41話 下へ
「シャドウの対処の仕方はちゃんと理解したね?」
「もちろんにゃ! 基本は中級魔法以下を使う、スピアー系でコアを刺す! 大丈夫にゃ」
フォルチーの魔法の描き方は殆どネアン達と一緒で、ライトペイントの球を複数操り、詠唱速度を大幅に上げている。
だが、ネアンやさなえ・ツグユの様に遠くまで飛ばして操作する事は出来ない。
あくまでも、掌の周囲だけの操作しか出来ない様だ。
故にスパイク系などの魔法は使い勝手が悪い。魔法陣から直接射出されるタイプを使用するべきである。
「ちなみに、外来種にはフォーム1とかフォーム2があるんだけど、シャドウにもランクと言うものがあるのは知っているかな?」
「それは知っている! 本で見事あるにゃ。シャドウキメラだにゃ?」
「そのとおり! 流石だねフォルチー」
「えへへ……」
「シャドウキメラのランクは、シャドウキメラのまわりに浮遊している球の色と数で判断するんだ」
「う、細かい所は忘れているにゃ……」
「まぁ細かい所はいいよ。とにかく赤い球がいっぱい浮遊していたらヤバイ! そう覚えておいて!」
「了解! でも何となく魔力と闘気の匂いでやばいかは分かるにゃ」
「あはは、そうだね。目で見るより匂いで感じ取った情報の方が優秀かもしれないね」
シャドウにも指標としてランクと言うものが存在する。
あくまでもシャドウが色々な物を吸収し、シャドウキメラになったものに使用するランクだ。
外来種フォーム1の強さはシャドウキメラのランク15程の相当する。(古代魔法を弾かれることを度外視した場合)
昔はランク15のシャドウキメラが現れたとなると、とんでもない大事件だった。実際に一国が滅びそうになるほどの脅威だったのである。
しかし、近代兵器であるトリガーやスペルカードの技術により、外来種もフォーム1なら複数人で対処すればなんとかなる程のレベルだ。
時代は進化し、昔で言う強い人は強いままだが、大多数の弱い人のレベルは格段に上がったと言えよう。
弱い人が棒でライオンを狩るのは難しいが、強い人なら倒してしまうかも知れない。だが弱い人でも戦車があれば負けないだろう。
「よし、じゃぁ行こうか」
だが、今回に限ってはその人数・兵器の力には頼れない。
あくまでも自分自身の力で降りて行かなければならないのだ。
とは言え、魔力も闘気も多い、"強い人"に含まれる二人はそもそも兵器に頼る必要もない……。
・・・
・・
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――地下ダンジョン 6階
階段を降りると一本の長い通路に出てきた。
二人はそこを真っ直ぐと進んでいる。
「う……瘴気の濃さが段違いにゃ……」
「だね。魔装魂はしっかり張っておくんだよ」
「もちろんだにゃ!」
壁や天井などの雰囲気は変わらないが、霧のように瘴気がでており、薄暗くなっている。
(ネアン)――ライトウイスプ
辺りを照らす光の魔法
ライトペイントを形状変化し大きめの球にする
ネアンはライトウイスプで周囲を照らした。
「こちら側の地下ダンジョンには[ダンジョンストーン]は生えていないのか……」
「ダンジョンストーン?」
「ああ、ライトウイスプみたいに光る鉱石なんだ。あれが生えていたから、奥の方に行っても多少明るかったんだけど……」
「へー! 見てみたいにゃ!」
「もし生えていたら一目で分かるよ!」
ただ、このダンジョン自体も完全に真っ暗ではない。
壁や天井が不気味な紫で発色しているので、全く見えないわけでもない様だ。
通路を進んだ先には大きめのフロアが見えてきた。
そのタイミングでネアンは明かりを消した。
「フォルチー、前方の部屋に4体いるね。シャドウ2体ハイシャドウ2体だ」
「右のでっかい方がハイシャドウだにゃ?」
「そうだ。フォルチーあの4体はやれるか?」
「実戦はした事にゃいが……やってみるにゃ」
「いい返事だね。大丈夫何かが起こりそうになったらすぐに助ける」
「わかったにゃ……」
(この程度の数で手こずるようであればこの先は……)
だがネアンの心配は無駄だった。
「4体か……ちょっと離れてて面倒だし一気に行くにゃ」
そういってフォルチーは4つの魔法陣を描き始めた。
(地面に4つの魔法陣……? しかも見る限りファイヤスピアーだ。このままだと真上に魔法が飛ぶだけだ……)
――プチッ
フォルチーはおもむろに耳の毛を4本抜いた。
そして、その毛をそれぞれの魔法陣に乗せた。
ファイヤスピアーx獣毛(猫耳種)
(フォルチー)――シナジースペル:ファイヤーキャット
「凄い! シナジースペルかな?」
「そうだにゃ! ボクのオリジナル、ファイヤーキャットにゃ!」
4つの魔法陣から火で出来た猫が出現し、それぞれのシャドウに真っ直ぐ走って行く……。
――バンッ!
ファイヤーキャットはシャドウのコアまで腸を食らい尽くすように噛み進み、コアを砕いた。
「グォォ……」
シャドウはそのまま消滅していった。
「コアにめがけて一直線に……」
「そうにゃ。毛を抜くときに、簡単な命令なら念じるとその通りに動くにゃ!」
「ほー……私には出来無さそうな魔法だ……」
「ネアンも髪を抜いてやってみるといいにゃ!」
「いや、遠慮しておこう……獣人族と違って抜いた後すぐには生えてこないからね……」
「それは不便だにゃ~」
「しかし[シナジースペル]……夢が広がる技術だ! 同じファイヤスピアーでも無数の個性を出せそうじゃないか!」
「ネアン、魔法の話だと凄く飛び付くんだにゃ……」
「時間があるときに他のシナジースペルも見せて!」
「お……おお、いいにゃよ」
食い気味のネアンに少したじろぐフォルチーだった。
・・・
・・
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――9階
現在、10階へ行く入り口の前で野営の準備を行っている。
ここまで危険も無く、スムーズに二人は来ていた。
そのペースは1階から5階に来る時間より少し掛かった程度である。
(フォルチーのダンジョンアタッカーとしての能力は本当に高い……)
「ん? じろじろ見てどうしたかにゃ?」
「ああ、フォルチーは凄いなって思ってね」
「え? えへへ~ありがとにゃ!」
(初めて潜るはずなのに上手く対応できているのは、獣人族の嗅覚と鋭い直感によるものなのだろうか。いずれにせよ、本番はここからだ……)
「さて、ご飯を済ませたらすぐに寝るよ。朝一で下に行くからね」
「了解にゃ!」
そうして二人はてきぱきと食事をし、そのまま休息を取った。
・・・
・・
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――場所 ???
一面氷に覆われ、薄暗い場所。そこは通路になっており、一人の影がゆっくりと歩いていた。
――コツ、コツ……
その姿は、全身真っ黒鎧姿で瘴気を放っている。
二足歩行をしているシャドウの様だ。
――キィ……
そのシャドウは扉を開けた。
「失礼シマス……」
大きめのフロアとなっているが、他のフロアと同じく氷で覆われており、所々にアイススパイクが生えているような状況だ。
そして、アイススパイクと共にダンジョンストーンも生えている。
故にこの部屋はかなり明るくなっている。
「おそかったな、シャドウセンチュリオンよ。アッタカ?」
奥の玉座に座っていたのは同じく鎧姿のシャドウであった。
こちらのシャドウはよりドス黒い瘴気と青い冷気を纏っている。
「30階まで降りましたが、見つかりませんデシタ」
「ならば上をサガセ。かならず近くにあるのダ」
「ワカリマシタ」
そうして、シャドウセンチュリオンと呼ばれた影は再び扉からその場を後にした。
「フフ……これだけでコレホドの力……」
玉座にいるシャドウは手に持った黒色に輝く、折れた刀身を眺めた。
「フフ……スベテが揃えば、ワレも魔王影に近づけるハズ……!」
不気味な笑い声が部屋に響き渡っていた。
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