4話 授業開始
――次の日
小屋の前に机と椅子……そして黒板の様な形のただの木の板……雰囲気はバッチリである。
「さて、さっそく魔法講座を始めるよ。分からない事があったらすぐに聞いてね? 二人が理解してから進むからね」
「はーい!」
二人は元気よく返事をした。
(ふ……ツグユはともかく、さなえも子供みたいに元気に返事を……)
「まず、この世界で生きている生物には大きく分けて二つの力が備わっているんだ」
魔力……魔法陣を描いて魔法を放ったりするときに使う力
闘気……身体的な力を増幅させる。武器での攻撃などに使用する力
「ふむふむ……MPとSPみたいなものですね……」
(さなえは何かをぶつぶつ言いながらもしっかりと聞いている)
(……ツグユもぼーっとしているように見えるけどきっと聞いているに違いない!)
「……机上で語っても仕方ないね。両方最低限使いこなさないと大変だけど、まずは魔力を使って魔法を使う練習をしようか」
「おお、まってました!」
「わーい! まほうー!」
(二人とも真剣だな……まぁ私も初めて魔法を認識した時はかなりテンション上がったものだ)
ネアンが人差し指を出すと、指先から小さな光の球が発生した。
「色々な魔法を使うには、まずこのライトペイントを覚えなくちゃいけないんだ」
ネアンはそう言いながら、光の球がくっついた指で空中に絵を描き始めた。
「わあー……綺麗ー!」
「このライトペイントで、絵を描いたり何でもできるんだけど、本来は魔法陣を描く為に使う魔法だ」
「ほー!」
「最終的に、このライトペイントを空中で操作できるようになれば魔法陣も凄く早く描けるんだけど……まずは指先にライトペイントを発生できるように練習しよう」
ネアンは黒板の方へ向き、指先のイメージとかを箇条書きし始めた。
――バシッ
「む、今何か投げた……?」
ネアンはそう言って振り向くと、二人の指先を見て驚いた。
「みて! 5つの指の先に出来たよ! えい!」
「うそだろ……! って、それは投げていいものではありません!」
二人は片手の指先5本共に光の球を生成させ、ツグユはそれを投げて遊び、さなえはもう掌で自由に動かし、操作していた。
「一瞬で……天才か君達は……」
(エルフ族だからなのか? 吸収が恐ろしく早いな……)
「じゃぁ早速属性魔法を教えて下さい! 先生!」
「ツグユもツグユも!」
「そうだね。まずは危険度が少ない水魔法から教えるよ!」
「はーい!」
――
この世界の魔法は、ライトペイントで魔法陣を描き、自身の魔力を介して発動するのが基本である。
魔法陣は上位の魔法になる程複雑な模様になり、描くのにも相当時間を要する。
だが時間がかかるのは人差し指で魔法陣を描かく通常の方法……複数のライトペイントを使用し、一気に書き上げる事ができるのなら描く速度も大幅に上がるだろう。
――
「うわー……こんなの覚えれないよお」
二人は[水魔法の極意 完全版]という本を見ながら頭を抱えていた。この本自体はネアンも見た事が無いが、今の時代でよく使われている魔法の教科書のようだ。
「一つ一つ覚えようとすると中々覚えにくいんだけど、プロセス毎の模様を覚えて行けば簡単になってくるよ」
ネアンはライトペイントで文字を書きながら話を続けた
・魔法自体を出現させる術式
・魔法の[形状変化]を行う形状変化術式(形を変える)
・魔法の[形態変化]を行う形態変化術式(水を氷に変える等)
・魔法陣、魔法の移動を行う移動術式(魔法自体を真っ直ぐ飛ばしたり、曲げたりする命令)
「魔法陣の模様は大きく分けてこの4つの役割しかないんだ。そして……どの属性でも使用する模様が下の3つだよ」
ネアンは魔法陣の中にある模様をいくつか描いた。
「形状変化の命令に使う模様……上から、[丸める][棒状にする][分散させる]……と言った具合にそれぞれ描き、つなげる事で様々な形に変化させる事ができるよ」
「なんとなくプログラミングの勉強をしている気分になりますね……」
「さなえちゃん、その通りだよ! これはある種プログラミングに近い……しっかりと命令プロセスをスタートからゴールまで走らす事ができれば……魔法は発動してくれる」
「ぷろぐらみんぐ……少しだけ聞いた事ある!」
「そんな年で凄いね……! ま、とにかくそうやって素晴らしく完璧に描く事ができても……プログラミングの場合は言語に合わせたOSが無いと動かす事ができないよね?」
「うんうん」
「魔法も一緒で、完璧に描けたとしても自身の魔力に合ってなかったり魔力が足りなければちゃんと発動はしないんだ」
「なるほど……自身の魔力を高めるにはどうすれば良いのですか!」
「そうだね……私はとにかくいっぱい魔法陣を描いて、魔力を使って……疲れてぶっ倒れたりしてたら凄く増えてたかな……」
「やはり限界を越えなければならないのですね。頑張りましょうねツグユちゃん!」
「うん! 魔法いっぱい使う!」
「あはは。やる気のある子達で教え甲斐があるよ本当に……」
この光景……かつてネアンはフィアン、ネビアとして父であるゼブに習っていたことをふと思い出していた。
(フィアンとネビアは魔王影討伐後は先生みたいな事もしていたけど、ネアンの状態でもする時が来るとはね……でも実際やると中々楽しいものだ……)
昔、フィアンとネアンが混ざってネアンになるとき、二人の記憶は共有されネアンの記憶にも入った。その為、二人の気持ちや考えを自身が体験したように持っているのだ。
「ちなみにお兄ちゃんはどんな魔法を使えるのー?」
「ふふ……基本的に何でも使えるよ。そこに書いている魔法何でも言ってごらん」
「さすがお兄ちゃん! じゃぁねー……この水魔法系の……」
(よし、水魔法ならほぼ全て網羅しているッ!)
「[ウォーターレーザー]って奴!」
「おっけー。[ウォーターレーザー]ね……[ウォーターレーザー]?!」
ネアンは全く聞き覚えの無いスペルに驚き、ツグユの持っている本を覗いた。
・・・
・・
・
「……なんてこった」
「どうしたのお兄ちゃん? 早くやってよー!」
「ツグユ……ごめん。ここに書いている魔法……私が魔法を覚えた時には無かった魔法だ……」
ネアンが見ているページの冒頭にはこう書いてあった。
――
新生魔法
現在の技術で生成されたスペルシールドで防ぐ事ができないスペル(新生1500年現在)
新生魔法は全てにおいて古代上級魔法を遥かに超える魔力量が必要なため、
詠唱できる者が限られる。その限られた者さえ、それをスペルカードに印字するのは現在不可能とされている。実際に使用した者は全てエルフ族だと言われている。
※トリガーに使用するスペルカードは記載しておりません。
水系魔法
・ウォーターレーザー
水を形状変化し、超高速で射出する。
スペルシールドを貫通する威力を誇る。
・アイスマスストライク
水を形状・形態変化し超巨大氷塊を生成する。
下敷きになればスペルシールドで吸収しきれず、破壊される。
――
「というより、私が覚えている魔法は全部ここに書いている……[古代魔法]って項目の奴だ……」
ネアンは新しい魔法に驚いたがそれよりも驚いた項目はこの古代魔法と言う項目だった。
(私が覚えている魔法が全て丸ごとここに入っている上に、古代魔法という事はおじさんに聞いたスペルシールドっていう道具で全て無効化できるのか……"上級"やその上の"天級"魔法まで網羅されている……)
「どうしたの?」
「いや……本当に時代は流れたんだなって実感しただけだよ」
「ほえ~」
(なら、いざ対人戦となったら私の魔法は全て防がれるわけか……となると剣術も必要になってくるな……後トリガーも気になるな。名前は一緒だが、私の時代にあった物とは違うのだろうか……?)
「でも知らないんだとしても、ここに描いたとおりに描けば発動できるんでしょ! やってみてよー!」
「……」
ネアンは少し沈黙した。
「どうしたのですか?」
「ああ、それなんだけど……」
ネアンは言われた通りに[ウォーターレーザー]の魔法陣を描いた。その魔法陣は完璧で寸分の狂いもない。
「おお、一瞬で描いて……凄いですね! 魔法陣も完璧に見えます!」
だが……発動しようと魔法陣に手をかざした瞬間……
――パリンッ
「え……! 失敗したの?」
「そんな。見る限りは完璧な魔法陣でしたよ! なんで……」
「これが私の……代償って奴なんだ」
「代償……?」
「私の魔力と闘気の量……どの位だと思う?」
「ん~。いっぱい練習とかしたんだろうし沢山!」
「そう……沢山というか……"無限"なんだ」
「無限!?」
「ああ、一切底が無い……そう言っても良いくらいだね!」
「すごいですね……!」
「まぁ経緯を言うとややこしいから辞めておくけど、私は、魔力と闘気が無限の代わりに、一切新しく知った魔法や技が発動できないんだ。どれだけ完璧な魔法陣を描いてもね」
「そんな事が……」
「これから増えて行く魔法はもちろん覚える事は出来ないし、過去の魔法でも知らなかったものは発動できない……そういうルールに定められている」
「そうだったんですね……」
「だから私が使えるのは古代魔法だけだし、教えられるのもそれだけになっちゃいそうだ……。これだとスペルシールドに対抗できない……!」
「大丈夫ですよ!! 古代と言いますけど、その部分はとても大切……基盤のような部分です! そこをきっちり教えてもらわないと気が済まないです!」
「そうだよ! それにそこを出来る様になればツグユ達は新しい魔法覚えれる! 必要な時にツグユ達が代わりに撃ってあげるよ!」
「あはは、そうだね! よし、じゃぁ続きと行こうか!」
「はーい!」
・・・
「よし、じゃぁ魔法陣を描いて魔法発動の練習をしておいてね。私は少しだけ出掛けるよ」
「え! お兄ちゃんどこ行くの? ちゃんと帰ってくる……?」
ツグユはかなりの不安顔をしている。
「大丈夫だよ。ちょっと村で本を借りに行こうと思ってね。食料確保の為に狩りもしてくるよ」
「わかった……!」
「ツグユちゃん大丈夫ですよ。あたしと一緒に魔法の勉強して待っておきましょう」
「うん!」
「いい子だね。じゃぁ行ってくるよ」
「いってらっしゃーい!」
ネアンはそういって村を目指した。