペルシールドがほぼ義務化されているという事は……やはり悪い奴らも装着しているのだろう……私はともかく、この二人には安全のために魔法装具を装着してもらった方がよさそうだな)


「それより、水魔法は上手く行った?」

「ええ、あたしもツグユも完璧ですよ。とりあえず中級まではですがっ」

「中級まで覚えたのかい! 本当に驚く速さで成長するね……」

「えへへ……先生が良いからですよ!」

「あはは、ありがとう」


(そろそろ出発してもいいかもしれないな……)


「よし、今日はここまでにしよう。今後の予定をご飯を食べながら話をしよう!」

「はーい!」


 そうして、一同は小屋に戻り、食事の準備に取り掛かった。


・・・


「さて……実はそろそろ出発したいと考えていてね……もちろん道中でも教えられることは全部教えて行くつもりだよ」

「ついに冒険するんだね!」

「ふふ、楽しみですね」

「いやいや……最初にも言ったけど、本当に危険な旅なんだ……野宿とかもフル活用する事になるだろうし……」


「ネアンさん! それはもう十分に分かっていますよ。ツグユだってその位頑張れるよね?」

「うん! キャンプ楽しみ!」

「キャンプって……」

「とにかく! 出発はいつですか? 準備もしないといけませんね!」

「えっと……明日か明後日くらいでどうだろう?」

「なら明日にしましょう! 使命を果たすのであれば1日でも早く行った方がいいですよね! あたし達のせいで遅れていますし……」

(来ないと言う選択肢はないようだね……まぁ何があっても二人は私が守る。大丈夫だろう)


「わかった。なら早速準をしよう。出発前に村に寄るからね。地図を借りられるかも知れない」

「はーい!」


・・・

・・


――村 村長の家


「中央都市に行きたいのなら、中央山を走る列車に乗ると良い。左回り路線に乗れば3時間もあれば着くぞ」

「……」

「ネアンさん、3ヶ月じゃなくて3時間ですって」

「聞こえているよっ!」

「えー……キャンプはー?」


「じゃが、そのままでは入国できんな……。魔法装具すら身に着けていない一行は最近じゃ稀じゃからな」

「そうなんだね……」

「そもそもおぬしらお金は持っているのかい?」

「お金……そう言えば魂片は一つも持ってないな……動物を倒しても出なくなっているし……」

「何を言っておるんじゃ。お金と言えばこれじゃ」


 村長はそう言って丸い2つの色違いの硬貨を見せてくれた。


「まさかお金も知らないのか……?」

「恥ずかしながら、地元では物々交換が主流でして……」

「そんな田舎が今でもあるんじゃな! おっと、それは失礼かの……とにかく硬貨の2種類じゃ」


白色コイン

黒色コイン = 白色コイン100枚


「こんな感じでコイン自体の価値が違うのじゃ。例えばこのパンは白色コイン1~2枚位が相場じゃ」

「なるほど……」

(白色コイン1枚が100円相当……黒色コインは1万円位って所だろうか……相場も調べないといけないな)


「もちろん列車もお金がかかる……一人当たり白コイン30枚じゃな」

「てことは三人で白90枚か……」

「魔法装具は無いしお金もないし……どうしますか? ネアンさん」

「やはり歩いて行くしかないのか……」

「そういう事ならここで少しだけ仕事をせんか? 列車の乗車費用さえ揃えば、中央都市の手前にある商業都市……そこにあるギルドに行けば仕事もあるだろうし、そこで魔法装具もそろえる事ができるじゃろう」

「そんな所があるんだね……! なら是非仕事をさせて欲しい!」

「分かった。じゃぁわしの家まで来てくれ」


 そういって三人は村長に連れられ、家へと向かって行った。


・・・

・・


「早速じゃが……」


 村長がそういって取り出してきたのは結構な量のスペルカードだった。


「スペルカードですか。でも……何も描かれていないんだね」

「そうじゃ。実はそろそろ村で保管しているスペルカードが底をつきそうでな……先日早速注文したのだが、今回トラブルか何かで出荷に1カ月以上かかると言われてしまったんじゃ」

「それは大変だ……」

「しかも今回は値段も2倍になると言われての……正直かなり困っておったんじゃ。そんな時に、ネアンさんが魔法を使えることを知ってのう……」

「魔法は結構使えると自負しているよ」

「そこで! この無地のスペルカードにこのリストにある魔法陣を描いてほしいんじゃ! もちろん枚数によっては電車賃以上にお金をお支払いするつもりじゃ!」


 スペルカードに魔法陣を描くだけの仕事……今のネアン達にとってはかなり良い仕事だと言えよう。


「私達にとってはありがたい話……しかし、村長が書いたりする事は出来ないのかい? 村の人のだれかとか……」

「それが出来れば一番いいんじゃが……無理なんじゃ」


 スペルカードの現状

 カードの上に魔法陣が描かれた物だが、魔法陣を描くには相当の魔力を要する。

 例えばバーンファイヤの必要魔力が100だとすると、それをスペルカードに描くには200以上の魔力を込めないとカードに定着させる事ができない。

 単純に普通に魔法を発動するより二倍の魔力が必要な為、かなりの魔力を消費してしまう。

 その苦労有って、使用者は一切魔力を使わずにスペルカードを使用できるわけだが……。


 初級魔法を描く場合も高い魔力を持つ魔法士が必要になる為、スペルカードに魔法陣を描ける魔法士はそう多くはない。

 カードは魔法研究所が主に発行しているが、スペルカードに印字できる人物はかなり重宝されており、多くの人材が囲われているのが現状だ。

 非常に高給なため、スペルカードを描くのを生業にしている魔法士も少なくないという。


「魔法自体を使える者も少ない上に、印字できるほどの魔力を持つものはおらんのじゃ……無地のカードを買ったのは良いが、そこまで魔力が必要だったとは正直調査不足じゃった……」

「なるほど……とにかく、多分私ならできるし、ぜひ協力させて頂こう。1枚いくらで買ってくれるんだい?」

「そうじゃな……この無地のスペルカード自体は10枚で白1コインじゃ。そして、この無地カードに初級魔法を描くと……1枚白1コインに値段が跳ね上がる。

「かなりの利益が出るんだね……」

「だから、100枚描いてもらえるのなら、白90枚で買い取ろう。どうじゃ?」

「ええ、それで手を打とう!」

「おお有難い! じゃぁ早速頼んだぞ! ここに描いている魔法をバランスよく描いてもらえると有難いのう」

「ええ!」

「ありがとう! 自分のタイミングでやってくれればいいからの!」

「村長、ちなみに中級や上級を描くと値段ってどうなるんだい?」

「んー……そうじゃな。中級だと白10枚、上級だと黒1枚はするのう」

「ならそれも描いてもいいかい?」

「ふぉっふぉ。描けるなら本当に凄いんじゃが……わしらには不要じゃよ」

「え……そうなんだね……」


 ネアンは一瞬目が輝いたが、すぐにしゅんとしてしまった。


「そんな凄い魔法があっても、使う場面がないからのう。水が出て、小さな火が起こせれば十分じゃ」

「そっか……高く売れるとしても需要が無ければ意味が無いね……」

「じゃが、それも商業都市なら売れるじゃろう! あそこには冒険者のダンジョンアタッカーが沢山いるからのう」

「ダンジョンアタッカー……中央都市にあるダンジョンですか?」

「おお、よく知っているの。その通り、中央都市にあるダンジョンの事じゃ。あそこに潜る奴らは常に中級・上級のスペルカードを求めておる。需要もかなり高いじゃろう」

「なら……そのダンジョンにはシャドウが居るのか?」

「そうじゃな。今となってはダンジョンは唯一シャドウが出現する場所じゃ……」

「なるほど……シャドウを倒すメリットは今でもあるという事か……」

「メリットも何も、この前お主が言っていた魂片……あれをエネルギーとして必要な物で溢れておるからのう。列車の動力も魂片じゃよ」

「そうだったのか。シャドウを倒すと落とす魂片……今も昔も需要は高いんだな」


 この先何をするにもお金は必要となってくる。村長の話を聞いて、ネアンは二つの稼ぎ方を模索していた。


(ダンジョンに潜るとなるとそれなりに時間も危険も伴う……私一人なら良いのだけど……)


「ん、お兄ちゃんどうしたの?」

「あ、いや……」


(二人が大人しく待ってくれるとは思えない。なら……)


「村長、無地のカードはすぐに仕入れる事は出来るのかな?」

「そうじゃな。無地カードなら頼めば2~3日で送って来てくれるじゃろう」

「じゃぁ無地のカード……300枚程注文してもらえないだろうか? 代わりに200枚を白90枚で描きますよ」

「本当か! それはかなり助かるぞ! なら、200枚と予備がここにあるから持って行ってくれ!」

「了解。なら預かりますね」

「いや~本当に助かるぞい」

「なら早速家で作業するよ! 完成したら持ってきますね」


 そういってネアン達は村を離れ、小屋の方へと戻っていった。


・・・


「無事にお金が工面できそうで良かったですね! でもこれを1枚づつ200枚も描くとなると……結構大変ですね……」

「そうだね、人差し指で1枚づつ描くとなると大変だけど……」


 ネアンはそう言いながら無数の光の球を出現させた。


「おお……蛍がいっぱいいるみたーい!」

「これで描けばすぐだね!」

「さすがネアンさん……!」

「じゃぁ……ちょっとお手伝いを頼めるかな? 机にカードを並べて欲しいんだ」

「お安い御用ですよ」

「ツグユもやる!」


 そういってネアンはツグユとさなえが並べたカードに対して、リストを見ながら光の球を操作し、一気に魔法陣を描き始めた。


――その夜


 さなえは予備のカードを持ち出し、ライトペイントで魔法陣を描いている……


――シュゥゥ……


「やっぱりだめですね……」


 さなえが魔法陣を描き終えると、蒸発するように魔法陣は消えてしまい、元の無地カードに戻ってしまう。


「まだ魔力が少し足りない様だね……」

「あ、ネアンさん。起こしてしまいましたか?」

「いや、そんな事は無いよ」

「……自分でやってみて、改めて昼に見たあの光景がとてつもない事を再認識していました……飛ばした光の球ではあたしの場合魔力が足りなさ過ぎてカードに一瞬すら描く事すらできません。まぁ、人差し指でも今みたく消えてしまいますが……」

「魔法を覚え始めたたった数ヶ月でそんな事ができたら、恐ろしすぎるよ……でもこのカードの魔法陣を定着させるってのは修行にもってこいかも知れないね」

「ですね……!」

「道中での修行項目にしよう!」

「がんばりますっ!」


 さなえはスペルカードを見ながら頷いた。

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