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10話 商売中

「つかれたー!」

「何とか宿が見つかってよかったですね……」

「そうだね」


 その部屋は扉を開けるとすぐに右には3点ユニットバス、その奥にはシングルベッドが一つ置いており、歩くスペースは殆どない。

 一人用のビジネスホテルの様な間取りだ。


「白60が一番安い部屋だったけど……完全に一人用の部屋だね」

「でも、思ったよりちゃんと綺麗な部屋ですね~」


 さなえの言う通りでもっとボロボロな宿を想像していたが、ベッドのシートは綺麗だし、部屋の掃除も行き届いている。上の通りで商売をする以上ある程度以上の宿しかないのだろう。


「まぁ何かと宿の競争率は高いんだろうしね。綺麗にしておかないと客が来ないんだろうね」

「さて、シャワーを浴びてさっさと寝よう。ツグユとさなえ、先に入っておいで」

「はーい! さなえちゃん行こ!」

「はいはい、ちょっと待ってくださいね」


 そういって二人はシャワー室の方へと入っていった。


(さて……とりあえず、明日中に必ずもう60払うと約束した上で部屋の確保は出来たが、ある程度まとまった金が出来たら長期的に泊まれる宿に移動したいな)


(とにかく、邪魔が入らなければもう少し売れるだろうし、1週間くらいは闇露店で商売で様子見だな。後、無地カードの仕入れ先も……とにかくやるべき事と出来ればやりたい事を箇条書きしておくか……)


 ネアンはデバシーにスケジュールを書きながらぶつぶつと独り言を話している。


~デバシーmemo~


最終目標:3人分の魔装具(黒60)を稼ぎ、ギルドへの登録をする。


・闇露店で商売をする。

・売り上げにもよるがまとまった金が出来次第、長期滞在用宿に移動。

・そこから闇露店か認可を貰い上で商売をする。

・無地カードの販売店を探す。


・武器の購入



(とにかく! まずはお金が必要だ……現実は厳しい……)


「ネアンさん、出ましたよー」

「あれ、早いね!」

「早いですか? 1時間くらいは入ってましたけどね~」

「シャワーぬるいのしか出なかった!」

「もうそんなに経ってたんだね。よし、私もさっとシャワーを浴びるよ」

「いってらっしゃーい」


 そういってネアンはシャワーを浴びに向かった。


・・・

・・


「はぁ~生き返る……」


 一日中埃の多い所にいた為、結構汚れていた。

 ネアンはその汚れをしっかりとシャワーで洗い流した。


――コンコンッ


「ん……? どうしたんだい?」

「お兄ちゃん……あの……トイレに行きたくて……」

「おっと! もう少し我慢できるかな!? すぐに洗うよ!」

「我慢……出来ないかも……」


 ここは、3点ユニットバスの宿で、風呂・トイレ・洗面台が同じ部屋にある。

 もちろん誰かが風呂に入っていたらトイレはその横なので丸見え……カーテンでもあればよかったのだが、ここにはそんなものは無かった……。


「えっと……じゃぁ横で私が裸だけど……許してね?」

「うん! 大丈夫! もう入るね……!」

「あっ……そんな急に……!」


 そういってツグユは力強く扉を開けてトイレに座った。

 ネアンはシャワーを止め、その姿をなるべく見ない様にしながら、終わるのを待った。


「シャワー消しちゃうの?」

「そっちにかかっちゃうからね、終わったら言ってね」


 ツグユはまだ尿意を我慢しているようだ。


「でもシャワー消しちゃうと音が……あ……」

「え?」


 その直後、ユニットバス内ではまるでシャワーをつけたかのように、勢いよく水が出る音が響き渡った。


「うぅ……恥ずかしいよ……」

「えっと……私は何も聞こえてないよ……!」


 顔を真っ赤にしたツグユはそのままパンツを穿いてすぐに立ち去って行った。


(すぐに身体を拭いて一回出ればよかったな……)


「さなえちゃーん! 恥ずかしかったよー! あれ、さなえちゃん……?」


 ツグユがすぐに出てきた後、さなえは布団に潜ってしまった。


「さなえちゃんどうしたの?」


 ツグユは容赦なく布団をめくり、さなえの姿があらわになった。


「さなえちゃん?」

「えっと……これ……はですね……」


 さなえは下着が少しずれた状態になっており、手にはネアンの脱いだ下着があった。

 顔が火照っており、少し息が上がっている。


「さなえちゃん……もしかして……」

「ツグユちゃん! この事は絶対に秘密にしてください……!」

「うん! 大丈夫だよ! ツグユもそんなところ見られたら恥ずかしいもん……」

「そんな所って……ツグユちゃんはあたしが何をしていたか……」


「どうしたんだい? 騒いで……」


 バス内から心配そうにネアンの声が聞こえた。


「んーん! 大丈夫だよ!」


 ツグユは元気よく答えた。


「ならいいんだけどね!」



(ツグユちゃん……一人でする行為をもう知ってるんですね……)

(さなえちゃん……トイレを我慢してきっと漏らしちゃったんだ……!)


 そんな小さなすれ違いがあった、夜の出来事であった……。


・・・

・・


――翌日


「さて、今日も頑張って売ろうか!」

「うん!」

「昨日みたいな長話する方に出会わなければいいのですが……」


 そんな会話をしながら荷物をまとめ、早速闇露店通りへと向かった。


・・・


「おう! 今日も来たか」

「やぁ、今日もここを借りるよ。はい、白3枚」

「へへ、まいど~。じゃぁ時間になったらまた来るわい」


 そう言っておじさんは昨日と同じくどこかへ出かけて行った。


「さて……二人とも、ただ店番するだけじゃ時間がもったいない。なので……」


 ネアンはそう言って二人に無地のカードを渡した。


「これに中級魔法を印字できるように練習しよう。とりあえず……アイススピアで練習しようか」


アイススピア

ウォーターボールに形態、形状変化、移動術式を追加し射出する。

氷の槍を放つ


「アイススピア……普通に放つのも少し苦労する魔法ですね……!」

「なら印字するとなると、より魔力が必要になってくるからさらに苦労するだろうね。でもそうやって魔力を使う事が魔力の底上げにも繋がるし、これに印字するのは良い修行になるんだよ」

「わかりました! 頑張りましょうツグユちゃん!」

「うん! 頑張る!」

「よし、じゃぁ分からない事があったらすぐに聞いてね」


 そうして、ネアンが風呂敷を広げている後ろで二人はカードに印字する練習をし始めた。


・・・


「あ、ここよ。噂おばちゃんが言ってた!」

「いらっしゃいませ」


 ネアンの前には二人の中年女性のお客さんが現れた。汚い恰好をしている訳でもなく、一般的な服装をしており上の通りで買い物をしていてもおかしくなさそうな人たちだ。


(噂おばちゃん……? 昨日のおばあさんか?)


「ここのスペルカードは安くて品質が良いって聞いたわよ。さっそくだけど、バーンファイヤ10枚とウォーターボール10枚頂けるかしら?」

「有難うございます! 少々お待ちください」


 ネアンは昨日と同じように20枚のカードを並べて光の球を無数に飛ばし、一気に印字をし始めた。


「綺麗ね……指先で描かない方法何て初めて見るわ」

「あはは、有難うございます」


 そうして20枚一瞬で描き終えたネアンは女性にカードを渡し、白10枚を受け取った。


「いやー本当に新品ね。有難う、またくるわ!」

「有難うございました!」


 そういって女性は満足そうに帰っていった。


「よし、幸先良いな!」


 すると、立て続けにお客さんがやってきた。トリガーを背負っているようだが、ギルドの警備兵がつけている支給の物とは形が違う。


「お、ここか! 噂おばさんが言ってた!」

「あ、いらっしゃいませ」


(また噂おばさん……昨日の人しか考えられないな。次見かけたらお礼を言わないとな……)


「中級魔法とかも行けるのか?」

「対応できます。もちろん上級も」

「どんな魔法もか?」

「ええ、古代魔法なら大半網羅していますよ」

「すげえな……上の正規店は上級スペルカードなんて殆ど出回らないぞ……」

「有難うございます」

「なら……アイススパイク5枚、ファイヤエクスプロージョン5枚行けるか?」

「ええ、黒10枚になりますが……」

「それならここにある!」


(冷やかしではないようだね……)


「では先に頂戴しますね」

「ああ、構わないよ!」


 ネアンはそう言った10枚のカードを取り出し、上級魔法を同じ手順で印字し始めた。


「上級魔法をたった一人でこの場で印字するのかよ!! おい、とんでもないなあんた!」

「ん? どういう事でしょうか?」

「どういう事も何も、上級魔法カードの作り方は俺の知る限りでは複数の魔法士……4~5人で時間を掛けてやっと1枚印字する方法だ」

「そうなんですね? はい10枚です。確かめてください」


 ネアンは軽く聞き流しながら10枚を手渡した。


「どれもこれも完璧なカードだ……あんたは一体何者なんだ……?」

「放浪中のただの魔法士ですよ」

「放浪中って……あんたみたいな魔法士がこんな所で商売するなんて考えられねえ……何故印字魔法士にならないんだ? まぁここで商売してくれた方が俺らは有難いけどよ……」

「印字魔法士ですか?」

「ああ、中央都市お抱えのスペルカード印字に特化した魔法士たちだ。今時、自前で魔法を使える奴なんて貴重だからな」


(今の時代……この環境だと壱百器ひゃっきの者しか魔法は使えないんだったね……魔法を使える人口が減るのも当たり前か……)


「そこで働けば給料も良いし一生安泰なのによ!」

「魅力的な話ですね……ですが、そんな所に縛られるなんてごめんです。私にはここでの商売が性に合っているようです」

「そうか……まぁそう言う人もいるよな……とにかくありがとう! これで地下ダンジョンで更に奥を目指せそうだ!」


(なるほど……ギルド支給のトリガーとは別の形の物を背負っていると思ったら、地下ダンジョンへ潜る人たちだったのか)


 ネアンは立ち去っていく男性の背中をじっと見た。


(あの人からは魔力をほとんど感じない。きっと自前で魔法は使えないのだろう……でも、今の時代はそう言った人でも装備によっては地下ダンジョンに潜れるようになった……)


(これが良い事なのかは分からない……だが、危険なのには変わらない。武装していても油断はしないで欲しいものだな……)


 ネアンはそんな事を考えながら、その男性の無事を祈った。


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