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37話 シャドウ界にて

――パチパチ……


 焚火の音だけが静かに聞こえる。


(温かい……)


 ネアンはゆっくりと目を開けた。

 それと同時に自身に、毛布が掛けられている事に気がついた。


「あれ……」

「お。起きたかにゃ?」


 焚火の前に居たのは、高校生程の体格で褐色肌の少女。頭には猫耳が生えている……どうやら獣人族のようだ。


「ん……?」


 ネアンはその子をじっとみた。

 毛色は赤で長さは肩までの無造作パーマ……結構服なども汚れておりお世辞にも綺麗とは言い難い格好だ。


 ネアンはぼーっとしていたが、ハッと意識を取り戻した。


「なんで……なんでここに他の人が!?」

「それはこっちの台詞にゃ! お前は一体どこからきたんだにゃ?」

「私は……地上界からだけど……」

「地上界! すごいにゃ! ちょっとその話を聞かせて欲しいにゃ! 長老に会うにゃ!」


 その少女のテンションは突然上がり、半ば強引に手を引かれた。


「ちょ……どこ行くんだい? しかし、私はどれだけ寝ていたんだ……」

「1週間くらいだにゃ! 途中で起こすか凄く迷ったにゃ」

「1週間……というより、1週間も私を見てくれていたのかい?」

「そうだにゃ。あそこは寒いからにゃ~焚火を切らしては可哀そうだと思ったんだにゃ」

「そうだったのか……ありがとう。私はネアン。君は?」

「ボクはフォルチーだにゃ」

「そうか……有難う。しかし1週間も寝てしまっていたとは……」


 フォルチーが向かった先はシャドウ界側の地下ダンジョン入り口だった。


「ちょ、待ってくれ。ここは地下ダンジョンの入り口だよ? かなり危険だ……!」

「大丈夫にゃ。1階は居住区になってるにゃ」

「……え?」


 ネアンは疑問を持ちながらも地下ダンジョンへ潜ったが、その意味はすぐに分かった。


「すごい……たくさん人が……」


 ダンジョンの1階にも関わらず、そこには獣人族が生活をしていた。


(だが……見る限り全て猫耳……猫耳種だな)


 獣人族と一括りで呼称しているが、実際にはそこから多岐の種族がいる。

 目の前にいるヒト族に猫耳を生やした姿の猫耳種、殆ど狼の姿で二足歩行をする狼種等……種によって魔力が高かったり闘気が高かったりする。


 猫耳族は獣人族の中で最も魔力が高い種族と言われている。


(こんな事を思うのもあれだが……最初の村より豊かに暮らしているように見えるな……)


 辺りはしっかりと明るくなっており、草原になっている場所では牛が放牧されている。その周囲には石で出来た家が立ち並び、各家の前では麦などの農作物が栽培されている。

 水も明かりも全て魔法で生成した物を使用しているようだが、まったく不自由そうには見えなかった。


(地下ダンジョンという過酷な場所で生活……ひどいものを想像していたけど、豊かに生活をしているようだ……)


「ここが長老の家だにゃ!」


 そういってフォルチーに連れてこられたのは他の家と何ら変わりない、石で出来た家だった。


「長老ーただいま帰ったにゃ!」

「これ、フォルチー! 1週間も姿をくらましよって!」


 長老ももちろん猫耳族だが、長老と言うわりにはかなり若い容姿だ。

 それは天族やエルフ族と同じく、何百年と生きていても若い姿を保つからだろう。


「違うにゃ! この人が祠で倒れてたらか助けてたんだにゃ」

「ほう……驚いた。天族かいな」

「! 見ただけで天族と分かるのですか?」

「もちろんじゃ。まぁお主は天族だが……何やら違和感があるがのう」

「そうですか……! 私もこの光景を見て驚きましたが……シャドウ界で生活している方がいるとは……」

「シャドウ界……てことはお主、地上界から来たわけじゃな?」

「ええ、その通りです」

「どうやってきた?」

「え? えっと……」

「地上界側の最下層に行っても、封印を解くカギは無い。かといって祠の転送装置はもう遥か昔に使用できない……そんな状況で現れた天族……ハッキリ言って怪しすぎるんじゃ」

「にゃ! 長老、そんな言い方はないにゃ!」

「いや、仰る通りですね。分かりました。どうやって来たのかお教えします。信じてもらえるかは分かりませんが……」


 そういってネアンは森の転送装置からシャドウ界へ来たことを簡潔に伝えた。何故来たのかの理由も添えて……。


「……嘘は言っておらん様じゃ……しかし、外来種を倒す為にこんな所まで馬鹿な事を……」


 長老は鼻をクンクン動かしながらそう言った。どうやら匂いで嘘を感知しているようだ。


「あはは。まぁその通りかもしれません。実際帰れなくなってしまっていますし、これじゃ外来種を倒せても意味が無い……」

「……所でお主、祠と大きな箱の所以外は行ったのかの?」

「いえ、見ておりませんが」

「……そうか」

「何かあるんですか? 一面フラットな世界が広がっているだけですよね……?」

「まぁここからじゃとそう見えるわな……」


 そういって長老はライトペイントで絵を描き始めた。

 絵はシルクハットのような形をしているが、つばの部分がかなり広い。


「こんな風に外回りはガクンと下がっておるんじゃよ」

「そうなんですか……?」

(私の時代では無かったな……)


「その場所が現れたのは約半年前……大きな地響きと共に周囲はずり落ちて行った」

「半年前……」


「それだけなら良かったんじゃが……その場所に外来種やシャドウが良く出現しているのじゃ」

「そんな……!」

「なぜその場所に現れるのかはわからんが、どうやらここまで上がってくる術はないらしい。それでもたまにこの辺にも外来種が現れて徘徊しているようだがの……」

「……」

「そして何よりも異様なのが、その場所で、普段大人しい外来種とシャドウで常に殺し合っているようなんじゃ……」

「……外来種とシャドウが殺し合っている……!」

「初めて聞いた時は驚いたわい。なんせ奴らは仲間だと思っていたからのう」

「いや……私もびっくりしました……」

(外来種は……シャドウ……魔王影の味方では無いのか?)


 しばらく沈黙が続いた後、ネアンは話題を変えた。


「あ、そうだ。長老、甘い物は好きですか? 地上界のお土産としては質素な物ですが……」


 ネアンはそう言って、お土産用に箱詰めされた岩砂糖飴を長老に差し出した。


「おお! あまーい良い匂いじゃ! いただこう!」

「にゃ! ボクの分はにゃいのか!」


 フォルチーは箱に飛びつくも長老に足で払い除けられた。


「にゃあ……」

「長老……あなた方一族は何故シャドウ界で生活しているのですか?」

「そうさな……長ーい歴史があるんじゃが……きくかの?」

「ええ、宜しければ是非」

「そうか、なら早速このおやつを開けるとしよう。フォルチー! お茶を持って来るんじゃ!」

「にゃー……」

「3つな!」

「はい直ちに用意するにゃ!」


 フォルチーはおやつが食べられると思い、お茶を用意しに行った。


「少しばかり長くなるぞ? 心して聞くんじゃよ」

「ええ。よろしくお願いします」


 そうして長老は何故この地に来たのかを話し始めてくれた……。

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