11話 仕入れ
――3日後 夕方
「おう! 時間になったぞ!」
「ああ、もうそんな時間なんだね。二人とも、荷物をまとめて帰るよ~」
「はーい!」
今日で5日目の露店が終わった。
ネアンは改めて財布や在庫を確認した。
(黒40枚と白30枚か……)
日本円で40万円と3千円程であり、たった5日でこの金額は相当だと言えよう。
「上級魔法を買った人から噂を聞いて、地下ダンジョンに潜る人がちょいちょい上級を買いに来るようになって、利益が上がりましたね」
「そうだな……やっぱり、こんな露店は噂で客が増える事が多いんだろうな」
ネアンはそう言いながらカードを入れた箱を確認した。
「カードの残りももう30枚になってしまった。新しく仕入れたり色々しないとね……」
「ですね!」
「と言う訳でおじいさん、明日は露店休むよ」
「な! そうか、残念だな……まぁ元より明日の確約を貰えてただけ有難い話だった」
「ただ、明日は白10枚払っておくから誰にも貸さないでもらいたいんだが良いかな?」
「え!? そんなもん願ったりかなったりだが……一体何故?」
「まぁまぁ、色々理由はあるんだけどね。どうかな? ただ、お客がうちの事で質問してきたら明日はやってると答えて欲しい」
「いや、もちろん構わんよ。10枚も貰えるなら、わしが明日はずっと座っておこう」
そういってネアンは白10枚を手渡し、明日は誰にも貸さないと約束をつけた。
・・・
・・
・
「ねぇ明日は露店行かないんでしょ? 何でお金払ったの? しかもいつもより多く!」
「ツグユちゃん、私達の露店は幸いな事に噂によってお客さんが増えたよね?」
「うんうん!」
「でもあの場所は普段、毎日店が変わるような場所だ」
「うん!」
「でもお客さんは、もしうちのお店を気に入ってくれたら、あの場所でまたうちの店をやってないかな? と顔を出してくれる訳なんだよ」
「うーんうん……」
「そこが違う店になっていれば、もう居なくなったんだと来なくなる可能性もあるけど、おじいさんに場所を任せていれば、今日が休みなだけと説明してくれる」
「リピーターを安心させてあげるって事ですね」
「そんな感じだね!」
去り際、ふと後ろを見るとおじいさんと二人の獣人が会話をしていた。
ネアンはその二人の獣人には見覚えがある様子だった。
(……少し釘をさしておくか……)
・・・
・・
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――その夜
「あれ、ネアンさんこんな夜に出かけるんですか?」
「ああ、ちょっとだけね。二人は先に寝ておいて」
「……分かりました」
(ネアン)――シャドウウォーク
自身の周りを影で覆い辺りに気配を溶け込ます。
ネアンは宿を出るとすぐに気配を消し、闇露店へと向かって行った。
「あんた、最近は固定客が居ていいなぁ」
「はっは! 本当に美味しい話だ。明日なんて使わないけど、場所をとっといてくれって白10枚渡して来たんだ」
「ほう、なら律義に店番するのか?」
闇露店のネアンが出店している場所にはおじいさんは横で場所をとっている人と酒を飲みながら話をしていた。
「がっはっは! する訳ねえだろ! すげえ美味い話が降りて来てよぉ。ぼろっちいスペルカードを売ってる二人……いるだろ?」
「ああ、居るな」
「あいつらが明日白20でこの場所を貸してくれって言っててよ! 快諾したって訳だ」
「ほう、何でまたそんな高額で?」
「それがよー。あのエルフ連れの店のふりして一儲けしようって作戦だそうだ。何かあってもクレームは次の日あいつらに行くだろ? まぁ顔が割れてるのにどうするのか見ものだがな……」
「はっは! 他人のクレームを受けるなんてとんだ災難になりそうだな!」
「まぁそんな事は知った事では――」
――ザンッ
「な……ッ!」
おじいさんの酒を入れていてコップが突然、綺麗に真っ二つになった。
――スゥ……
その直後、突然目の前には一人の男性が姿を現した。右手は手刀の形をしており、その手からは酒が滴り落ちている。
「あんたは……! 目の前に突然どうやって……というか、コップを手で斬ったのか!?」
少しうろたえるおじいさんを無視してネアンは話し始めた。
「今の話……明日の話では無いよね? 私達の事でなければどうでもいいのだけど……」
「盗み聞きか! あんたも――」
(ネアン)――アイススパイク
ウォータースプラッシュに形態、形状変化、状況によって移動術式を追加
氷の刃を魔法陣から出現させる。
「ひぃ……!」
無数の氷の刃がおじいさんの顔をかすめた。
「これは脅しじゃない。現に私の姿は目の前まで視認できなかったね? 大抵の人は"あの状態"の私に気付く事ができない……人混みに居ようと……スペルシールドが無い貴方は突然の痛みで床に伏せる事になるかもしれないね。まぁ、明日の貴方の動き次第だが……」
「ああ、わかった……悪かった……金も返して明日は店番に徹する……どうか許してくれ……」
――バリンッ!!
おじいさんがそう言うと、周囲を囲っていた氷が全て壊れ、消えていった。
「分かってもらえて嬉しいよ。さっきのような形で明日は様子を見に来るよ」
ネアンはにっこりと笑顔を見せ、また闇に溶ける様に姿を消した。
「お。恐ろしい奴だ……」
「おいやめろ! まだ近くにいるかも知れない……」
・・・
・・
・
――翌日
「ネアンさん、いつ帰って来てたんですか?」
「多分、1時間程で戻ってきたよ?」
「そうでしたか」
「二人とも早く行こ―!」
「ああ、今行くよ。忘れ物は無いね? もうここには戻らないからね」
「大丈夫ですよ。さぁ、行きましょう」
そういって3人は宿を出た。
今日でこの宿との契約は終了し、長期契約が可能な、ウィークリーマンション形式で契約が出来る場所を探すようだ。
「今日は無地カードを仕入れて、宿を探して……可能であれば剣も欲しいね」
「まぁ商店のある通りへ行けば、すぐに見つかりますよ! さぁ行きましょう!」
「うん! お買い物楽しみ!」
二人ともわくわくしているのが目に見えて分かる。
(修行と店番続きでストレスも溜まっていただろう……いい息抜きになればいいけどね)
「無地カードは……装飾雑貨通りにありそうだね」
ネアンは地図を広げた。
通りは大きく分けて3本……今は食彩通りの近くにいるようだ。
3本の大きな通りはY字状に、中央で交わるようになっており、食彩通りを真っ直ぐ抜けると、装飾雑貨通りと武具通りに入る事ができる。
「今日も賑やかですね」
「うん! 楽しい雰囲気だね!」
食彩通りを歩いていると、甘い匂いと宣伝文句が聞こえてきた。
「いらっしゃい! 女性に大人気! あまーい岩砂糖飴だよ! 今なら一つ白3枚!」
ツグユはその声のする方向をじっと見ている。
「それ3本頂けるかな?」
「ありがとう! 白9だよ!」
ネアンは9枚のコインを払い、3本の岩砂糖を受け取った。
「二人とも、どうぞ」
「いいんですか?」
「わあ……お兄ちゃんありがとう!」
「結構稼いだからね! この位楽しもうね」
岩砂糖は石の様な見た目の黒い砂糖菓子で、それを棒に突き刺して売っていた。
「おお……久しぶりの甘味ですね……!」
「あまーい! 美味しい!」
「よかった、口に合って」
岩砂糖は歯を入れるとしゃりっと崩れて口の中で溶ける。
かちわり黒糖のような味と触感である。
「うん、シンプルな甘さで体に染み渡るね……」
3人はすぐに完食し、余韻を堪能した後足を進めた。
・・・
「うわ……人で入り乱れていますね……!」
「二人とも、はぐれない様にね」
食彩通りを通り抜け、3つの通りが交わる中心へとネアン達はやってきた。
皆行きたい通りが違う為、入り乱れ、大混雑している。
「毎日こんな感じなんでしょうか……」
「どうだろうね……? とにかく、装飾雑貨通りはこっちだ。何とか入ってしまおう。後、大事な物には注意してね。治安は良い方ではないだろうし、スリとかいるかもしれない」
「分かりました!」
そういって3人はそれぞれ貴重品に注意しながら、装飾雑貨通りを目指した。
・・・
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