19話 フォーム2
――翌朝
「おはよ……ん? フーちゃんは?」
朝起きると、フーちゃんの姿が見えなかった。
「あの子……結構勝手に動くね……」
ネアンはそう言ってツリーハウスから降りた。
「さて……お?」
フーちゃんを探そうとした瞬間、走って戻ってくる姿が見えた。
「フーちゃん、あんまり勝手に動かないでね? 危ないかもしれないから……」
「ごめんなさい! 外来種がまた出たの」
「え! ……どこだい?」
「昨日の夜食事をしたところ……荷物を持ってこようと思って……」
「そうだったんだね。荷物は私が取りに行くよ」
「うん……」
「とりあえずツリーハウスで待っててね」
そういってネアンはその場所を目指した。
・・・
(おいおい……背中にリングが二つ……フォーム2じゃないか……!)
最悪な事態である。
フォーム2の外来種がネアン達の荷物付近をふらふらと徘徊しているのだ。
(武器を持たなければ……敵意を見せなければ大丈夫か……)
ネアンはそう考え、服を脱ぎ捨てた。
(全裸になれば文句はあるまい……!)
素っ裸になったネアンはフォーム2にゆっくりと近づいていく……
(よし……大丈夫そうだな……)
ゆっくりと荷物の元へと来た瞬間、ネアンと外来種は目が合った。
――ゴォォォ!!
外来種は手に持っている剣を振り上げ、ネアンへ攻撃し始めた。
――バンッ!!!
「うそだろ!! 敵意も武器も何もないのにッ!」
その声虚しく、外来種フォーム2は攻撃を辞めない。
「ちっ……!」
(ネアン)――ディスオーダーマジック・ペイン
光速の光魔法を機動力とし、超高威力の闇属性の槍を無数に放つ。
ネアンは復活してから初めて戦うフォーム2にも魔法を放ってみた。
――シュゥゥゥ……
「やはりダメか……」
魔法は音も無く消失し、フォーム2は無傷のままだった。
「くそ……手刀で何とかするしかない……!」
ネアンはいつもの通り、手を手刀にし、攻撃の体制をとった。
――魔装・一閃!!
斬りかかってくるフォーム2の攻撃を掻い潜り、一閃を放った。
しかし……
――ガッ!
「クッ――!」
フォーム2の装甲は手刀の一閃では傷一つ付かなかった。
「どうする……!」
指がおかしな方向に曲がっている右手を瞬時にヒーリングライトで治し、再び臨戦態勢を取った。
(剣があれば天級の剣技を……いや、迷っている場合では無いッ!)
ネアンは力を込めた。その時、その姿をさなえやツグユは木の陰から覗いていた。
(何故全裸なのでしょうか……それより……あの外来種は一体……今までより遥かに恐ろしい気配です……!)
「ツグユ達が助けないと!」
「駄目です! あたしたちが行っても邪魔になるだけです……!」
さなえは飛び出そうとしたツグユを制止した。
・・・
「はぁ……!」
(ネアン)――天衣・無明法典
ネアンからとてつもない力が溢れ出した。それと同時に背中に4つの翼が現れた。
(あれは……種族の勉強で一度見せて頂いた……天衣……!)
「いくぞ……!」
ネアンはそう言って、目にもとまらぬ速さでフォーム2と間合いを詰めた。
「食らえ――ッ!」
(ネアン)――天冥・刻印
手で触れた相手に魔法陣の様な刻印を刻む。
――パンッ!
ネアンはフォーム2に対して掌打……フォーム2は吹き飛んでいった。
しかし、フォーム2には傷一つ無い……。
掌打を打った場所に魔法陣が一つ付いているだけである。
(外来種は無傷……一切ダメージが無いのですか……!)
「準備は出来た……後はこの剣技を手刀で放てるか……」
ネアンは右手を剣に見立て、居合いの構えを取った。
その手にはさなえたちが見た事もない大きな力が溜まっている。
(何て恐ろしい力ですか……!)
さなえは畏怖しながら、ツグユは目を輝かせながらその光景を見ている。
「これで倒れてくれッ!」
(ネアン)――天冥・刻印一閃!!
剣を180度振り切る。範囲内の刻印された者に対してのみ、その180度の一閃分のダメージ全てを負わせる。刻印は一つ消滅する。
ダメージは身体に直接刻み込まれる。
――グガァァァ!!
フォーム2の身体には無数の切り傷が刻み込まれ、そのまま消滅していった。
振り切ると同時にネアンの右手は、肩まで真っ黒に焦げたような状態になっており、手の指は原形をとどめていない程にぐちゃぐちゃになっていた。
「直接身体に与えるダメージは吸収されない様だね……」
「ネアンさん!!」
その消滅を確認後、さなえたちはすぐにこちらへ向かってきた。
「ああ……見られてたんだね……」
「はい……あのとりあえず……」
「あははは! お兄ちゃん真っ裸!」
ネアンはすぐに我に返り、自身の状態を思い出した。
「わっ! ごめんよ! 通報しないでね!」
「通報ってどこにですか! まったく……」
さなえはそう言っているが、ガッツリとネアンの股間を凝視していたのだった……。
「ただ右腕が一切動かない……先にヒールさせてくれ……」
そういってネアンはいつもの様に手にヒーリングライトをかけたが……。
「いって……! あれ……」
ネアンは何度もヒーリングライトをかけるも、腕が一向に治らず焦げたままだ。
指は元の状態に戻ったようだが、痛みで動かす事ができない。
「これは……まずいな」
「治らないんですか……?」
「ああ、形はどうにか戻ったけどこの黒いのが治らないし焼けるように痛い……!」
ネアンは応急処置として包帯をぐるぐるに巻き自身の氷魔法で包帯を冷やした。
「くそ……古代魔法さえ外来種に効果があればまったく問題なかったんだけどね……」
(フォーム2でこれだ……それ以上が……もし現れたら太刀打ちできない)
ネアンは自身の右腕をみた。
(剣も手刀を越える強度の物を用意できる気がしない……やはり、新生魔法が必要なのか……?)
「お兄ちゃん、ばあちゃんならそれ治せるかも」
「それって……この腕?」
ネアンがそう聞くと、フーちゃんは大きく頷いた。
「それだったら本当に助かるよ……新手に会う前に早く村を目指そう……!」
「うん! こっちだよ!」
一行はネアンの右手の心配をする間もなく、フーちゃんたちの村を目指した。




