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3話 休息の終わり

「4個くらいあればとりあえずいいか……」


 ネアンが採取しているのはここに生えている大木になる、[ももりんご]だ。名前の由来はりんご様な食感で、味は桃みたいだからなのだが……その由来を知っているのは命名したフィアンやネビアしか知らない。

 木と木を軽快に飛び回り、果実を集めたネアンは小屋へとすぐに戻ってきた。


「おまたせ……お」


 小屋に入ると、目を覚まさなかった金髪の少女が起き上がり、ベッドに腰を掛けていた。


「おはよう。目覚めたんだね。良かった」


「……」


 少女はぼーっとしたような表情で何もない場所を見つめていた。


「お兄ちゃん! 甘いにおいがする!」

「ああ、これだよ。そのまま食べられるんだ。とりあえずこれしかないけど……我慢してね」


「フルーツ大好き! 凄く久しぶりに食べるよ!」


 銀髪の少女はももりんごに元気にかぶりついた。

 その様子を、金髪の少女はじっと見ていた。


「ほら、君も食べな」

「……有難うございます」


 少し迷いを見せたが、金髪の少女もフルーツを受け取り、食べ始めた。


(この子も丁寧な言葉だが日本語……髪色は異なるけど元々姉妹とかなのだろうか……)


 ネアンは二人が食べ終わり、一息つくのを優しい目で眺めていた。


・・・


「ご馳走様!」


「ほら、水も飲んでね」


 ネアンはそう言いながら魔法で水を出現させ、コップに注いだ。


「すごい! 何もないのに水がでてきたよ!」

「……!」

「あはは。それより……よかったらお名前とか聞いてもいいかな?」

「はい! えっと……ツグユ?」


 少女は首をかしげながら名前を答えた。


「あれ、もしかして名前を覚えてないのかな?」

「んー……そんなことないよ!」

「……なら大丈夫だね」

「あたしは……さなえです」

「さなえ! 私のおかあさんと名前が一緒! おかあさんと……」


 おかあさんと自分で言った後、ツグユの表情が最初の暗い顔に戻ってしまった。


「あら……そうなんですね」


「ツグユちゃんとさなえちゃんだね」

(ツグユちゃん、どんな漢字だったんだろうな……)


 ネアンは一呼吸を置いて、デバシーで二人の自身の姿を見せた。


「え!? これ……ツグユなの?!」

「……ッ!」


 二人は自分の姿だと思われる目の前のエルフ族を見ながらほっぺを触ったり髪を触ったりしていた。


「その反応……まぁこの世界の言葉じゃなくて、日本語で話していた時点で何となく察していたけど……」

「どうなってるの……夢なの? じゃぁあのお風呂場の事も夢なのかな……」


 二人は少し取り乱してしまっている。


「二人とも落ち着いて聞いてね。君達は多分……何らかの原因でこの世界に飛ばされてしまったんだ。向こうで死んでしまったかあるいは神様の気まぐれか……」

「……」

「ただ一つ言えることは……もう……戻れないと思う。それだけは覚悟しておいてほしい……」


 ネアンは思う……で留めたが実際はほぼ100%元の世界に戻れないと確信していた。

 というのも俗にいう異世界と呼べるこの場所は、元々あった星……[地球]が破壊されてから何万年と経ってから出来た世界なのだ。

 その何万年も前に遡る術があるのであれば話は別だが、もちろんそんな方法はない。

 またここの大気の質も大きく異なる。この世界の大気に合わせた身体……エルフ族になってしまった二人が元の世界に戻った所で、地球の大気では生きる事ができないだろう……。


 しばらく沈黙が続いた。

 すると、ツグユが涙を流し始めた。


「死んだ……やっぱりあれは夢じゃなかったんだ……」

「……何かあったんだね」

「うん……ツグユ、おかあさんに殺されちゃったの……お前は邪魔だって」

「……」

「おかあさん……全然帰って来なくて……帰ってきたらすぐに……」


 ネアンは少女の頭を撫でた。


「大丈夫だよ。大変な目にあったんだね……。少なくとも私はそんなことしないし、何かあっても守ってあげるから。ここで出会ったのも何かの縁だと思ってるよ」

「お兄ちゃん……」

「そんな奴が居たらあたしも守ってあげますから! 安心してください、ツグユちゃん」

「うう……ありがとう……」

「さなえちゃん……」

「すいません、あたし……状況は何となく理解出来ました……正直実感が無いというか混乱してますけど……」


 さなえはツグユをよしよししながらネアンに話し続けた。


「あたし……この世界に来る前の事……ほとんど覚えてないんです……名前と年齢くらいしか……」

「そうだったんだね」

「この子は多分この姿に相応の年齢でここに来たのでしょう。ですが私は向こうでは元々26歳でした」

「ああ、そうだったんだね。ではさなえさんと呼ばせてもらった方がいいかな?」

「ふふ、いえ、ちゃんづけで呼ばれるのもなんだか懐かしい気分で……嬉しいのでそのままでお願いします」

「あはは、わかったよ」

「とにかく、同じ名前でそんな最低な親がいるなんて許しがたい事です。ある意味その人と離れる事ができてよかったですよ」

「……そうだね」


 ネアンはそれ以上、何も言わなかった。


・・・

・・


――1ヵ月後


 二人と出会ってから1ヵ月が経過した。

 その間、ツグユは何度も帰りたいと泣き続けたがそれをさなえがなだめる形で何とか収まっていた。

 大変な目にあったと言うのに、やはり今までの世界が恋しいようだ。

 突然こんな未知な場所へと連れてこられたのだから、無理もないだろう……。

 多分帰りたいのはさなえさんも一緒だろう。

 だがそんな事になりながらも徐々にここの生活に慣れてきたようで、泣きじゃくる姿はあまり見ないようになってきていた。


「ただいま」

「お帰りなさい」

「おかえりーお兄ちゃん!」


「お、凄く良い匂いがするね」

「今日もさなえちゃんがご飯を作ってくれたんだよ! 早く食べよう!」


 そういって卓上に並んでいたのは、ウサギの肉と野菜で作った炒め物とパン、そしてスープだ。


「凄いな……まだそんな小さいのに」

「ふふん。何を言ってるんですか。最初に言ったでしょう? 伊達に20年以上生きてないんですよ」


 さなえは自慢げに話した。


「早く座って食べようよ! おかあさ……あ」

「あはは、ツグユ、さなえはおかあさんじゃないよ?」

「ま……間違えちゃった……いや、違うの! 新しい言葉が難しくてまちがえちゃったの!」


 ツグユが言う通り、今の会話は日本語では無く、この世界の言語……[生物言語]だ。どの種族もこの言語で会話をしており、覚えてしまえばどこでも通用するのだ。

 ネアンが持っていた自身がこの世界の言葉を覚える為に使用した本を渡し、勉強していたのだが、驚く事にたった3週間程でマスターしてしまったのだ。


「うふふ……別にあたしをおかあさんと呼んでも良いのですよ?」

「同い年の子におかあさんって言ってたら変な子だと思われちゃうからいい!」

「そう……残念ですね」

「さなえちゃんはお母さんに似ていたのかい?」

「……うん……雰囲気が……昔のおかあさんに似てる気がしたの……だから間違えちゃった」

「……そうなんだね」

「……」

「よし、とにかく冷める前に食べようか」

「そうですね」


 そうして俺達は夕食をとった。


・・・

・・


「ふう。ご馳走様」


(のんびりとした生活……心地が良くてこのままずっと続けたいところだけど、そういう訳には行かない……)


 自身がこの地にもう一度生き返ったという事は、何かがあったと理解しているネアン……この一月、少女二人をどうするかずっと悩んでいた。


(だが……言わないままだらだら過ごすわけにもいかないな……)


 そう決心したネアンは二人に真剣な表情で話し始めた。


「だいぶ、ここの生活には慣れてきたようだね……」

「うん! さなえちゃんもお兄ちゃんもいるから寂しくないよ!」

「……そう言われた後に言うのも凄く言いずらいんだけどね……」

「さっさと言ってください。気になりますし」

「……私は近いうちに、ここを発たなければならないんだ」

「え……発つって居なくなっちゃうの?」

「もちろんずっとじゃないよ! 事が終われば帰ってくるさ」


 二人は不安な表情を隠せない様だ……。


「私には使命がある。それを達成するためにこの世界を旅しなければならない。そしてこの世界は……日本とは違う。かなり危険な世界なんだ」


 ネアンは二人に過去に世界中を旅して際に起きた出来事を語った。

 砂漠が続き気候が辛い場所……野宿で寝込みを盗賊に襲われ死にかけた事……危険が沢山あったという事を。


「そして、私がひとまず目指す中央都市……ここまで行くのに3カ月はかかってしまう。そんな過酷な旅に君達を連れて行く事は出来ないんだ……わかってくれるね? 近くの村には事情を話して、ちゃんと暮らせるように準備はするからね」


「いやだ!」


 そうネアンが言った瞬間、ツグユが叫んだ。


「ツグユ……」

「絶対に嫌! 三人で一緒じゃなきゃ嫌だよ! もう誰とも離れ離れになりたくないの……」


 ツグユは大泣きし始めてしまった。


「さなえ……任せられるか?」


 ツグユはどういっても理解してくれないと思ったネアンはさなえに助けを求めた。

 だが……


「あたしも置いて行かれることには賛成できないですね」

「さなえちゃん……ッ!」


 ツグユの表情が少し和らいだ。


「いや……話を聞いていたかい? 魔法や剣術で襲い掛かってきたりする奴がいる……かなり危険な旅になるんだよ……」

「危険なのは十分に承知しました」

「なら……!」

「だからせめて、あたし達も魔法を覚えてネアンの邪魔にならない様にします!」

「魔法!? さなえちゃんツグユたちもプ〇キュアになれるの!?」

「ええ、なれますよ。だってエルフ族ですよ? あたし達。ゲームでは魔力が高いんですよエルフは」


(くっ……確かにその通りだが……もしかして言語習得が早かったのもエルフ族になって賢くなったからとかなのだろうか……)


「なので明日からあたし達にも魔法を教えてください!」

「ツグユも魔法使う!」

「……わかったよ。じゃぁ基本的な所を教えるよ。だけど連れて行くかは別問題だ。いいね?」

「わーい! さなえちゃん! 魔法だよ! 頑張ろうね!」

「そうですね」


 二人は顔を見合わせ、にっこりと笑った。


(別問題だって部分は聞いてないな……)


・・・

・・

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