18話 少女救出
――現在
「成程……じゃぁここへは突然連れてこられたわけなんだね……」
「うん……お母さんに会いたいよ……」
食事を取りながらこの少女から色々な話を聞く事ができた。
どうやら外で遊んでいる時に突然知らない大人に捕まってそのまま連れ去られてしまったようだ。
「お家の場所は分かるかな?」
「サンレイ領にある西の村……」
「なるほど、3人とも同じ所かい?」
「うん」
「わかった。じゃぁそこへ私が連れて行くよ」
「ほんと!」
少女の暗い顔が少し明るくなった。
「ああ、お母さんに会いに行こう」
「嬉しい! ありがと!」
「と言う訳で……さなえとツグユ、お留守番を――」
「いや! 一緒に行く!」
「右に同じです」
二人は食い気味にネアンに言った。
「……まぁこうなる事は予想できたよ……」
「りょっこう、旅行ー!」
ツグユはもう行く気満々、さなえは出かける準備を始めている……」
「まぁ……サンレイ領まで列車で行けるし、危険はないか……」
そういって二人を置いて行くのを諦めたネアンだった……。
・・・
・・
・
――二日後 商業都市 駅
「相変わらず活気のある駅だね」
「というより、ゼンレって人には何も言わずに行ってもいいんですかね?」
「大丈夫、入り口までは行ったんだけど、諸事情により当分閉鎖ってなってたよ」
「そうだったんですね……」
(しかし……死人も出ているはずだし、外来種が現れるなんて大事件……何故号外やニュースに一切出ないのか……)
「ネアンさん、乗車券買わないとですよ!」
「ああ、そうだね」
商業都市からサンレイ領までは一人白20枚で行く事ができる。今となっては十分に支払える金額である。
ネアンは6人分の乗車券を購入し、列車を待った。
「子供料金が欲しいですね……」
「本当だよ。二人が留守番してくれれば白40枚は浮いたんだけどね……」
「ひどいですネアンさん! こんな幼い子二人残して遊びに行くなんてっ!」
さなえはワザとらしく怒った。
「……遊びに行く訳では無いんだけどね……」
「お兄ちゃん! 列車来たよ!」
「さて、乗るよ」
そうして6人は列車に乗車し、サンレイ領を目指した。
・・・
・・
・
――サンレイ駅に到着しました。
サンレイ領……サンレイ城が管理する領地である。城下町や城付近は平原地帯なのだが、少し外れると砂漠の様な砂地が広がる。城は中央都市寄りの場所にある為、中央都市との交易は活発的に行われている。
交易品としてよく出るのは砂漠地帯でしか生息出来ないサボテンみたいな植物、[トゲトゲ草]であり、薬の原料となるそうだ
「2時間ちょっとでここまで来れたね」
「森より近いんですね~」
「3人とも、迷子にならない様にねっ!」
ツグユは少女3人の先導役をしている。どうやら少しだけ身長が高く、歳が上っぽいからかお姉ちゃん気分のようだ。
「さて……家がどっちの方向か分かる?」
「うん、こっちのほう」
「……分かった。とりあえずこっち方面に向かおうか」
「いや、ネアンさん!? いきなり道から外れて道なき道になりますけど!」
「ああ、でもきっとこっちなんだろう……」
「そうですか……」
さなえが驚くのも無理はなかった。
目の前には舗装された石畳の道があるのにもかかわらず、いきなりそこから外れて砂地を指したからである。
「じゃぁ行くよー水分補給はしっかりするようにね」
「はーい!」
そうしてネアン一行は砂漠を歩き始めた。
・・・
・・
・
「あついー!」
「ですね……水、ちゃんと飲むんですよ」
「この砂山の先にオアシスがあるよ」
少女は先に砂山を駆け上り指を指した。
「成程……少しそこで休憩しようか。それまで頑張ろうね」
ツグユはさっきから暑さで参っているようだが、少女3人は平然としている。
(ここで生まれ育ったから平気なのだろうか……)
そんな事を考えながら、砂山を登り切った。すると、目の前には草木が生い茂るオアシスが現れた。
「おお! すごい! あそこだけ水とかが沸いてるよ!」
「うんうん。あそこで少し休憩しようね」
ツグユは元気を取り戻し、また元気よく歩み始めた。
・・・
「ふうー……」
「つかれたああ!」
「二人ともお疲れ様」
ツグユとさなえはオアシスについた瞬間地面に腰かけた。
オアシスと言っているが、広葉樹がたくさん生えており、この一帯だけは森林の様である。
二人に水と乾燥した肉を先に渡し、続いて3人の少女の分を準備した。
「よし……あれ? 3人どこ行った!?」
ネアンは一瞬焦ったが、気配を辿り、居る位置を確認できた。
だが……
「皆ごはんが――」
ネアンはそう言いかけた瞬間、屈んで気配を消した。
少女と一緒に外来種が1体近くに居たのだ。
(なんでまたこんな所に……! 外来種……!)
だが、その外来種の様子はいつもと違う。
3人の少女はその外来種に触ったり、足を掴んだりして遊んでいるが、外来種はふらふらと移動しているだけなのだ。
(うそ……危なすぎるだろ!! くそ、下手に出て、攻撃をすれば余計に危ない……どうすれば……!)
そんな事を考えている最中、一人の少女が大きめの木の棒を手に取った。
外来種がその姿を見た瞬間、様子は一変した。
――グォォォ!!
突然目を光らせ、木の棒を持った少女に剣を振り上げた。
「危ない!!」
(ネアン)――魔装・一閃!
――ザンッ!!
「お、お兄ちゃん……!」
少女をカバーしながら外来種に剣技を放った。
「よかった……怪我はないね……てか、あいつは凄く危険なんだ。見つけたら絶対にバレないように私に報告してね。わかった?」
「う、うん……」
ネアンは毎度の様に攻撃後にズタボロになる自身の手にヒーリングライトをかけつつ、消えゆく外来種を眺めた。
(木の棒……それを武器と認識し、攻撃者と判断したのか……?)
ネアンは一つの仮説に行きついていた。
(武器に見える物を手に持たず、攻撃の意思を見せなければ襲ってこないのではないか……?)
「ネアンさん! 大きな音がしましたけど大丈夫ですか!」
「さなえ……大丈夫だよ。また外来種が出ただけだ……」
「!? またですか……最近よく見ますね……」
「ああ、より気を引き締めて行かないとな。こうなってくると最早いつ現れるか見当もつかない……」
「怖いですね……」
「とりあえず、食事にしよう」
そうして一行は気を取り直し、食事をとった。
・・・
「もう辺りは暗いね」
「ですね。ツグユも眠そうですし、今日はここで野宿が無難かもしれませんね」
「お兄ちゃん、寝るのはこっちだよ」
「え?」
さなえと話している時、少女が服を引っ張った。
「おお……」
少女に連れてこられたところには、大きい広葉樹の上に建てられたツリーハウスがあった。
「おお、凄いねこれ……」
「わー! 木の上にお家があるよ!」
「ここから登れる」
少女はそう言いながらそこにあった、ロープを持ちながら、木に打ち付けられた板に足をかけ、手慣れた様子で上がっていった。
話せない二人の少女もそれに続いた。
「私達も登ろうか」
「アスレチックみたいだね!」
「高い所はそんなに得意では無いのですが……」
そういって少女に続いてネアン達もツリーハウスへと登った。
「思ってたより広いんだね」
ツリーハウスの中は6人くらいなら余裕で寝られる程のサイズだった。
「いい感じに涼しい場所ですね」
「フーちゃん凄い所知ってるんだね!」
「フーちゃん……? あ……」
(そういえば少女たちの名前を聞いていなかったな……)
「ここは列車に行くときいつも使ってた」
「そういう事だったんだね」
「う……ん」
少女はそう言いながらもかなり眠そうな様子だ。
「さて、とにかく出発は明日だ。今日はもう寝よう」
「はーい。おやすみなさい……」
そうして一行は眠りについた……。




