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39話 出発前の選択

――翌朝 長老の家


「昨日は無様な姿を見せてしまったようじゃ……すまないのう」

「いえ、あの時の姿も魅力的だったよ」

「なっ……!」


 ネアンはフォローのつもりで微笑んで答えた。

 その答えに長老は顔を赤らめた。


「なら、誘いに乗ってくれれば良いものを……」

「うん?」

「いや、何でもない! で、お主はこれからどうするんじゃ?」

「私は……地下ダンジョンの最奥を目指し、地上界に帰るよ」

「な! ……本当に危険じゃ……知っているとは思うが、シャドウだけでなく外来種もダンジョン内に発生しておる……」

「ええ、百も承知だ。それに、外来種が出ても、今は新生魔法でなんとかなるだろう」

「新生魔法とな……?」

「あ……そうか、わりと新しい魔法だから無理もない……」


 ネアンは先に新生魔法の事を簡単に説明した。

 上級を越える天級魔法以上に魔力を使う。

 だが、その分威力も絶大で、外来種にも通用する事……。


「なんと……地上界の技術は凄いもんじゃ……外来種に対抗する術を持つとは……その魔法陣、こちらでも控えさせてもらおう……」

「ええ。これで大抵の外来種は一発だよ」

「しかし……相当の魔力を使うじゃろう。そう何発も……」


 長老はそう言いながら改めてネアンをじっと見た。


「……いや、杞憂か。お主の魔力は底知れない」

「ありがとう」

「まぁどちらにせよわしは止めるような立場ではない……。ちょっとまっておれ」


 長老はそう言って部屋の奥へと行ってなにやらごそごそし始めた。


「これじゃ」


 そういって長老は丁寧に布の袋に入れられた長物を二本持ってきた。

 ネアンはその二本にかなりの興味を示した。


「長老……これはもしかして……!」

「おや? これを誰かに見せるのは初めてじゃよ?」


 そう言いながらそれぞれの布袋からとてつもなく錆び付き、ボロボロになった剣を取り出した。

 その剣は刀身が本来の2割程度しかないように見える。


「シャドウノヴァとシャイニングノヴァ……!」


 ネアンはその剣を見て呟いた。


「おや、この剣を知っているのかい? これは念のためにと当時の調査員リーダーが持ってきていたものじゃ。これをお主に預けよう」

「そうか……そうだったんだね。なら君達は……」


 ネアンはこの剣を猫耳種である長老が持っている事で、この一族の由来を理解していた。


(君達は、過去に……共に旅をした獣人族の子孫達なんだね……)


「どうしたんじゃ? ネアン。そんなに驚かなくとも……」

「いや、ごめんよ。ちょっと昔の事を思い出してね」

「とにかく、これは最奥の転送魔方陣の封印を解くために必須じゃ。だが……」

「二本とも刀身が無い……」

「そうなんじゃ……実は過去の地下ダンジョン調査に持ち込んだことがあってな……その時、フォルチーの両親……そしてこの剣の刀身を失った」

「……そうだったのか。これでは封印が解けないね……」

「だが刀身は今でも必ず地下ダンジョンの何処かにあるはずじゃ」

「それを探さないとダメなんだね……!」

「そうじゃ……剣はそれぞれ3つに割れたと聞く……柄部分はあるから、残りの4つの刀身を見つけてから最奥に行かなければならん……」

「わかった。有難う。なら刀身を探して私が元の姿に戻してみせるよ」

「ふふ……何故だか、お主が言うとなんだか安心して任せられる」

「ああ、安心してくれ!」

「では、明日にでも出発するよ。少し準備をしなければ……また夕方にくるよ」

 

 そうしてネアンは出発の準備をすべく、一旦祠へと戻っていった。


・・・


――その日の夕方


「今日もご馳走になって……本当にありがとう」

「いいんじゃよ! 食糧には困っておらんからのう!」


 そうして夕食を頂いている時、静かだったフォルチーが突然口を開いた。


「長老! ボクもネアンについて行くにゃ!」

「!?」


 ネアンと長老は驚いてフォルチーを見た。


「な! まーだ言っているのかい! ダメじゃ!」

「そうだよ……本当に危険だし私もダメという意見だ。私も行ったことが無いし、守れる自信もない……」

「自分の身は自分で守るにゃ!」

「外来種もでるんじゃ! 古代魔法では倒せんし無茶じゃ」


(フォルチー)――ウォーターレーザー!

水を形状変化し、超高速で射出する。

スペルシールドを貫通する威力を誇る。


 フォルチーは突然上に向かって魔法を放った。

 その魔法は長老家の屋根を突き抜けていった。


「……! 今のは[ウォーターレーザー]……!」

「はぁ……はぁ。今日だけで6回放てたにゃ……1日6体は倒せるにゃ……」

「すごい……いつの間に覚えたんだ……?」

「すごいんじゃが、天井に穴がぁぁぁ!!」


――バタッ


「! フォルチー!」


 フォルチーは魔法の使い過ぎでその場で倒れてしまった。


・・・


 天井の穴はネアンが防ぎ、フォルチーをベッドに寝かせた。


「[ウォーターレーザー]……まさか聞いてすぐ撃てるようになるとはのう……わしも試してみたが、もちろん魔力が足りずに発動は無理じゃった」

「フォルチー……凄い才能だ……」

「やはりネアンもそう思うか……」

「……そうだね。魔力だけでなく闘気もかなり高い……地上界にもこんな逸材は滅多に居ない……」


 長老は大きめに息を吐いた後、真剣な顔でネアンを見た。


「ネアンよ……フォルチーを一緒に連れて行ってやれんか?」

「え……!」

「あの子は両親が亡くなってからはずっと一人ぼっちでずっと塞ぎ込んでいた。そんなあの子を元気にしたのは地上界の話じゃった」


・・・


 あまりにも興味を持ちすぎるもんで、その話をするのをやめてしまったんじゃが、あの子はそれから自分で行く方法などを調べて勉強や修行をするようになった。

 わしは元気になったあの子を見て本当にうれしかった。

 だが、それと同時に日に日に急成長する姿を見て、わしは怖かった。

 自分の力を過信し、一人で地下ダンジョンに勝手に行ってしまうのではないか……と。

 そして、ここ最近わしに地下ダンジョンへ行きたいと頻繁に言うようになっておった。

 ちゃんとわしに言った事はえらいと思っておる。

 だが、許可はもちろん出さなかった……。お願いされては断る。そんな日がずっと続いておった。


 だが、好奇心と言うものは抑えられるものではない。いつかは勝手に行ってしまうだろう。ならせめて、わしが一緒に行けたなら……そう思ってわしも修行をしてみたが、わしがこれ以上成長する事は叶わなかった。

 そんな時にネアン、君が現れたのはフォルチーにとって運命の人なのかもしれんな……。


・・・


「わしはあの子に死んでほしくない。息子も失い、孫娘も失うなど耐えられる気がせん……」


 長老はいつしか涙を流していた。

 だが、それをすぐにふき取り、微笑んだ。


「じゃがな……あの子の唯一の夢……地上界へ行くという夢はいつか叶えてやりたいと思っている」

「……」

「祠など……いつ戻るか分からん。むしろ500年戻らんもんが、もう戻るとは思えん……」

「そう……ですね」

「これはフォルチーにとって最後のチャンスかもしれん。どうか考えてくれないか? 」

「……わかりました」

「ありがとう。すまんな、すっかり夜更けじゃ……泊まっていくかい?」

「いえ、有難う大丈夫だよ。一人でじっくりと考えてみるよ」

「なかなか堅い男じゃのう!」

「あはは、じゃぁおやすみなさい」


 そうしてネアンは祠に戻っていった。


・・・

・・


(さなえ達は元気だろうか……)


 さなえたちを置いてシャドウ界に一人で来たネアン自身、立場としてはフォルチーに近い。

 長老の気持ちをうまく汲み取った答えを出したいと思うネアンは頭を悩ませていた。


(フォルチーの魔法、闘気の総量はさなえ達を遥かに越えている……多分、量だけで言うとイオエルと同等かそれ以上……ウォーターレーザーも使えるなら自衛は十分に可能だろう)


 焚火の音がだけが静かに聞こえる。この環境もネアンにとっては心地よいものだ。


(だが……シャドウ界側の地下ダンジョンはまったくの未知……果たして私自身も生きて帰れるか……)


 ネアンは思考をぐるぐるさせている内に、眠りについた。


・・・

・・

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