2話 出会い
――現在 洞窟内
洞窟を進んでいくと途中で二つに道が分かれていた。
ネアンは迷いを見せずに片方の道へと進んでいった。
「懐かしい……」
目の前には岩壁があり、その壁には人が一人通れるほどの穴が開いている。
その穴を進んだ先には、洞窟の中にも関わらず森林が広がっており、真っ直ぐに伸びる大樹が岩の天井を突き抜けていた。
上を見ると蛍の様な小さな光が群れを成し、飛び回っている姿が幻想的である。
「あの時のままだな……この景色は」
ネアンは大木の間を通り、真っ直ぐと進んでいった。
「あった」
進んだ先は、少しだけ丘のように盛り上がっており、その丁度真ん中には小さな木の小屋があった。
その小屋には蔦がびっしりと生えており手入れが全くされていない……何百年も放置されたような姿だった。
「ただの木の小屋なのに、よく原型をとどめていたな……」
ネアンは小屋に触れながらつぶやいた。
早速、扉にもびっしとり張り付いた蔦をはがし、そのまま扉を開け中に入った。
――ギィ……
「うわ……」
その瞬間、開けた扉の隙間から無数の光る虫が、一斉に外へと飛び出してきた。
「光る虫の休憩場所になっていたのかな。ごめんね」
周囲を見渡すと、埃の被った机や椅子……ベッドも木枠は残っているが布団などは一切残っていなかった。
長い年月の間放置された結果、木の部分だけが何とか形を保って残っている様子だ。
「何もかも……懐かしい気分だ」
ネアンは椅子のほこりを払い、腰を掛けた。そして……少しだけ昔の事を思い出していた。
ネアンにとってこの小屋は、フィアン、ネビアや両親……昔、大事な家族たちと共に過ごした大切な場所だったのだ。
「さて、思い出に耽っている場合では無いか」
ネアンは椅子から立ち上がり、その小屋を後にした。
・・・
・・
・
「本題のこっちだ」
ネアンは最初にあった分岐点まで戻り、今度は逆の道へと進んでいった。
・・・
「見えてきたな」
一本道を進んでいくと、大広間が現れた。
入口から真っ直ぐの一番奥には玉座がポツンと設置されている。
――ピッ……ピ……
ネアンはその玉座の背の部分に回り込み、電子パネルの様なキーをタッチし始めた。
この場所には全く似合わない電子パネルだが、これもデバシーを作り出した神治と言う博士が作り出した、未来的な装置だ。
神治博士……この世界に転移してきた者の一人である。生きていたのはフィアンやネビアが居る時代だ。
この人は西暦でいうと2300年程に活躍した科学者であり、フィアンが生きた2015年前後の時代より遥か未来の人物である。
当時、転移や転生した人々は生きた時代がバラバラであり、そういったずれが生じていたようだ。
――ゴゴゴ……
「よし、開いた」
キーを入力し終えると、後ろの壁が扉一枚分程のサイズで光り始めた。
ネアンはその光の部分へと入っていった。
・・・
――コツ……コツ
壁にはパイプや謎の機械で埋め尽くされていた。
そんな通路を真っ直ぐと進み、目の前にあった大きな扉の前で何かの操作を行った。
――ガシャン!
空中にOPENという文字が浮かび上がり、ネアンは臆することなくその部屋の中へと進んでいった。
――ピッ
扉の横にあった明かりのスイッチを押した。真っ白な白熱灯やLEDに近い光がその部屋を照らした。
「ここは……空調がずっと効いていたのか……綺麗な状態だな」
周囲を見渡すと、空中に浮いた電光パネルや何かの実験や研究に使われそうな機材……そして中央には真っ黒で棺桶の様な長方形型の箱が置いてある。
「箱が閉まっている……神治さん……?」
ネアンは箱に声を掛けたが、もちろん反応は無い。
声を掛けたのには理由がある。というのも、神治博士を初めて出会ったのはこの場所で、丁度この閉じている箱の中だったのだ。
「開けてみるか」
そういってネアンは箱を手際よく手順に沿って開錠した。
――プシュゥゥ……
箱の隙間からは白い冷気が漏れ出した。
ゆっくりと蓋が開き、中身を確認する事ができた。
「神治さん……じゃない! 誰だこの子達は……!」
箱の中を覗くと、二人の少女が小さく丸まって眠っていた……。
(エルフ族か……)
二人の少女は耳が長く、肌が真っ白な、エルフ族という種族である事はすぐに分かった。
髪色は対照的で、一人は銀色髪でウェーブパーマがかかっており、もう一人は金髪でポニーテールになっている。
(小学校低学年程に見えるが……エルフ族だから見た目では判断出来ないか……しかし、こんな小さな子が二人で一体何故……)
ネアンは二人の少女の首に触れ、脈をとった。
「まだ息はあるようだ……ただ眠っているだけなのか……?」
ネアンはその少女の肩を少しゆすった。
「君、大丈夫か?」
「ん……」
しばらくゆすったりしてみると、銀髪の少女は目を覚ました。
すると途端に顔が青ざめ始めた。
「いや……いやだよお母さん!」
少女は小さく丸まり目に見えて分かるほどに震えていた。
「大丈夫だよ。それに私は君のお母さんじゃないし、君に危害は加えないよ」
「え……どこなの……ここ……」
(さっきからこの子は日本語で話をしているな……今更、転生者が現れたのか……?)
「とにかく、色々混乱していると思うけれど、一度家においで。お腹とか空いてないかい?」
ネアンがそう言った瞬間、少女のお腹の音が響いた。
「……空いた」
「あはは、わかった。とにかく一度ここを出よう」
「うん……」
ネアンは起きる様子の無い金髪の子を背負い、もう片方の道にを進んだ先にある家へと向かった。
・・・
・・
・
「ここが……家?」
少女はボロボロの小屋を見ながら不安そうに言った。
「そうだよ。暫く使ってなくてね……ちょっとだけそこで待ってくれるかな」
ネアンはそう言って家の扉辺りで少女を待たせた。
そして、両手を出し無数の光の球を出現させた。
「わぁ綺麗……」
「危ないからもう少しだけ離れていてね」
無数の光の球は空中を自在に動き回り、光の線で魔法陣を描き始めた。
――ウォータースプラッシュ
魔法陣から水を出す。ホースからでる水の様に出てくる。
――ウインド
魔法陣から風を出す。威力によっては扇風機代わりにも。
――ロックウォール
サンドボールと地面の土に対して形状形態変化追加
岩の壁を発生させるが椅子を作ったり色々応用が利く。
ネアンは家の中で水を発生させ、床や壁に巻き、風の魔法で一瞬で乾かせた後、岩で椅子や机を作成した。
「後々しっかり掃除するとして……とりあえずこんなものかな。よし、お待たせ」
(しかし……大気中には魔法や剣技に必要な瘴気も魂片も昔に比べると殆ど漂っていない……この環境だと魔法や剣技をうまく使えるのは[※壱百器]の者だけだな……)
――
※魔法を発動するまでに必要な魔力を自身だけで100%まで溜め込める体質の事
この世界には体質が四十器と壱百器の二種類存在する。
四十器:40の自身の力を入れる器と60の外から集めた力を入れる器を持つもの
壱百器:100の自身の力を入れる器と60の外から集めた力を入れる器を持つもの
四十器は自身で40%までしか魔力を体内に溜め込めない為、残りの60%を周囲から取り込む必要がある。
大きな魔法を撃つ為には漂っている必要な力が全く足りず、不発に終わってしまうだろう。
――
そう言って振り向くと、恐怖と戸惑いの目だった少女の表情は、キラキラとした顔に変化していた。
「すごい!! お兄ちゃんはプ〇キュアなの!?」
「あはは。まぁ魔法が使えるって所はある意味似ているのかな? さ、とにかく入って」
「はーい!」
・・・
「硬い所でごめんよ」
ネアンはそう言いながら布団が無い木のベッドに金髪の少女をそっと置いた。
「よし、ここで少し待っていてね。果物をとってくるから」
「はーい!」
ネアンはそう言って外へ出た。