35話 一方……
――ネアンが出発した翌日 ……
さなえ達は机に座り、教卓に居るイオエルを見ていた。
「さて、学内選考は明後日! それまでに出来る事をしっかりやるわよ! 1年間頑張った自分の力を見せつける時よ!」
イオエルは大声で叫んだ。
「はーい!」
それに呼応するように返事をしたのはさなえとツグユ……そして3人の少年少女達だ。
「今日は実際のコースを見に行くわ。そこで2対3に分かれて実戦練習よ」
「ついにコースを見れるんですね!」
「ええ、どのチームも必ず一度は見学できるわ。上位のチームは本番に近いタイミングでしか見れないけれど……」
「なら、明日見に来るチームも居るんですね?」
「さなえ、その通りよ。そのチームがスコアナンバー1……今回はそいつらに勝つわよ」
学内選考とは……
年に1回、チーム同士でぶつかり合う学内選考と言うものがあり、それで優秀な成績を収めた生徒のスコアは大幅にアップする。
イオエルは理事長だが、先生としてはかなりの実力者な為、気になった生徒が居ればこうしてチームを作る事が度々あるそうだ。
「チーム分けだけど、まずはさなえとツグユの二人チーム、そしてウォンドとマージャス、イミーの3人チームね」
「えー! ツグユ達は二人チームなの!」
「当たり前やん! むしろ、うちら側は5人くらい欲しいくらいや」
淡い青の髪色で犬耳が生えた少女の名はイミー、獣人族である。ツグユ達より少し身長が高く、年上だと思われる。
「いやでもオレらが案外勝つかもよ! 結構強くなってるしな!」
そういうのはツンツン赤色ヘアーで犬耳の少年、マージャスだ。こちらも獣人族でイミーとは小さい時からの幼馴染だそうだ。
「おいら……がんばるっす!」
ハンバーガーを手に持っている、少し小太りで黒色ボブヘアーのウォンド。ドワーフ族でこちらもイミーたちと同じ歳である。
「皆、やる気があって良いわね! じゃぁ早速行くわよ!」
そうして一行はコースへと向かった。
・・・
「うわー広ーい!」
コース……障害物が複数置かれたステージとなっている。
まるでFPSのゲームステージの様なその場所で、学内選考は行われるようだ。
イオエル一行は現在、そのステージを一望できるVIP席付近にいる。
「端から端まで走るだけで疲れそうっす……」
「さて、早速だけれど、ルールの再確認よ!」
イオエルはそう言って、ライトペイントで文字を書き始めた。
ルール
ハンド及びライフル型のトリガーを使用し、相手を全員ステージから退場させれば勝利。
使用許可品
ベーシックバレット
キャノンバレット(チームで2枚まで)
古代魔法全般の使用はOK
(スペルシールドを着用している為、ダメージを与える事は出来ない)
「今回の練習はキャノンバレットは無し、その他はOKよ。本番は2枚しかないキャノンバレットを誰が持つか……それは私が決めるわ」
「イオエルさん、これ上は完全に空いてますけど、どこまで上昇して良いんですか?」
「中央の塔があるでしょ? あれより上に行ったらアウトよ」
「なるほど、では上に思いっきり飛び出したりしない方が良いですね……」
コースの形状としては、中央に今言った塔があり、高さは15メートルほどである。
その周囲には5メートルだったり10メートルほどだったりの岩や木が障害物として配置されている。中には迷路のようになっている場所もあるようだ。
隠れたり、裏に回って奇襲したり……ポイント毎に注意しなければ後ろからやられる可能性も十分にある。
さなえはそれを手っ取り早く確認する為、上に行きたかったのだが、それは難しそうである。
「基本的にそこまで上に行ける人はいないけれどね……」
「ほんまやで! 皆がロックウォールとか使える訳違うし!」
「そうですね。上から確認は諦めるとします……!」
「さ、では始めましょう。赤側にさなえたち、青側にイミー達ね。さ、配置について!」
「はい!」
そうして5人は、各自言われた場所へと向かった。
・・・
――赤側
「さなえちゃん、今日はどんな作戦で行く?」
「そうですね……とりあえず人数が不利なので分断をしないとですね……」
さなえはライトペイントでツグユに簡単に説明を行っていった。
「よし、分かったよ!」
「ふふ、最近は一回で把握できるようになりましたね」
「ツグユも成長してるんだよっ!」
「流石です」
・・・
――青側
「さて、一発目どうぶちかます?」
「作戦なんて簡単でええやろ! 覚えられんし!」
「いや、それじゃダメっす。さなえは本当に賢い。今回もきっと奇抜な作戦を考えてるはずっす!」
3人も同じく作戦会議を行っている。
「ならどうするんだよ?」
「おいらに作戦があるっす!」
・・・
「さーて2チームとも準備はいいかしら?」
イオエルは大声で確認を取った。
「おっけーです!」
「おっけーだ!」
それに2チームは答えた。
「ではトリガーを撃つからその音が鳴ったらスタートよ!」
イオエルはそう言うと、トリガーを上に向け、放った。
――バンッ!
「いきますよ、ツグユ」
「うん!」
(さなえ・ツグユ)――シャドウウォーク
自身の周りを闘気で覆い辺りに気配を溶け込ます。
発動中、魔装魂が薄くなる。
二人はシャドウウォークにて気配を断った。
こういった戦いは基本相手の位置を先に補足できた方が有利である。
(早速気配を消したわね……少し目を離すと見失うレベルの練度……流石だわ)
イオエルはさなえ達を見て感心していた。
(さて、ウォンド達はどうかしら……)
「はぁ……はぁ……」
ウォンドチームはウォンドだけが走り回っている。
残りの二人は待機中だ。
(このままいけばウォンドが二人にエンゲージするわね……)
誰かが近づいて来ている……方向等含めさなえは気づいているようだった。
「ツグユ、多分正面の角から誰か来ます。構えて」
「うん……!」
その瞬間、ウォンドがさなえたちの目の前に現れた。
「うお! いたっす!!」
――バンッ!
「く……!」
ウォンドの身体にバレットは命中したが、その際ウォンドは何かを二人に投げつけていた。
――ベシャ!
「きゃっ! なんなのこれ……ハンバーガー!?」
「ふっふ……成功っす……」
ウォンドはそのまま粒子になり、入口へと戻された。
このコース自体にも結界コートが張り巡らされているのだが……
多人数用で特殊な仕様となっている。
本来ならば、一人が致命的なダメージを受けると、全体がリセットされる。
だがこのコートはその効果がここに依存している。
その分結界コートは複雑な為、費用はかさんでいるようだ。
「最悪! ハンバーガー投げつけるなんて! しかもこれ匂いがきついよ……」
「ですね……しかも何の意味が……」
――バンッ!
「な!」
突然、さなえたちに向かって銃弾が飛んできた。
幸い当たる事は無かったが……。
(こっちからですか……!)
さなえはすぐさま飛んできた方向を確認したが、一切人の気配がしない。
そう思った瞬間……
――ドンドン!
「なッ! 次は反対から……! ツグユ、とにかく、移動しましょう!」
「うん!」
二人は全力で走って移動するも、色々な方向から、こちらへ発砲してくるようだ。
このままではいずれ当たってしまうだろう……。
「こちらの位置が常にバレていますね……その割には正確な射撃は出来ていない……どういう事でしょうか」
「うわーん! チーズの匂いでくらくらするよぉ」
「チーズ……これですか!」
さなえは何かを思いついたようだ……。




