40話 勘違い
――翌朝
「お、おはようネアン」
「お邪魔します長老」
「にゃ! 昨日はぶっ倒れちまったにゃ……だけど5発までなら倒れ無いにゃ! だから!」
「フォルチー! ちょっと落ち着くんじゃ! ネアン、どうだ? 昨日の答えは」
「にゃ?」
「ええ……あれからずっと考えていました」
長老はネアンをじっとみている……。
「長老、お願いされるのではなく私からお願いがあります」
「む?」
「未知なる地下ダンジョン、何が起こるか分からない。私自身も今の自分の力を図り切れていない……一人じゃきっと地上界に行く事は出来ない……」
ネアンは長老に向かって土下座した。
「だからフォルチー! (旅の) パートナーとして共に地下ダンジョンについて来て欲しい! その許可を長老に頂きたい!」
「にゃ!?」
長老とフォルチーはにゃっと声を出した。
フォルチーは顔を真っ赤にして思考停止状態だ。
(ネアン……こやつ中々言いよる……つまり命を賭けてフォルチーをずっと守る……そういう事なんじゃな?)
長老は軽く目を瞑って考え込んだ。
「……フォルチー、お前はどう思っておるんじゃ? 会ったばかりじゃが……」
「にゃ!? えっと……その……」
「どうだろうか? 私には、(帰る為に) 君が必要なんだ」
フォルチーの顔はさらに真っ赤になった。
「ふ……不束者ですがよろしくお願いしますにゃ!」
「……え? それはどういう――」
「よろしい! ならば二人の無事を祈って今日は豪華な食事と行こうぞ!」
(フォルチーを連れて行っても良いって事だよな……?)
「あ、ありがとう! フォルチー、よろしくね」
「はい……よろしくですにゃ……」
(なんだか急に他人行儀だな……顔も赤いし、大丈夫かな……)
そうして地下ダンジョンに行く前、長老の家で豪華な食事を頂いた。
・・・
・・
・
――出発 当日
地下ダンジョン2階への入り口にネアンとフォルチーは来ていた。
そこには長老含め、村の住民が皆集まっている。
「二人とも……気を付けて行くんじゃよ……」
「うん! 長老! 本当にありがとうにゃ……今まで本当に……」
フォルチーは長老を強く抱きしめた。
「フォルチーちゃん、危険だと思ったらすぐに1階に戻ってくるんだよ」
「ありがとう! そうするにゃ!」
「おい、ネアン君! フォルチーを泣かすんじゃないぞ? ちゃんと最後まで責任を取れ! 男ならな!」
(当たり前だ。必ず二人で生きて地上界に行く)
「もちろんです」
「ネアンよ。こっちまで戻ったりするのは難しいと思うが……もし祠が直りでもすれば是非遊びに来てくれ」
「ええ、もちろんです。私もその件に関しては戻ったら調べてみます」
「その時は3人……いや4人かのう!」
長老はネアンの肩を叩いた。
「……え?」
(さなえ達の話はしてない……よな?)
「ふぉっふぉ。長生きはするもんじゃな」
「ネアン! そろそろ行くにゃ!」
「ああ、そうだね。じゃぁ長老、皆さん、行ってきます」
二人は再び2階への出口へ戻り皆に手を振った。
少しの勘違い? が生まれつつも二人は地上界へ戻るべく、地下ダンジョンへと潜る……。
・・・
・・
・
――地下ダンジョン2階
「あれ……瘴気が殆どない。シャドウの気配もないね」
「多分、5階までは殆ど出現しないと思うにゃ」
「そうなんだね?」
「ダンジョン調査が活発だったころ、5階まではほぼ完全制圧してたにゃ。その影響でずっと瘴気も薄いみたいだにゃ」
「なるほど……ならさっと5階までは行けそうだね」
「頑張るにゃ!」
「さて、その前に地下ダンジョン特有の現象については知っているかい?」
「にゃ……全然知らないにゃ」
「じゃぁ安全な5階までに、私の知る範囲で地下ダンジョンについて伝えておくよ」
「おお、それは助かるにゃ!」
そうしてネアンは歩きながら地下ダンジョンについてフォルチーに簡単に伝えた。
地下ダンジョンでの注意事項
・地下ダンジョンのシャドウの強さは5階過ぎるごとに格段に強くなる。
・主に5階毎にボスフロアが現れ、その部屋の壁は一面濃い瘴気に溢れている。
・ボスフロアの濃い瘴気はその部屋に入った瞬間、回り込んで入り口を防いでくる可能性がある。
「不可解な現象だにゃ……とにかく、一人で違うフロアに入ってしまうのは危険だにゃ」
「その通り……常に注意を払いながら行かなければならないね」
「ふう……なんだか緊張してきたにゃ」
「過度な緊張は良くないよ。今のうちに呼吸を整えておくんだ」
二人はそんな会話をしながら、先へと進んでいった。
「にしてもダンジョンの壁って不思議にゃ」
フォルチーは爪でダンジョンの壁をカリカリ引っかきながら話した。
「ああ、すぐに元に戻る現象だね」
ダンジョンの壁、床、天井は大きな衝撃を受けるともちろん破壊される。
だが、その後すぐに自動修復され元の状態へと戻るのだ。
「この壁に見える部分は全部瘴気から生成されているようなんだ。言ってしまえば気体に近い。だから少し減っても他からすぐに補充されて元に戻るみたいだね」
「ほえ~たしかにここにある壁は全部瘴気独特の嫌な匂いがするにゃ」
「すごいね。壁から匂いなんて全然しないよ」
「ふっふ! 鼻は長老譲りでかなり良いにゃ!」
「流石だね」
「もうすぐ6階へ降りる場所につくにゃ」
「ならその手前で一旦休憩しよう」
「了解だにゃ」
・・・
――パチパチ……
ネアン達は6階へ降りる階段の前で焚火をしている。
ここまでシャドウなどには一切出会わずに進めた事もあり、時間はもう夜だが1日も経過していない。
「ネアン、パンが食べたいにゃ」
「じゃぁ今日はパンとスープにしよう」
そういってネアンはデバシーからパンと固めたスープを取り出した。
それを鍋に入れて水で溶かし、火で沸かし始めた。
ネアンはデバシーの存在をフォルチーにも伝えていた。何故ならとんでもない量の食材をリュックに詰め、持って行こうとしていたからである。
それが全部ここに入ると聞いて大変驚いた様子を見せてくれたが、もうそのシステムには見慣れたようだ。
「はぁ~うまい。本当にデバシーは便利だにゃ……とにかく餓死する心配は無さそうだにゃ。ありがたや~」
「そうだね。多分長い旅になる……。食糧に困らないってのは本当にありがたい事だ」
「まぁでもここまで1日で来れたにゃ。半月もあればきっと最奥まで行けるにゃ」
「……フォルチー、本当にそう思っているのなら少し考えを改めた方が良いな」
「そうにゃのか?」
「地上界側の地下ダンジョンを潜った時……数カ月は潜りっぱなしだったよ。しかも最奥にそれで行ったわけじゃない」
「にゃんと……」
「長い旅になる。心してかかる事だ……」
「わかったにゃ……!」
(シャドウ界側のダンジョンは最深部が60階……半年……いやそれ以上か。帰ったらさなえに怒られそうだな……)
「さて、ここは多分安全だろうけど……」
ネアンはそう言って魔法陣を描きはじめた。
(ネアン)――浄化の光
光の加護を受けたエリアを生成する。
瘴気が取り払われ、シャドウ避けにもなる。
精度によって威力、効果時間が変わる
「おお、ボクの浄化の光より遥かに効力が高そうだにゃ」
「フォルチーもこの魔法使えるんだね!」
「中級までなら全属性殆ど覚えたにゃ! 上級以上は水と土だけにゃ」
「すごいな……」
「それをいったらネアンは全属性上級以上使えるにゃ。恐ろしいにゃ……」
「フォルチーだって頑張ればそうなるかもしれないよ? 君はきっとまだまだ伸びるよ。ウォーターレーザーだってすぐに出来たしね」
「有難うネアン、頑張るにゃ!」
「さ、今日はもう休もう」
「うん。お休みにゃ……」
そうして二人は浄化の光の中で睡眠をとった。




