14話 誘い
――夕方過ぎ……
「旦那、時間だ!」
「そんな時間か。二人とも今日もお疲れ様」
「え! もう終わりですか……結局今日も上級は書けないまま……」
「ツグユ悔しい……」
「大丈夫さ! きっとやっていればできるようになるよ」
いつも通りに片づけを終え、帰ろうとしたその時だった。
「失礼。ここ最近ここでスペルカード書いて売っている人は君たちかな?」
「え?」
目の前にはこの場所には全く似合わないピシッとスーツが決まった男性が立っていた。
よこでおじいさんはかなり驚いた様子でその男を見ている。
「えっと、貴方は?」
「おっと失礼。僕はこの闇露店通りなどを仕切っている組織の一人だ。今日はスペルカードを売っている方に話がありここへ来た。悪い話ではないよ」
「……その売っている人は私だ」
ネアンは少し警戒しつつ、探している人物が自身という事を明かした。
「やはりそうだったか。まぁ恐ろしい程の魔力を持っている時点で君しかいないと思っていたけどね。次点で後ろのエルフ二人……って所か」
(こいつ……私の魔力の量が分かるのか……?)
「最初に言っておくけど、何かの勧誘とかならお断りだ」
「勧誘……いや違うな。これは命令に近い……が悪い話では無い。何度も言うがね」
「旦那……ここは大人しく言う事を聞いた方が良い。ここを取り仕切っている奴……それは間違いない。赤いバラのピンバッジが証拠だ……」
おじいさんは小声でネアンに伝えた。確かに襟には目立つ赤いバラのバッジが光っていた。
「……とにかく要件は聞くよ」
「ありがとう。まぁ難しい話では無い。ここでは無くもっと良い露店場所があってね……明日からはそこで営業して欲しい。場所代も不要だ」
「……それはかなり魅力的な話な気もするね」
「だろう? まぁどちらにしても選択権は君にない。これは命令だからね。ここらで商売を出来なくなるか、そこで商売を続けるか……選ぶと良い」
「なるほど……その二択なんだね」
「旦那……大人しく行った方が良い」
「だが、あんたの客である私が居なくなるんだよ?」
「大丈夫さ。今までもずっとやってきたんだ。前と同じに戻るだけさ」
「……そうかい」
「さぁどうする?」
「行きな。旦那!」
「……そうだね。その良い場所とやらで沢山稼げたら酒の一杯でも奢るよ」
「はっは! 有難いねえ。楽しみにしておくよ」
「つまり承諾という事で良いね?」
「そうだね。次回からはそちらで営業しよう。だが、明後日からでいいか? もう売り物が無くてね……仕入れないとダメなんだ」
「承知した。では明後日、このあたりで僕は待っているよ」
「わかった」
そういってネアン達は解散、宿へと戻っていった。
・・・
・・
・
「新しい露店……どんな所なんでしょうね」
「うーん……まったく想像つかないね」
ネアン達は宿に戻り、くつろいでいる。
ツグユはすでに夢の中だ。
「とにかく明日はスペルカードを仕入れないとな……」
「ですね。後10枚ですよね」
「だね。今の所、かなり順調に稼げているよ」
そういってネアンはまるまる太った財布とデバシーを見た。
残金[黒80枚と白50枚]
「明日、スペルカードを仕入れて魔法装具も購入してしまおうか。少しでも自身を保護できるしね」
「ならもう中央都市に近いうちに行くんですか?」
「いや、もう少ししっかり稼がせてもらってから向かう事にしようか。中央都市では同じような商売は出来ないだろうし……」
「そうですね。あたしもそう思ってました」
「さて、明日も忙しいよ。今日はもう寝よう」
「はい。あの! ネアンさん……」
「今日は一緒のベッドで寝ませんか!」
「え?」
ネアンは一瞬困惑しそうになったが、誰かが死ぬところを見て恐怖している事を思い出した。
(怖いんだろうな……)
「いいよ。おいで、さなえ」
「ネアンさんっ!」
さなえはネアンのベッドにもぐりこみ
そのまま2人は眠りについた……。
・・・
・・
・
――翌朝 雑貨装飾通り
「お、お客さん! 待ってましたよ!」
「その反応……無地のカードは仕入れられたのかな?」
「ええ勿論ですよ!」
「おお、何枚程?」
「ざっと5000枚程ありますよ!」
「なら……黒5か。頂くよ」
「有難うございます!!」
(かなりの量だけど、デバシーに入るから問題なしだな……)
「ありがとうね。これで当分大丈夫だ!」
「いえいえ! またお待ちしてます!」
そういってスペルカード屋を後にした。
「こんな枚数……持ち歩くのも大変ですね……」
「え? 大丈夫だよ。これがあるからね」
「あ、デバシーですね。すっかり忘れてました……」
そう言ってネアンはデバシーを取り出し、次元倉庫を起動。
5000枚の無地スペルカードを全て収納した。
「すごい機械ですよね、本当に……」
「ああ、正直凄く助かってるよ。私達がこんな手ぶらに近い状態で居られるのもデバシーのおかげだね」
デバシーの便利さを再認識したところで、商業都市ギルドへと向かって行った。
「いらっしゃいませ」
「こんにちは。魔法装具の購入と、ギルド登録をお願いしたい」
「貴方はこの前……3名様分だと黒60枚ですが……」
「ちゃんと用意しているよ」
「はい確かに! ではですね……」
そういって受付の人は3枚の紙をネアンに手渡した。
「ここに名前と種族、現在住んでいる領地を書いてください。魔法装具に紐づけます」
「わかりました」
そういってそれぞれの名前を紙に書き、住まいは始まりの森と書いた。
(種族は私が天族で、二人はエルフ族だな……)
一通り書き終え、紙を受付に返却した。
「……」
「あの、なにか?」
受付の人は怖い顔で睨んできた。
「エルフのお二人はこれで大丈夫ですが……ネアンさん? は本当の情報ですか? これ」
「え? ええ、偽りなどないですが……」
「はぁ……たまに居るんですよね。紙だから何かいても平気だろって人。ちょっと来てもらえますか?」
「え? なんで!?」
そういってネアンは受付の女性に連れ去られた。
・・・
「さ、ここに座ってください」
そういって連れてこられたのは背もたれのついた椅子で、ベルトがついている。
まるで電気椅子の様なフォルムだ……。
(え……拷問でもされるのかなこれ……)
「ではまず質問します。貴方の名前は?」
受付の人は、片手に水晶の様な物を持ちながらネアンに問うた。
「はい、私はネアンです」
「……」
受付の方は水晶を見つめ、しばらく沈黙した後、次の質問をした。
「貴方の種族は?」
「天族です」
「……」
同じく水晶をじーっと見つめた。
「……ネアンさんこの水晶をもって私に種族は? と聞いてください」
「はぁ……」
ネアンは言われるがままに水晶を持ち、質問した。
「あなたの種族は?」
(どう見てもヒト族だけどな……)
「獣人族です」
「……え?」
ネアンが少し声を漏らした瞬間、水晶が真っ赤に光りはじめた。
「壊れてないようですね……」
「嘘をついたら赤く光るみたいな感じかな?」
「ええ、仰る通りです……貴方は嘘をついてません……」
「というより、これって全員にやらない感じなの?」
「思いっきり嘘と思った時にやる位ですよ?」
「そうなんですね……」
(これ、全員やるべきじゃないかな……)
受付の方はその後すぐに立ち上がり、ネアンに頭を下げた。
「失礼しました! 全て本当の事だったんですね……というより私! 初めて天族の方とお会いしましたぁ!」
「あ、そうなんだね……とりあえず戻っていいかな? 二人が心配するし……」
「ええ、そうですね。すいませんこちらです」
そういってネアンは元の受付場所へと戻ってきた。
「あ、ネアンさん! 大丈夫でしたか?」
「大丈夫だよ。ちょっと誤解されてしまったみたいでね。名前が星と一緒だからさ……」
「本当に失礼いたしました……」
「いえいえ、とにかく問題は無しだね!」
「ええ、もちろんです。では申請を受理致しましたので、完成後お渡しさせて頂きます」
「完成後って事は……すぐにはもらえない訳だね。いつ頃いただけるのかな?」
「そうですね……大体3カ月程でしょうか」
「結構かかるんだね……」
「でも、早く仕上がるときもあるんで、定期的にこちらへ来てくださいね」
「わかったよ。じゃぁ私達はこれで」
ネアン達はその後、食事を取ってまた宿へと帰っていった。
残金[黒15枚と白20枚]




