33話 帰還後
――中央都市ギルド
「そうですか……」
「これが、黒い魂片、そして、持ち帰った遺品だ……」
ネアンはテコンとトップの身に着けていた魔法装具やトリガー一式を受付嬢に手渡した。
「こういう事はよくありますけど……なれる事は出来ないですね……」
受付嬢はその遺品をみて涙を流した。
「ぐす……すいません。ご家族の方にはギルドから伝えさせていただきます」
「ああ、あと私の報酬はそれぞれの家族に半分づつ渡してくれ。今回辞退するよ」
「え! ですが……」
「いや、いいんだ。とても受け取る気分になれない……」
「ネアンさん……」
ネアンはそう言い残しその場を去った。
ネアンのスコアは今回でシルバー(50)となり、ソロでの依頼が解禁された……。
・・・
・・
・
――喫茶店
「こんにちは。あら……元気が無いわね?」
「ああ、仕事で色々あってね……」
「それで今日も紅茶でリラックスしに来たって訳ね……」
「はは、大体それでここに来るから、私の行動がバレてしまっているね」
「ふふ。でも、今日はいつもよりひどいわ……」
イオエルはネアンの顔を覗き込んだ。
「……紅茶もそうだけど、君の顔を見ていても心が安らぐよ」
「なっ!」
イオエルは顔を赤らめ覗き込むのをやめた。
「貴方はいつも……突然そう言う事を言うんだから……」
イオエルはぐっと紅茶を飲んだ。
「あはは。でも本当だよ? 有難う。少し元気が出たよ」
ネアンは紅茶を飲み干し、席を立った。
「そう? ……これからも何かあったらこの店に来ればいいわよ……話くらいなら聞いてあげるわ」
「そうするよ」
「まぁここは、私の店ではないけれどね?」
「はは。そうだね。じゃぁ、またね」
ネアンは軽く手を振って、喫茶店を後にした。
・・・
・・
・
――その夜
「ただいま~!」
「ああ、お帰り」
「あ、珍しいですね。ネアンさんが先に帰って来てるなんて」
「まぁそう言う事もあるよ。ご飯は食べて来たかい?」
「うん! 学園の食堂で食べたよ!」
「そかそか。なら……帰って来て早々で悪いんだけど少し話がしたいんだ。いいかな?」
「え……? いいですけど……」
そして、ネアンは今日あった事を説明し、今後やろうとしている事を伝えた。
・・・
「え……一人でシャドウ界へ行くって……!」
「ああ……正直いつ帰れるか分からない」
「そんな……」
「いやだー! 長い間居なくなるなんて嫌だ!」
「ツグユ……ごめんよ。でもさっき話した通り……もし同じ場面に出くわしたら今のままの私では勝つ事ができない……」
「うう……」
「……実はシャドウ界自体には実は簡単に行く方法があってね」
「え?」
「ワープ装置があるんだ。それでシャドウ界に行ける。ただ、それは私にしか使えなくてね……」
「そう言う事ですか……だからあたし達を置いて行くと……」
「正直に言うとそう言う事だね。ワープ装置を使うと使わないで帰って来れる日が大きく変わる」
「いつ頃帰って来れるんですか?」
「そうだね……瘴気の森に行ってワープを使ってシャドウ界に出て、目的地へ行ってやる事やって帰る……日程はどうだろう」
「……それだけ聞くと割とすぐに帰って来れそうですが……」
「だね。思っているよりは早く帰れるかもしれない」
ネアンは二人に微笑んだ。
その顔をさなえはジーっと見ていた。
(あの顔は……何か嘘をついてる時ですね……でも、止められるほどの理由があたし達にはありません……)
「わかりました。ツグユ! ネアンさんが帰ってきた時に勝てる様に修行頑張りましょうね!」
「え? うん! じゃぁやっぱり一人で行っちゃうの……?」
「ですね。でも大丈夫です。あたしが計算するとそこまで長い間居ないわけでは無さそうです」
「さすがさなえちゃん! わかった! お兄ちゃん気を付けて行ってきてね!」
「ああ。帰ってきた時に、私に勝てたら何でも好きなお願いを聞いてあげるよ」
「わーい!」
「ネアンさん……その約束忘れないでくださいね!」
「ああ。二人とも、しっかりと学園頑張るんだよ!」
「うん!」
(ツグユはさなえを心底信頼している。二人だけでもとりあえずしっかりとやってくれるだろう)
ネアンには1年間、無駄遣いせずに貯金してきた甲斐あってかなりの貯えがある。
(これだけあれば学費を差し引いても、無駄遣いしなければ1年は生活できるだろう)
――翌日
「じゃぁ、行ってくるよ」
「気をつけて下さいね……」
「ああ、大丈夫だよ」
「お兄ちゃん早く帰って来てね!」
「そうだね。なるべく早く帰れるように頑張るよ」
ネアンはツグユの頭を撫でた。
「よし、じゃぁ……」
「ネアンさん!」
「うん?」
ネアンが行こうとするとさなえが呼び止めてきた。
振り向くと、さなえはネアンに飛びついた。
「おっと」
さなえは力強くネアンを抱きしめた。
「本当に気をつけて下さいね……!」
「ああ、大丈夫だよ」
ネアンもさなえをぎゅっと抱きしめた。
「さなえちゃんずるい! ツグユも!」
「あはは、おいでツグユ」
そういってツグユもギューッと抱きしめた後、ネアンは宿を後にした。
・・・
――瘴気の森
「なんだか久しぶりだな」
ネアンはさなえとツグユと出会った研究所へ来ていた。
「さて、転送魔法は生きているな……」
ネアンはその研究所の一番奥の部屋にある、魔法陣を前で呟いた。
シャドウ界に行く方法は限られている。
一つは地下ダンジョンの最下層へ潜り、封印を解きシャドウ界側へと出る。
但しこの方法は封印を解くカギを持っていないため不可。
もう一つの方法は、この研究所にある、転送魔法である。
この転送魔法を使用するには、無限と言っていい程の魔力と闘気が必要である。
その魔力と闘気を用意できるのはネアンしかいないだろう。
(無限の魔力と闘気……行きは良いが、帰りはどうなる事か……)
ネアンには現状無限の魔力と闘気がある為、行きは全く問題ない。
しかし、帰りには自身がどういう状態になっているか想像もつかない。
もしかしたら魔力や闘気が全く足りずに転送魔法が使えないかもしれない……
そんな不安もありつつも、ネアンは足を止める事が無かった。
「いくぞ……!」
ネアンは転送用の魔法陣の上でありったけの魔力と闘気を込めて、転送魔法を作動させた。
――フォン……
・・・
・・
・
「……ふう。無事に飛べたようだね」
ネアンが出てきた場所は、小さな祠の様な場所で、中央には光を失った魔法陣があるだけである。
「祠を出た時の景色はあの時のままだな……」
シャドウ界の様子は、魔王影が倒されたあの時とほとんど変わらない姿であった。
地面は透き通るような黒色でキラキラと光る粒子が散りばめられている。
まるで星空の上に立っているような感覚となる場所だ。
この場所はほぼ完全にフラットな場所になっており、建物などは一切ない。
ただ一つを除いて……。
(現在の地下ダンジョン最大到達数は35階とされている……この景色が変わる事は当分ないのだろう)
現代のトリガー等の武具をもってしても、生物が到達できた階層は35階が最深部である。
この地下ダンジョンは55階が最下層となっており、そこからシャドウ界への転送装置を起動し、この場所へとやって来れる。
あと20階も下へ行く……現在の人々には難しいだろう……。
「どこだったかな……」
ネアンは真っ直ぐと歩いた先に唯一ある真っ黒の正方形型の箱……その箱は一辺20メートルほどの大きさで非常に大きい。
「あった」
手で触れながら箱を探っていると、小さな窪みを発見した。
ネアンはそこにデバシーを当てた。
――シュン
すると、人が一人通れるほどの長方形の穴が開いた。
「よかった。ちゃんと起動したな。さすが神治さんの作った箱だ」
これは神治博士が、もし何かの間違いでシャドウ界へ人々が入るようになった時に、この場所へと足を踏み入れない様にと作った封印の箱である。
入場するにはデバシーが必要があり、決まった場所にデバシーを当てるとで小さな扉が一定時間出現する。
ネアンはその中へと入っていった。




