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20話 村へ

 フーちゃんが指す方向へ進んでいくうちに、集落の様な場所が見えてきた。

 その集落もオアシスと隣接しているようだ。


「あれ! あれがうち!」

「ああ、見えているよ!」


 休憩したオアシスからここまで約4時間ほど歩いた。

 その間、ネアンは腕の痛みに耐えながら歩を進めていた。


「ネアンさん……大丈夫ですか? 汗が凄いですよ……!」

「ああ、何とか大丈夫だよ」


 ネアンが使用した天級剣技……天族専用の剣術で、最高難易度の技である。型は複数存在し、火の業火、岩の剛翔、光の天装、闇の冥装……自身の属性に合わせた型が発現する。

 ネアンが先ほど使用したのはこの天級剣技である光と闇の属性を合わせ持つ天冥という型であり、天族の中でもネアンただ一人が使える剣技である。


 光と闇は全くの正反対の属性であり、本来なら一人でその二属性を使うのは不可能である。

 何故それが可能か……? 理由は単純で、光属性のフィアン、闇属性のネビアの能力を引き継いでいる為である。


(昔使っていた剣……あれはこんな恐ろしい力を刀身に纏っても傷一つ付かなかったんだな……その剣もいまやどこにあるのか……)


 ネアンは今回使用した天級剣技が、実質使用不可であると悟った。


・・・


「お母さん!!」


 村についた瞬間、フーちゃんの母親が目の前にいたようだ。


「フーちゃん!? それに二人も!! ああああ……夢じゃないだろうね……ちょっと! お父さん!?」


 母親は腰を抜かし、その場で動けなくなっていた。

 お父さんを大声で呼び、後から来たお父さんも腰を抜かし大変になった事はまた別の話……


・・・


 現在、ネアン達はフーちゃんの家に招待されている。残りの二人はまた別の家族だそうで、それぞれ家に帰って行った。

 その後、両親から感謝の気持ちとお金を渡されそうになったがそれは断ったようだ。


「いやはやお見苦しい姿を……しかし何とお礼を言ったらよいのか……」

「いえいえこの子達が、無事に家に帰れてよかったです」

「フーちゃん良かったね!」

「うん! 本当に有難う……ツグユちゃん達のおかげで家に帰って来れた……」


 フーちゃんはまた泣きそうになっている。

 安堵した為か帰って来てから泣いてばかりの様だ。


「フーちゃん! 帰ってこれたんだから元気出してね! 泣いていたらお母さん達が心配するよ!」

「うん……分がってる……!」


 ツグユはそんなフーちゃんをなだめていた。


――ガチャ


「さあて、子供達を救ってくれたにーちゃんはどこじゃ?」

「長老!」


 扉を開けてやってきたのは腰の曲がったおばあちゃんだった。


「この方です。ネアンさん、腕を長老に見せてください」

「わかった」


 ネアンはそう言うと、ぐるぐるに巻いた包帯を外し、真っ黒のまま戻らない腕を見せた。


「うむ……これはとんでもない状態じゃな……」


 長老は一目見てそう呟いた。


「お主……よくその状態で気絶せずに立っていられるな……恐ろしい程の激痛のはずじゃ……」

「こんな痛みは久しぶりですね本当に……」


 どうやらネアンはずっと激痛を我慢していたようだ。それを見てさなえが心配そうに長老に問うた。


「長老様、ネアンさんの腕はどういう状態なんですか……?」

「説明は難しいんじゃが……簡単に言うと大きな力を使った反動じゃな……闘気で焼けている事から剣技かの?」


(凄いな……闘気でなった事までわかるのか……)

「ええ、その通りです。剣技を腕で放ってしまって……」

「剣技を腕で!? 全く大馬鹿者め……剣技の代償は剣が受けてくれるからこそ使える技じゃ。それを腕で放つとは……」


(確かに……闘気を剣に込めすぎて剣がバラバラになった事もあったな……それを腕にしてしまってたわけか……)

「あはは、そうですね。改めて剣の大切さを身で感じましたよ……」

「そんなこと言ってる場合か全く……とにかくまずはその激痛だけでも抑えよう」


 長老はそう言って魔法陣を描き始めた。


(ヒーリングライト……? いや知らない術式が入っているな……)


 ネアンはその魔法陣をじっくりと観察した。


「凄いですね……光魔法を使える人は滅多に居ないと聞きました」

「ほう……魔法陣をみて属性が分かるのかい」

「見る限りヒーリングライトに近いですが、違う部分をある……興味深いですね」

「魔法陣に興味を持つ奴なんて久しぶりにみるわい……よし、描けたぞ」


 魔法陣を描き終えた長老は、カバンから植物を取り出した。


「それは……[トゲトゲ草]ですよね?」

「その通りじゃ」


 長老は魔法陣の上にトゲトゲ草を置いた。


「さ、腕を出すんじゃ」


 ネアンは言われるがままに魔法陣の上に腕を差し出した。


「……きえい!」


 長老はネアンの腕を魔法陣と自身の掌で挟むようにかざし、静かに叫んだ。


――シュゥゥゥ……


「こ、これは……!」


 魔法陣の上にあったトゲトゲ草が光り、ふわっと粒子化していった。


「何これきれーい!」


 魔法陣と長老の掌の間を粒子は綺麗に列をなし回っている。

 その粒子は、徐々にネアンの腕に優しく触れて吸収されていった。


「この粒子が入りきるまでそのままにするんじゃ」

「なんですかこの魔法は……!」


 ネアンは痛みを忘れ、この魔法に興味津々だ。


「[シナジースペル]じゃ。新生魔法の一種じゃよ」

「[シナジースペル]……! 初めて聞く単語だ……」

「そりゃそうじゃろう。使える人は殆どいないし、そもそも知っている人も数少ない……」

「長老はこの力を使って、ここにオアシスを作り、村を作ったんですよ」


 フーちゃんの父親はそう言った。


 シナジースペル……

 魔法陣の上にその魔法の効果を高めるための材料を置き、魔法を発動させる。

 それにより、単一で発動するより効果が大きくなったり、別の効果が付与されるなど相乗効果が発生する。


 今回の魔法は、ヒーリングライトにシナジースペルを追記し、トゲトゲ草を置いた上で発動する。

 通常のヒーリングライトより治癒力の高い魔法が発生する。


「凄いですね……魔法と魔法をかけ合わせる事はやってきたけれど、魔法と素材をかけ合わせて効果を高めて発動するなんて思いつきもしなかった……私の昔の知り合いが喜んで研究を始めそうな魔法です」

「ふぉっふぉ。この魔法の凄さを理解できる者に出会えて嬉しいわい。無知な奴にとっては派手な魔法が凄い! 程度しか思ってないからのう。というよりわしは魔法と魔法をかけ合わせると言うとんでもない試みの方が気になるがの……」

「この凄さを理解できないなんてある意味可哀そうだね……さなえ、ツグユ! この魔法陣しっかりと見ておくんだよ。いずれ練習するかもしれないからね!」

「はい!」


「おや。二人も魔法の勉強中なんだね」

「うん! 古代魔法の勉強をしてるの!」

「そうだねぇ。新生魔法はシナジースペル以外はとんでもなく魔力を使うから、正しい学び方じゃ。この人の教え方が良いんじゃな!」

「有難うございます。でも私は知っている知識を教えているだけ……それを難なくやって見せる二人が凄いんです」


「えへへ……褒められちゃった!」


「さて……そろそろ痛みがましになっただろう?」

「凄い……少し治まりました」


 魔法陣は光を失い、消滅しそうになったが、長老は新たにトゲトゲ草を追加し、その光を復活させた。


「トゲトゲ草には鎮痛作用があるんじゃ。それをヒーリングライトに合わせる事でその成分をより効率よく吸収できたんじゃよ」

「成程……ですが……」


 ネアンは痛みは無くなったが、焦げたままの腕を見た。


「見たらわかると思うが……まだ完治はしておらん」

「もしかしてこれ以上は治せないのでしょうか……」

「いや……方法はある! が……」


「言ってください。出来る事であれば何でもします」

「あたしからもお願いします! どうか、ネアンさんの腕を治してください……!」

「お願いおばあちゃん!」


 さなえとツグユも長老に懇願した。それをみて長老は、迷いながらも話し始めた。


「うーむ、方法自体は簡単じゃ。さっきのシナジースペルで、トゲトゲ草では無く緑水晶を使えばきっと完治できるじゃろう」

「緑水晶……!」

「そうじゃ……3人は恩人じゃ。それを使って治してやりたいのだが肝心の緑水晶がずっとなくてな……」


 長老がそう言うと、フーちゃんの父親が立ち上がった。


「ならば僕が取りに行きますよ! 次はきっと――」

「馬鹿者! 魔装魂無しであの毒瘴気には耐えられん! お前の親父さんと同じ末路となるぞ……」

「しかし……!」


 長老とフーちゃんの父親が言い合い始めてしまったが、ネアンはそれを割って質問した。


「あの……どこかに取りに行けばあるんですね? 今の感じだと……」

「ああ、ここより南……岩山の洞窟ダンジョンの中に生えとるんじゃ」

「魔装魂……私は纏えます。私が取りに行きます」

「待つんじゃ。なら今纏ってみるが良い」


「え? ええ……」


 ネアンはずっと魔装魂を張っている。だが、今の自分が魔装魂を纏っていない事に気がつき驚いた。

 早速すぐに纏おうとしたが……。


「あれ……! 纏えない……」

「……そうじゃろうな。魔装魂は心体共に完璧な状態じゃ無ければ纏えん。わしもこの歳になってからは一切纏えんしな……わしが若ければ取りに行けたんじゃが……!」

「いや……そんなはずは……昔は纏えたのに――」


 ネアンはそう思ったがすぐに纏えない理由が予想できた。


(そうか……昔と違って魂片が殆ど空気中に漂っていない……昔は空気中の力も借りながら纏っていたんだ……)


「くそ……ならどうすれば……」

「あたし達が取りに行きますよ!」


 さなえとツグユが手を挙げた。


「いや……何を言っているんだ! 魔装魂はまだちゃんと教えて――」


(さなえ・ツグユ)――魔装魂!


「……!」

「こりゃ驚いた……かなり練度が高い魔装魂じゃ……! 魔力比率が高いが、毒瘴気にはうってつけじゃ!」

「二人とも……いつの間に」


「ふふん。ネアンさんが商売している時、二人で頑張りましたからね!」

「うん! お兄ちゃんを驚かせようと思ってたんだ!」

「あはは……凄いよ二人とも……!」

「だから任せて!」

「しかし……」

「ネアンさん! たまにはあたし達にもネアンさんを助けさせてください……ネアンさんがこのまま治らない方がつらいです……もし悪化して何かあったら……」


 さなえは真剣な表情でネアンに言った。


「お兄ちゃん! 大丈夫だよ。ツグユ達はかなり強くなったんだから!」

「お願いします! あたし達に行かせてください!」


(昔……こうやって父を困らせた事があったな……一度言い出すと私も曲げる事は無かったっけ……)

「……ふふ」

「ネアンさん?」


「いや……なんか昔の自分を思い出しただけだよ」


 ネアンはそう言うと改めて二人を見た。


「わかった。じゃぁ頼むよ。ただ、危険と判断したらすぐに戻る事……いいね?」

「ええ、分かっていますよ!」

「頑張るよ!」


「話は決まったようじゃな……おい、手前まで案内してやるんじゃ」

「分かりました! では二人とも、準備が出来たら言って下さい」

「ええ、ではネアンさん、大人しく待っていてくださいね」

「……わかったよ」


 そうしてさなえとツグユは出かける準備をし始めた。

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